不動車のホンダ「ベンリイC92」をエンジンのプロがレストア! 「C92」「CD125」「CB125」のエンジンを組み合わせたビッグバルブ化計画とは【vol.2】
老舗内燃機屋「井上ボーリング」で、年間700台ものヘッド再生を行うベテランヘッド技師が、不動車となったホンダ「ベンリイC92」の再生とモディファイを行う連載。2回目は、 「ベンリィC92」「ベンリィCD125」「CB125」のエンジンを組み合わせたビックバブル化を図ります!
「ベンリィC92」「ベンリィCD125」「CB125」エンジンの各部を比較
今回作るエンジンはベース車両の不動車、ホンダ「ベンリイC92」のクランクケースを使い、腰上及びクランクドナーはホンダ「ベンリイCD125」、ミッションドナーはホンダ「CB125」の3基を組み合わせますが、もちろん全て無加工で交換のみなどと言う、単純な話ではありません。
では一体どの辺に違いがあるのか、見比べていきたいと思います。

まず、CD125のシリンダーにC92のヘッドガスケットを載せてみます。
両車ともボア44㎜×ストローク41㎜でスタッドボルトピッチまでは共通ですが、鋳鉄バレルのC92に比べて放熱性が高く軽量なアルミバレルが採用されたCD125は、シリンダーピッチが違っており、後車の方が3㎜広い為にクランクも同時に交換する必要があります。
また、シリンダーハイトも同じなのに、C92のクランクケースに載せると右のシリンダースカートが底付きしてしまうのですが、その点は少し削ることで調整可能です。
続いてシリンダーヘッドではCD125のハイトが12.9㎜低く、ヘッド上部にエンジンマウントがあるC92に積む為にはスペーサーで嵩上げする必要があります。

そして、C92の吸気バルブガイドには横穴が開いており、この穴はインテーク右側のニップルからビニールチューブを経由してエアクリーナーまで繋がっています。これはスロットルOFF時の負圧でバルブステムの隙間からオイルが吸い出されるのを防止する、いわばステムシールの役割を果たす為。
CD125では通常のステムシール付きガイドになっていますが、C92ではこの機構を採用した事でキャブレターマウントのスタッドボルトピッチが狭くポート穴も小さくなっており、排気量の割にキャブレターが小さめ。
そのため、現代の4ストロークエンジンチューンの定番であるキャブレター交換による性能アップが困難な点も残念なところです。
なお、インテークバルブ径を比較してみると、C92がφ23㎜でCD125がφ25㎜と、2㎜もビッグバルブ化されており、同様にエキゾーストバルブもφ21㎜からφ22㎜でした。

しかしエキゾーストポートを見ると、C92は繋がるエキゾーストパイプの内径ギリギリまでテーパー状に拡大していく形状であるのに対し、CD125はエキパイ径に対してポート穴が小さく、接続部には明らかな段差が存在します。
これはC92のヘッドをCB92と共通部品にする為に、高回転対応のポート形状を採用した結果と推測され、逆にCD125は実用車と割り切って低中回転のトルクを得易いポート形状を目指した結果と考えられます。
今回作るエンジンは「ビッグバルブ化したC92」という狙いがあるので、この点は少し拡大加工しますが、折角なのでエキパイカーブ内側の段差を残して外側だけを拡大する事で、流速に差をつけて排気効率を高める、いわゆる「Dポート形状」に仕上げました。
5速ミッションへの対応を検討
最後はクランクケース及びミッションについて。
メインシャフト左側の軸受けがC92に比べて1㎜短く、それでいてノックピン穴から右ベアリングのセットリング溝までの距離は同じになっている事から、ケース左側の壁を1㎜追い込めば、幅的には使用可能な印象。
シフトドラム部の掘り込みは1.5㎜、あとはキックシャフト受け部にカウンターシャフトセカンドギヤが干渉する部分を逃がしてやればOKです。

アッパーケースとロアケースを大きく切削する必要があるのですが、無駄なところまで削ってしまっては強度が落ちてしまうので、ここはジグボーラー担当の技師に加工をお願いし、次回ご紹介させていただきます。
Writer: 市川信行(井上ボーリング ヘッド技師)
川越で創業70年の老舗内燃機加工屋「(株)井上ボーリング」で多種多様な4ストロークエンジンのシリンダーヘッドに関するオーバーホール作業を担当する加工技師。プライベートでもバイクのレストアを趣味としており、趣味を仕事に生かしてるのか仕事を趣味に生かしているのかよく判らないこの状況を楽しみながら、年間700台前後のヘッド再生をこなしている。