世界初!? かもしれない、モトグッツィ「コンパクトブロック」詳細解説
現存するイタリア最古のバイクブランド「MOTO GUZZI」は、完全新設計で排気量1042ccの縦置き90度Vツインエンジン、通称「コンパクトブロック」を搭載する「V100 Mandello」シリーズを2021年に海外で初公開し、日本市場へは2023年に導入されました。新作ユニットの詳細を解説します。
「コンパクトブロック」との遭遇
2023年4月中旬に開催された輸入車試乗会(2輪)で、モトグッツィの輸入元であるピアッジオグループジャパンは、新型「V100マンデッロ」が搭載する新設計のエンジン、通称「コンパクトブロック」を展示していました。

同社のスタッフとその新作パワーユニットの話をすると、すでにディーラー向けの講習会で完全分解を行ない、要所の写真を撮影しているとのこと。
これを好機と考えた私(筆者:中村友彦)は即座に写真の提供を依頼し、幸いなことに快諾いただけました。
当記事ではディーラー向けの講習会で撮影された写真と、試乗会場で撮影した全体写真をベースに、「コンパクトブロック」の詳細に迫ってみようと思います。
既存のエンジンとは、似て非なる構造
まずは外観から判別できる特徴を挙げると、一番はやっぱり中央吸気・側方排気でしょう。モトグッツィの縦置き90度Vツインには、1967年型「V7」に端を発する「ビッグブロック」と、1977年型「V50」の発展型となる「スモールブロック」の2種類が存在しますが、いずれも後方吸気・前方排気です。

吸気通路のダウンドラフト化やマスの集中化、エアクリーナーの大容量化、ライダーの足元のスペース確保などに貢献するこの構造は、BMW Motorradが2013年から導入した空水冷フラットツインに通じるところがありますが、モトグッツィは1998年に公開した試作エンジン「VA10」の時点で、すでに中央吸気・側方排気を取り入れていました。

そして吸排気系の刷新に続くポイントは、エンジン名の由来にもなったコンパクト化です。
ひと目で分かる小型化に貢献しそうな要素は、クラッチの移設(ミッション前部から後部へ)やオルタネーターの駆動方式の変更(従来のビッグブロックはエンジン前部に駆動用ベルトを設置していたが、コンパクトブロックは後部)などですが、現行のスモールブロックより前後寸法が103mm短いことを考えると、おそらく、ほとんどの部品が小型化を念頭に置いて設計されているのでしょう。

もちろん、水冷化によって冷却フィンが激減したこと、左シリンダー後部にウォーターポンプを設置したこと、スターターモーターとドライブシャフトの位置が左右で入れ替わったことなども、コンパクトブロックならではの特徴です。
なお、ミッションケースは依然として別体式で、クランクケース後部にボルト留めされていますが、オイルはエンジン・ミッション共用のようで、サービスマニュアルには4900ccという容量が記されています。
クラッチの移設と、フリーホイールの追加
ここからはエンジン内部の話です。まずは腰上の話をすると、他メーカーの最新型を見慣れた人にとっては何をいまさら、かもしれませんが、DOHC4バルブヘッド、フィンガーフォロワー式ロッカーアーム、外周にウォタージャケットを備えるシリンダーなどは、いずれもモトグッツィにとっては新機軸です。

なおカムシャフトの駆動には既存のOHCモデルと同じく、クランクシャフト~アイドラーシャフト用×1本+アイドラーシャフト~カムシャフト用×2本、計3本のチェーンを使用しています。
続いてはエンジン腰下の話で、既存のビッグブロックのクランクケースが一体鋳造だったのに対して、コンパクトブロックは上下分割式になり、その一方で、従来は別部品だったアッパークランクケースと左右のシリンダーが一体鋳造されています。

そしてシリーズ初の右回転(後方から見て時計回り)となったクランクシャフトは、従来型よりウェブの肉厚を薄くしつつも、外径が大きくなっているようです。おそらくこの形状は、前後長を短縮しながら、十分なクランクマスを確保するためでしょう。
エンジン後部で興味深いのは、前述したクラッチの移設と、クランクシャフトと逆回転するフリーホイールの追加です。

前者は整備性の向上と小型軽量化、後者は偶力振動の低減に貢献するはずですし、既存のビッグ/スモールブロックでクランクシャフトの背後に設置されていた、巨大にして非常に重いクラッチユニット+スターターリングギアが姿を消したことによって、コンパクトブロックの構造はイッキに近代化したように思えます。
BMWとは異なる手法を選択
コンパクトブロック内部の写真を見て私がホッとしたのは、ミッションを前部から後部に移設しつつも、クランクシャフトと同軸にクラッチユニットを設置していることでした。この構造のおかげで「V100マンデッロ」シリーズは既存のモトグッツィ各車と同様に、ライディング中にエンジンとバイク全体の“芯”であるクランクシャフトの存在が感じやすいような気がします。ではそもそも、どうして私がそんなところに注目していたのかと言うと……。

いきなり話が飛躍しますが、2013年にBMWの空水冷フラットツインを初めて体験した際に、何となく違和感を覚えたからです。その理由を探るために構造を調べてみると、既存の空冷フラットツインがモトグッツィのビッグ/スモールブロックと同様に、エンジン後部にクラッチユニット、その後ろにミッションを配置していたのとは異なり、全面新設計となった空水冷フラットツインは、クラッチユニット+シャフトをクランクシャフト下、さらにはミッションをエンジン下に配置していたのです。

その甲斐あって、空水冷フラットツインは驚異の小型化を実現したのですが、クランクシャフトの下でクラッチユニット+シャフトが等速で逆回転し、クランクシャフトと2本のミッションシャフトの距離が近くなったからでしょうか、どうにもクランクシャフトという“芯”が感じづらくなっていました(それを補うためかどうかは不明ですが、後にクランクウェブが重くなったようです)。
もっともそれはあくまでも私見で、当時の国内外のインプレで、そんなことを気にするテスターは他にいませんでした。

とは言え「V100マンデッロ」の乗り味とパワーユニットの内部構造から推察するに、コンパクトブロックの開発陣は小型化を重視しつつも、BMWが空水冷フラットツインで行なった改革をとくに意識することなく、クランクシャフトの存在感にこだわって現状の構成を採用したような気がします。
そんなわけで今の私は、モトグッツィに対して改めて、勝手に親近感を抱いています。
Writer: 中村友彦
二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。