ホンダがV型8気筒5リッターエンジンを開発!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.210~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ホンダがV型8気筒5リッターエンジンを開発したと言います。どういうことなのでしょうか?
ニーズの拡大に応えて、新型を開発
「ホンダがV型8気筒5リッターの大排気量エンジンを開発した」……こんなニュースを目にしても、どうせどこかのいかがわしいサイトが捏造したフェイクニュースだろうと、そう思われる御仁も少なくないと思われます。

その気持ちも納得できます。ホンダは2035年までにすべてのクルマを電動車にすると宣言しています。そんなメーカーが、この時期に高額な資金を投入して内燃機関を開発するとは思えません。
そもそもホンダのモデルラインナップに、大排気量エンジンを搭載する車体も限られています。ホンダの軽自動車「N-BOX」が爆発的な人気を得ているように、コンパクトクラスの開発には抜群のセンスを見せるのですが、プレミアクラスは苦手のようで、これまでヒット作はありません。ミドルサイズですら不人気であり、ましてV型5リッターユニットを搭載するボディなど存在しないのです。
バイクに関しても同様です。最大排気量の「ゴールドウイング゛」が搭載するユニットは水平対向6気筒の1.8リッターです。5リッターを積むのは不可能のように思われます。
というのに、ホンダがV型8気筒5リッターエンジンを開発した。それは事実なのです。
すでにタイトル写真でネタバレなのですが、ボート用の船外機です。ホンダにとってマリナイズされたV型8気筒は初めてのことですが、開発したのにはもちろん理由があります。簡単に言ってしまえば、需要があるからです。
大型クルーザーのパワーユニットは、大きく分けて3つの仕様に分類されます。
ひとつは、エンジンとミッションを船体内に抱え、プロペラシャフトを経由してスクリューを回すことで推進するタイプです。大型タンカーなどがそれですね。プレジャーボートでも、50フィートクラスの中型艇からはこの仕様が一般的です。「船内機」タイプと呼ばれます。
ふたつ目は、ミッションとスクリューが合体したユニットを船外にくくりつけ、船体内のエンジンからの動力を伝達させるものです。これは「船内外機」と呼ばれ、30フィート前後のクルーザーで一般的ですね。
そしてもうひとつ、これが今回ホンダが開発したV型8気筒ユニットなのですが、エンジンもミッションもスクリューも、すべて一体になった「船外機」なのです。この船外機タイプの人気は日増しに高まっており、そこにホンダは商機を見たのでしょう。
船外機のメリットは、船体を変えても手軽に取り付けることができる点にあります。希望によっては2基でも3基でも、好みで増やすこともできます。中には5基もくくりつけて、驚くほどの速さを得ようとする人もいます。
カジキマグロを狙うようなスポーツフィッシングの世界では、釣果が期待できる海域に誰よりも早く到達する必要があり、そのためにはボートを速くする必要があります。ハイパワーの船外機が注目されているのはそのためなのです。
そう、速さで負けるのを嫌うホンダが、350psというホンダ最強パワーを発揮するV型8気筒5リッターエンジンを開発したというわけです。
F1だけでもバイクだけでもなく、マリンの世界でもホンダは王者になるつもりなのでしょう。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。