時代を超える究極のバイク!? 楕円ピストン採用のホンダ「NR」とは

何年経っても色褪せない魅力を持つ究極のバイク。そう呼びたくなるホンダ「NR」は、市販車で唯一、楕円ピストンを採用したエンジンを搭載する、独創的で次世代を目指したハイグレードなロードスポーツバイクです。

市販車で唯一、楕円ピストンを採用する「NR」

 1992年に登場したホンダ「NR」は、水冷4ストロークV型4気筒DOHC8バルブエンジンを搭載しています。このエンジンが特別なのは、通常は丸形のところ、楕円形のピストンを採用している点にあります。1気筒あたり吸気4本と排気4本、合わせて8本のバルブを配置し、ピストンを支えるチタン製のコンロッドと点火プラグは2本ずつと、通常のエンジンの2倍のパーツで構成されています。

ホンダ「NR」(1992年)は楕円ピストン採用のエンジンを搭載した世界で唯一の市販車
ホンダ「NR」(1992年)は楕円ピストン採用のエンジンを搭載した世界で唯一の市販車

 これは1979年、ホンダが世界GPに復帰した際に採用した楕円ピストンエンジンによって得られたテクノロジーを研鑽し、市販車に採用したものです。丸形ピストンに比べてショートストローク化や摺動抵抗の低減、吸排気効率の飛躍的向上が得られ、低速から高速まで、ワイドでフラットなトルク特性を持っています。

 フレームはホンダ独自のアルミ製「目の字」断面材を極太ツインチューブに採用し、ヘッドパイプやピボット部にアルミ鍛造素材を使用しています。

 足まわりを見ると、フロントに当時はまだ珍しい倒立フォーク、リアには片持ち式のプロアーム、さらにホイールは超軽量のマグネシウム製です。

指針式のアナログメーターの上部にデジタルパネル(消灯)を配置したコックピット
指針式のアナログメーターの上部にデジタルパネル(消灯)を配置したコックピット

 まるでレーシングマシンの構造解説の様に聞こえますが、「NR」が発売される5年前に「RC30」と2年後に「RC45」というV型4気筒マシンが生産され、鈴鹿8時間耐久ロードレースを始め、世界中のレースシーンで大活躍しています。

 つまり、レースはそちらの2台にお任せして、「NR」は速いだけではない独創的なバイク、言わば公道で輝くバイク版のスーパーカーでした。道路を走っているだけで皆が驚いて振り返り、羨望の眼差しを送りました。

 そんな存在感にふさわしく、カウリングやボディ外装は炭素繊維強化樹脂(CFRP=いわゆるカーボンファイバー)で製作され、特殊な高彩度の赤色に塗られています。しかも燃料タンクカバーから大型シートカウルまで一体式で、シートカウルに内蔵されたマフラーを冷やすインテークが大きく張り出しています。

 ウインドスクリーンはチタンハードコート、フレーム表面は念入りなバフ仕上げとアルマイト加工を施すなど、想像を絶する素材と仕上げのオンパレードです。

ヘッドライトの下にはプロジェクターランプの補助灯を配置。ウインカーが埋め込まれたミラーも先進的
ヘッドライトの下にはプロジェクターランプの補助灯を配置。ウインカーが埋め込まれたミラーも先進的

「NR」はエンジンや車体以外にも魅力を持っています。そのひとつはダイナミックでエレガントなデザインです。例えば「NR」以前のスポーツ系のバイクは、ヘッドライトは丸目2灯が一般的でしたが、横に細長いデュアルヘッドライトとなっています。さらに排気管が見えないセンターアップマフラーなどはその後のスポーツバイクデザインの起点とも言えます。

 このデザインが国内外のバイクに及ぼした影響は大きく、発売から20年以上経った現在でも「NR」が輝いて見えるのは、そんな数え切れないリスペクトがあるからでしょう。

 1990年に発売された「VFR750F」が83万9000円だった時代、「NR」の価格は520万円でした。当時のバイクとしては破格の高級品ですが、その開発費用や使用部材、仕上げの内容に注目すれば、まったく見合わないほどのバーゲンプライスです。

 市販車では世界で唯一の楕円ピストンを採用し、そのエンジンに相応しい美しい車体とデザインで包み込み、様々な製作技術の課題を克服して市販を可能にしたホンダは、まさに「NR」で夢を実現したと言えます。

「NR」に並んで展示されるエンジンのカットモデル。PGM-FIの8連スロットルボディ
「NR」に並んで展示されるエンジンのカットモデル。PGM-FIの8連スロットルボディ

 生産台数は全322台(メーカー公表の国内年間販売計画台数は300台)。性能も一級品ですが、それだけにとどまらない「大事な何か」を持つ究極のバイクと言えるでしょう。

「ホンダコレクションホール」で撮影した「NR」の横には、楕円ピストンが確認できるV型4気筒エンジンのカットモデルも展示されています。

■ホンダ「NR」(1992年)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒DOHC8バルブ
総排気量:747cc
最高出力:77PS/11500rpm
最大トルク:5.4kg-m/9000rpm
全長×全幅×全高:2085×890×1090mm
シート高:780mm
車両重量:244kg
燃料タンク容量:17リットル
フレーム形式:バックボーン
タイヤサイズ(前):130/70ZR16
タイヤサイズ(後):180/55ZR17

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)

【画像】ホンダ「NR」(1992年)を詳しく見る(14枚)

画像ギャラリー

Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

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