見たことない!! ドイツで出会った奇妙なサイドカー「MZ」とは? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.197~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ドイツ滞在中にスーパーマーケットの駐車場で見かけた奇妙なスタイルの古いサイドカーが素敵だと言います。どういうことなのでしょうか?

普段使いしちゃってるよ! そのスタンスが素敵すぎる

 僕(筆者:木下隆之)がドイツに滞在中、とあるスーパーマーケットで食材を調達していた時のことです。駐車場に見慣れぬサイドカーが、バランバランと不規則なエンジン音を路面に落としながらやってきました。空冷2サイクルエンジンらしく、青味がかった白煙を巻いていました。

筆者(木下隆之)がドイツ滞在中にスーパーマーケットの駐車場で見かけた奇妙なスタイルの古いサイドカー
筆者(木下隆之)がドイツ滞在中にスーパーマーケットの駐車場で見かけた奇妙なスタイルの古いサイドカー

 バイク知識の浅い僕は、その奇妙なスタイルと装飾に目が吸い寄せられました。よくよく観察すると「MZ」のエンブレムが誇らしげです。慌ててネット検索すると、1970年初頭あたりまで旧東ドイツで生産されていた「MZ ES250 Trophy」ではないか? と思われたのです。ドレスアップの形跡もありますので、車名は不確かですが、ともあれ、とても古い希少なバイクであることは確かでしょう。

 さらに間近で眺め回すと、なかなか凝った作り込みであることが判明しました。フロントフェンダーのマスコットは立派ですし、そのものがラウンドした金属のパイプに取り付けられています。ライトカバーにはデザイン性を感じますし、排気管も小洒落ています。バーエンドウインカーは、サイドカー前提のようで左側のみです。

 そもそも東ドイツの正式名称は「ドイツ民主共和国」です。第二次世界大戦に勝利したソ連がドイツを西と東に分断しました。東側のソ連占領地域を社会主義国家としたのです。ですから、西側に比較して産業が進みませんでした。これほどしっかりとしたバイクが生産されているなど思いもしなかったのです。

 ですが、深く掘り下げていくと、現在のアウディの前身であることがわかります。ドイツの東西分断前には「DKW」というバイク・自動車メーカーがあり、それがのちに「MZ」としてバイク専業になったというのです。「DKW」は自動車ブランドとなり、その後合従連衡を繰り返しながら、現在のアウディに至るのです。

 アウディの技術力は高く評価されています。乗用車の4輪駆動システムを「クワトロ」として成功させたことがエポックですが、一方でプレミアム性の高さも評価されています。技術力と質感がアウディの魅力なのです。

 どうりで……と、決めつけるわけではありませんが、「MZ」の作り込みが確かなのも納得できます。

 ドイツにはこのような、歴史の生き字引のようなバイクがたくさん走っています。環境問題を錦の御旗に旧車を排除する法案がたびたび議論されていますが、歴史の尊さを重んじる国民が反対運動を続けています。こんなバイクを、コレクションではなく日常で使い倒しているなんて、素敵ですよね。

【画像】素敵。これは「MZ」のサイドカー?(4枚)

画像ギャラリー

Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

最新記事