内燃機エンジンの「潤滑方式」はパワーにも影響する!? バイクのスペック表を読み解く!
バイクのカタログや、メーカーHPに掲載されている「スペック」や「仕様」、「諸元」の表には、購入時の参考やライバル車との性能比較など、役立つ情報が含まれています。エンジンの「潤滑方式」とは?どんな種類があるのでしょうか。
エンジン下にオイルを溜めるか、オイルタンクを別に設けるか
内燃機エンジンの内部では、ピストンやシリンダー、ギアなど数多くの金属パーツが複雑に組み合わさって高速で動いているため、エンジンオイルを使って潤滑し、スムーズに動くようにしています(ちなみにエンジンオイルは潤滑以外にも洗浄、密封、冷却、防錆の役目を持つ)。そのためエンジン各部にキチンとオイルを行き渡らせる必要があり、それにはいくつかの方法(構造)があります。それが「潤滑方式」です。

スペック表を見ると、ホンダは「圧送飛沫併用式」が多く、ヤマハは「ウェットサンプ」、スズキは「ウェットサンプ」または「圧送式ウェットサンプ」で、カワサキには「ウェットサンプ」と「セミドライサンプ」があります。
ちなみに、これらはすべて4ストロークエンジンの潤滑方式で、現在ではごく少数の2ストロークエンジンでは方式が異なりますが、ここでは割愛します。
なんとなくウェットサンプが主流のように感じますが、まさにその通り。潤滑方式は大別すると、以前は「ウェットサンプ」と「ドライサンプ」の2種類で、そこに「セミドライサンプ」が加わった形になります。
共通する「~サンプ」は「SUMP=溜める、槽」という意味があります。
ウェットサンプは、エンジンの底にオイルを溜め、そこからオイルポンプで圧送したエンジンオイルが各部を潤滑しながら下がってきてエンジンの底に溜まる方式です。
ドライサンプは、エンジンの底にオイルを溜めずに(乾いているワケではないが、溜まっていないので「ドライ」と表現)、吸引力の強いスカベンジポンプでオイルタンクに吸い上げ、そこからオイルポンプで各部に圧送して潤滑する方式です。

ウェットサンプはポンプがひとつでオイルタンクも不要なので、構造がシンプルなのがメリット。対するドライサンプはエンジンの下に大きなオイル溜めが不要なため、エンジンの全高を低くすることができます。
逆に言うとドライサンプはウェットサンプよりエンジンを高い位置にセットして地上高を稼げるので、オフロード車に有利な構造です。ただしドライサンプは部品点数が多く生産コストも上昇するため、現在は海外メーカーの一部のモデルが採用するだけになっています。

ちなみにホンダの「圧送飛沫併用式」も、基本的にはウェットサンプ方式と言えます。「飛沫式」はエンジン下部に溜めたオイルをクランクやギアでかき上げ飛び散らせて潤滑する古くからの方式ですが、これではシリンダーヘッドのカムシャフトなどエンジン上部の高い場所が潤滑できないので、それらの部分はオイルポンプで「圧送」して潤滑するという意味です。
車種によっては下部に溜まったオイルをかき上げる構造は無くなり、エンジンの主要部分に圧送したオイルが、エンジン下部に戻っていく過程で飛び散らせて各部を潤滑するため、圧送飛沫併用式と呼んでいます。
ウェットとドライ、良いトコ取りの「セミドライサンプ」
そして近年、徐々に増えつつあるのが「セミドライサンプ」方式です。ウェットサンプのようにエンジン下部にオイルを溜めながらもクランクやトランスミッションとオイルの間に隔壁を設けたり、クランクケース内(側面や前方など)にオイル室を設けて、エンジン下部はドライサンプのようにオイルを溜めないなど、車種によって構造は異なりますが、エンジン外に独立したオイルタンクは装備しません。しかし、ドライサンプ同様にスカベンジポンプによってオイルを回収するのが特徴です。

これはエンジンのコンパクト化や低重心化に加え、少々専門的になりますがエンジン下部のオイル溜めでクランクやギアによる撹拌抵抗を無くしたり(パワーロスの低減やレスポンスの向上に効果アリ)、クランクケース内を負圧にすることでピストンの上下動によるポンピングロスを低減する効果があります。
国産車ではカワサキ「Z650RS」や、同系のエンジンを搭載する「Z650」、「Ninja 650」がセミドライサンプを採用。またホンダの2気筒「1100」シリーズ(アフリカツイン、レブル1100、NT1100、ホーク11)は、スペック表では他モデルと同じように圧送飛沫併用式(いわゆるウェットサンプ)と記載していますが、実際は「クランクケース内蔵オイルタンク式ドライサンプ構造」と呼ぶ、実質的にセミドライサンプ構造を取っています。
海外メーカーもKTM「890」シリーズや、BMW「F」シリーズがセミドライサンプ(BMWはドライサンプと表記)。またドゥカティの「パニガーレ」や「ストリートファイター」が搭載するV4エンジンは、MotoGPワークスマシンに限りなく近い、最先端のセミドライサンプ方式を採用しています。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。