エンジンの「バルブ」ってナニ? 多い方がエライ? バイクのスペック表を読み解く!
バイクのカタログや、メーカーHPに掲載されている「スペック」や「仕様」、「諸元」の表には、購入時の参考やライバル車との性能比較など、役立つ情報が含まれています。「エンジン種類」表記の「バルブ」について解説します。
1気筒分のバルブの数を表記
市販される公道用バイクは、現在は4ストローク・エンジンが主流で、ガソリンと空気を混ぜた混合ガスを吸気→圧縮→爆発→排気してエンジンを回すために「吸気バルブ」と「排気バルブ」を備えています。スペック表の「エンジン種類」の長い文字列の中には、そのバルブの数も記載されています。

現行モデルのスペック表を見ると、ほとんどが「2バルブ」と「4バルブ」の2種類ですが、これはエンジンの1気筒分のバルブ数を表記しています。
たとえば4気筒エンジンで4バルブと記載されていたら、バルブは全部で16本あることになります。
そして4ストローク・エンジンは「吸気バルブ」と「排気バルブ」が存在するので、2バルブの場合は吸気バルブと排気バルブが1本ずつ、4バルブの場合は吸気バルブと排気バルブが2本ずつになります。
吸排気効率を高めるために、バルブの数を増やした
エンジンの性能を上げるには様々な方法がありますが、吸気と排気の効率を高めることも重要で、1回のサイクル(吸気→圧縮→爆発→排気)の中で、混合ガスをできるだけたくさん吸い込み、爆発後はスムーズに排気することが理想です。

そのためには吸気バルブと排気バルブの直径(正しくは開口面積)が大きい方が有利ですが、シリンダー(燃焼室)の直径によってバルブの直径は制限されます。そこでバルブの数を増やすことで(2バルブ→4バルブ)、バルブの開口面積を増やすワケです。またバルブの数を増やすと1本当たりが軽量になって慣性力が小さくなるため、高回転化にも有利です。
そのため、高回転・高出力化を目指すスポーツモデルのエンジンは、バルブを開閉する動弁方式の進化(OHV→OHC→DOHC)と同時に、バルブの数も2バルブから4バルブへと増加しました。
かつては3バルブや5バルブもあった!?
現行の4ストローク・エンジンは2バルブと4バルブが主流ですが、かつては3バルブ(吸気2本、排気1本)や5バルブ(吸気3本、排気2本)のエンジンも存在しました。

ホンダは1977年の「ホークII CB400T」で3バルブを採用し、その後も何種かのV型2気筒エンジンに採用し、2009年発売の「VT1300CX」も3バルブでした。ヤマハも2004年発売の原付(50cc)スクーター「ビーノ」に新開発の3バルブエンジンを搭載していました。
そしてヤマハは1985年に発売した大型スポーツモデル「FZ750」に5バルブを投入しますが、開発段階では6バルブや7バルブも試したと言われます。その後も同社の単気筒や2気筒エンジン、そしてスーパースポーツの「YZF-R1」(~2006年)も5バルブを採用しました。
バルブの数で、得意分野が変わる!
4バルブの方が高性能なイメージがあり、実際にスポーツ度が高くハイパワーなバイクは総じて4バルブですが、2バルブにもしっかりメリットがあります。

2バルブは日常的に使う低中回転域で力強い上に、アクセル操作に対してゆったりと反応するので扱いもラクです。また部品の点数が少ないので、バイクの価格が下がるメリットもあります。
対する4バルブは、高回転域では非常にパワフルですが、低回転域ではいまひとつ粘りが足りないこともあります。そして2バルブより部品点数が多いので、価格も高くなりがちです。
したがって、バルブの数は多いほどエラいというモノではなく、バイクを使うシチュエーションや乗り味の好みに合うか合わないか、と捉えた方が良いでしょう。

ちなみに、2バルブと4バルブのそれぞれの特性の“良いトコどり”のエンジンもありました。ホンダ「CB400スーパーフォア/スーパーボルドール」の4気筒エンジンには「VTEC(ブイテック)」と呼ばれる、低中回転域では2バルブ、高回転域では4バルブに切り替わる独自のバルブ制御システムが装備されていました。また近年は、バルブの開閉タイミングなどを制御して、どの回転域でも性能を発揮する「可変バルブ機構」を備えるエンジンも増えています。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。