なにこのエンジン!? 1978年発売のホンダ「WING GL400」は新時代に向けたスポーツツーリングモデルだった

1978年に発売されたホンダ「WING GL400」は、1リッター100馬力という時代に開発されたスポーツ型ツーリングモデルです。低速から高速までスムーズな特性で、振動の少ない快適な乗り心地と優れた操縦性、速さと味わいがバランスした理想とも言える排気量400ccクラスの優等生です。

来たるべき1980年代へ、新時代感覚を志向

 1978年3月に発売されたホンダ「WING GL400」は、新しい時代を志向して開発された排気量400ccクラスの高性能スポーツツーリングモデルです。前年の12月、先行して兄弟車である「WING GL500」が発売されています。ホンダでは「高性能の中排気量スポーツタイプツーリング車」として打ち出していました。

新時代の高性能中排気量スポーツタイプツーリング車として開発された、ホンダ「ウイングGL400」(1978年型)
新時代の高性能中排気量スポーツタイプツーリング車として開発された、ホンダ「ウイングGL400」(1978年型)

 最も特徴的なのは、水冷V型2気筒エンジンです。車体の進行方向と同じ向きにクランクシャフトが配置される、いわゆる「縦置きVツイン」となります。左右ともに燃料タンクよりも外側に張り出したシリンダーは、80度のV型に配置されています。いきなり技術的な話になってしまいますが、「GL」のエンジンの独創性はまだまだ続きます。

 シリンダーが左右に張り出していると、キャブレターがライダーの膝と干渉します。吸入通路を大きく曲げてキャブレターを内側に配置することはできますが、それでは目指した性能に到達できません。

 そこでシリンダーヘッドを22度捻って前方向へ開いています。これによりキャブレターは車体内側へ収まり、ライディングポジションを邪魔しません。混合気の流れもキャブレターから吸気管へ、さらに燃焼室から排気管まで一直線に流れる理想的な配列となっています。

シリンダーを進行方向側へ22度開いて捻ることによって後方側のキャブレターを車体内側に追い込み、ストレートな吸排気構造に
シリンダーを進行方向側へ22度開いて捻ることによって後方側のキャブレターを車体内側に追い込み、ストレートな吸排気構造に

 4ストロークエンジンなので、ねじったシリンダーヘッドの中には吸気バルブと排気バルブがあります。これをOHV(オーバーヘッドバルブ)方式で動かしています。

 一部の海外モデルは、現在でもOHVを採用して伝統的なバイク造りをしていますが、国産車的には1978年当時でも時代遅れなエンジン形式でした。プッシュロッドを利用したOHVよりも、シリンダー上部にカムシャフトを持つDOHCの方が、より正確なバルブ制御ができるからです。ホンダはこのクラシック的なOHVエンジンを、未来に向かう新時代のバイクに採用したのです。

 バルブを駆動するカムシャフトは、Vバンクの隙間の燃焼室近い高さまで持ち上げられて配置。そこから短かいプッシュロッドで運動方向を22度変えながら8本のバルブを駆動します(1気筒あたり4バルブ)。

 ホンダは高性能エンジンに必要な高い圧縮比(10.0)と効率の良い燃焼を満たすため、当時は珍しかった水冷方式を採用しました。ストレートな吸排気配置も功を奏し、またOHV4バルブゆえに燃焼室のど真ん中にプラグを配置できました。

2眼のメーターに水温計を装備。来たるべき1980年代へ、ホンダ車のデザインの息吹を感じる
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「GL400」のOHVエンジンは、時代遅れながら1万回転近い回転数で40psを発揮します。排気量400ccクラスで40PSは、高性能車の目安である「1リットルあたり100馬力」と換算され、十分な性能と認めらています。

 しかも冷却機構をエンジン内に一体組込みとしたシステムによって小型軽量に仕上がり、耐久性や静寂性にも優れ、長距離での快適な走りも実現しました。

「GL400」に先駆けて「GL500」を発表した際に、開発コンセプトとして「ホンダは長年バイクの新しい未来のあるべき姿を求め、“新しい未来とは本物を選択し、自分自身を個性豊かに表現する時代”とし、その時代感覚で“乗る楽しさの原点から見直したものでなくてはならない”、と考えます」と語りました。

 これは1977年の文面ですが、当時以上に現在のバイク感覚にフィットしている気がします。

 V型エンジンは左右のピストンが互いに振動を打ち消し、また直立型に比べると重心が低いため、バイクのエンジンに向いていると言われています。OHVはカムシャフトの重量分もさらに低重心です。

 技術者たちのユニークなアイディアと苦労によって仕上げられた、バイクの理想とも言える中排気量のエンジンなのです。本物を選択できる今こそ「新車でGL400があれば……」と考えてしまいます。

駆動方式には耐久性や静寂性、整備面でも楽なシャフトドライブ式を採用し、リアショックには新設計のFVQダンパーを装備
駆動方式には耐久性や静寂性、整備面でも楽なシャフトドライブ式を採用し、リアショックには新設計のFVQダンパーを装備

 このエンジンは後継車の「CXユーロ」や、クルーザー型の「GL500/400カスタム」、ツアラーの「GL700シルバーウィング」、さらに輸出車では「CX500/650ターボ」などにも使用されました。

 ホンダ「WING GL400」(1978年型)の当時販売価格は、43万8000円です。

■ホンダ「WING GL400」(1978年型)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストロークV型2気筒OHV8バルブ(1気筒あたり4バルブ)
総排気量:396cc
最高出力:40ps/9500rpm
最大トルク:3.2kg-m/7500rpm
全長×全幅×全高:2185×865×1175mm
車両重量:218kg
燃料タンク容量:17L
フレーム形式:ダイヤモンド式

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)

【画像】ホンダ「WING GL400」(1978年型)の詳細をもっと見る(11枚)

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Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

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