まるで戦闘機の翼!? 「BMW S 1000 RR」の空力特性とは ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.195~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、BMWモトラッドのスーパースポーツモデル「BMW S 1000 RR」は只者ではないと言います。どういうことなのでしょうか?

これは只者ではない、見るからに戦闘力が高そう

「BMW S 1000 RR」がとてつもなくスーパーなマシンであることは、その外観を眺めるだけで想像することができます。その深く前傾したフォルムは、獲物に襲いかからんばかりに攻撃的ですし、鋭く跳ねあがったウイングは、まるで戦闘機の翼のようです。

BMW S 1000 RR(2023年型)
BMW S 1000 RR(2023年型)

 そう、僕(筆者:木下隆之)の目が吸い寄せられたのはそのウイングです。リアに跳ね上がっているのは、空力的な効果を生むのでしょう。風の流れを利用して、車体の浮き上がりを抑えているに違いありません。速さの鍵はトラクションです。駆動輪である後輪のグリップ性能を高めることはまさに、勝つための大切な要素なのです。

 それにも増して脅かされたのは、フロントのウイングです。フロントカウルに空力的な効果を生む細工を施しているバイクは最近では少なくないのですが、S1000RRのそれは、きわめて効果が高そうに思えます。

 カタログ資料によると、300km/hで17.1kgのダウンフォースを発生させるそうです。あの小さなウイングが、バイクを路面に吸い付かせるのです。

 ただし、疑問もあります。直進しているときには垂直にタイヤを路面に押し付けますが、コーナリング中は斜めに作用しますよね。すると、ちょっと間違えると横転してしまうような方向に作用するのではないかとも想像してしまうのです。もちろん優秀なエンジニアが導き出した回答ですから、軽はずみに横転するわけではないのですが、それほど強烈な空力的な効果を発揮するのですから、感心しますね。

 ちなみに4輪フォーミュラの巨大なフロントウイングは、最大で700kgほどのダウンフォースを発生すると言われています。それが証拠に、ウイングの上に人が立っても、ピクリともしなることはありません。700kgが耐えられるのですから、人ひとりは全く問題ないはずです。

 理論上の話ですが、トンネルの中、重力に逆らって天井を走ることも可能です。下向きの力が車重を上回ると、逆さにすれば飛行機と同じように上向きの力が発生するからです。

 実際にはタイヤへの荷重が少ないために、速度が低下してしまいます。永遠に天井を走行できるわけではありませんが、瞬間的ならば可能なのです。空力とは恐ろしいものです。その戦闘力は只者ではありませんよね。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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