ホンダのバイク世界生産累計4億台の最初の1台は、1949年に登場した「ドリームD型」だった

1949年に本格的バイクの生産を開始したホンダの最初の1台は、排気量98ccのお洒落な「ドリームD型」でした。エンジンも車体も自社で設計開発し、クラッチ操作不要の自動変速、ユーザーフレンドリーな作り込みは、現代まで繋がるホンダのDNAなのでしょうか。

夢の本格バイク生産開始。世界一へのはじまりは「ドリームD型」から

 ホンダのバイクの総生産台数は2019年に4億台を超えていますが、その最初の1台目が「ドリームD型」(1949年型)でした。世界一のバイクメーカーであるホンダを飛行機に例えるなら、創業時の自転車用補助エンジンで滑走路を走り出し、1949年に発売された「ドリームD型」の登場が離陸の瞬間だと言えます。

ホンダ初の本格的バイクである「ドリームD型」(1949年型)。世界生産累計4億台(2019年12月)となる最初のモデル
ホンダ初の本格的バイクである「ドリームD型」(1949年型)。世界生産累計4億台(2019年12月)となる最初のモデル

 ホンダは自転車用補助エンジンで営業していた1947年から、自社生産の「A型」エンジンの生産を始めました。改良を加えた「C型」では自転車の車体も含めた販売も行ないますが、外注した車体が理由で思うように生産できなかった苦労がありました。

 終戦から間もない時期で、資材の確保や品質にも課題がありました。しかし一方では、急拡大するバイク需要によってバイクメーカーが乱立しており、ホンダも創業後わずか1年で本格的なバイクの開発と生産へと乗り出します。

 1949年に、外観的にもメカニズム的にも、バイクと呼べる「ドリームD型」を自社開発し、発売します。これがホンダのバイク1号車です。

「ドリームD型」の車体は鋼板をプレスしてフレームを形作るチャンネル型フレームを採用していました。当時のバイクは黒色がポピュラーでしたが、そのフレームの表面をマルーンカラーに塗って白いストライプで縁取りしています。ヘッドパイプ付近には大きな羽を持つ人のエンブレムが貼られ、高級感のある仕上がりでした。

 当時の他車は鋼管パイプのフレームであり、洒落た塗装色と相まって「ドリームD型」には特別なオリジナリティがありました。

ハンドルまわりのケーブル類がなるべく外に出ないようにハンドル内を通す設計がお洒落
ハンドルまわりのケーブル類がなるべく外に出ないようにハンドル内を通す設計がお洒落

 エンジンは「C型」の発展型と言われていますが、排気管の出口が前方から後方へ変更されています。片持ちだったクランクケースは両側で保持され、一体型の2速ミッションが追加されてバイクのエンジンとしてふさわしい外観になっています。

 この「ドリームD型」のメカニズムで最もホンダの個性を感じさせるのが、特許を取得した日本初の半自動的クラッチの2速ミッションです。クラッチレバーそのものが無く、左側のシフトペダルを「踏み込みっぱなし」にするとローギアで、アクセルを開けると発進します。走り出したらシーソー式のシフトペダルの後方を踵で踏めば、クラッチ操作無しで2速に入る仕組みでした。

 このシステムはホンダの「DCT」(デュアルクラッチトランスミッション)、「スーパーカブ」の自動遠心クラッチ、あるいは「Eクラッチ」(2023年10月公開)を連想させます。

 現代でもバイクの運転において、クラッチのレバー操作に苦手意識を持つビギナーの声もあり、エンストや飛び出しの心配が無い、誰でも簡単にシフト操作できるシステムは、ホンダの1号車「ドリームD型」から始まっていたのです。

クラッチ操作無しの自動変速。シーソー型のシフトペダルの前を踏めばローギア、後ろ踏めば2速に変速する
クラッチ操作無しの自動変速。シーソー型のシフトペダルの前を踏めばローギア、後ろ踏めば2速に変速する

 発売当初は販売も好調でしたが、エンジンの出力は3.5HPで、長い登り坂ではローギアに固定するためにシフトペダルを踏み続けることになり「ツマ先がくたびれる」と不満に思うユーザーもいました。

 さらに連合国の占領下にあった日本は、その後のデフレ政策によって不景気へと転換します。「ドリームD型」の売れ行きにも陰りが出て、ホンダの経営状態は最初の試練を迎えました。

 営業的には成功とは言えなかった「ドリームD型」ですが、創業者である本田宗一郎は「これではイケナイと分かっただけでも儲け物なんだ」と逆に勢いづき、翌1950年には東京に営業所と工場を開設しました。

2ストロークエンジンだがチャンバーは無く、4ストロークエンジンのようなマフラーを採用している
2ストロークエンジンだがチャンバーは無く、4ストロークエンジンのようなマフラーを採用している

「ドリームD型」とともに離陸したホンダは、次々と現れる嵐に負けず上昇し続け、70年後には4億台を生産するバイクメーカーへと成長していったのです。

■ホンダ「ドリームD型」(1949年型)主要諸元
エンジン種類:空冷2ストローク単気筒ロータリーディスクバルブ
総排気量:98cc
最高出力:3.5HP
始動方式:キック
車両重量:76kg
燃料タンク容量:7L
フレーム形式:チャンネル型プレスフレーム

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)

【画像】ホンダ「ドリームD型」(1949年型)を詳しく見る(11枚)

画像ギャラリー

Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

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