ナゼ穴が!? レースシーンから市販車に広まった「中空アクスルシャフト」のメリットとは?

バイクのホイールの車軸「アクスルシャフト」を見ると、車種によってはシャフトの真ん中に穴が貫通していることがあります。一体どのようなメリットがあるのでしょうか?

レースから生まれた「中空アクスルシャフト」

 バイクのホイールのアクスルシャフト(車軸)を見ると、軸の中心に穴が貫通しているタイプがあり、大排気量のスーパースポーツ系は大抵が採用しているようです。反対に小~中排気量車だと、穴の開いていないアクスルシャフトが多いようです。穴が開いたタイプを「中空アクスルシャフト」と呼びますが、そもそもなぜ穴を開けているのでしょうか?

スーパースポーツ系や大排気量バイクに多い「中空アクスルシャフト」
スーパースポーツ系や大排気量バイクに多い「中空アクスルシャフト」

 じつは、昔はレーシングマシンの装備でした。しかもパーツ製作にコストをかけられるワークスレーサーから使い始められました。

 理由はいろいろありますが、分かりやすいところでは軽量化です。スポーツバイクやレーシングマシンにとって「軽さは正義」であり、とくに「バネ下荷重」と呼ばれる、サスペンションのスプリングから下の重量は、タイヤの路面追従性に大きく影響します。

 重ければ慣性力が大きくなるため、路面の凹凸やうねりで飛び跳ねて路面追従性が悪化し、タイヤがスリップしやすくなるのはもちろん、ハンドリング(操縦安定性)も悪くなります。

 そこでアクスルシャフトの中心に穴を開けることで、シャフトの重量、つまりバネ下荷重の軽量化を図っているわけです。

 ほかにも「剛性の向上」が挙げられます。バイクが曲がるために車体を傾けているときは、後輪のスイングアームや前輪のフロントフォークには捻じれる力が加わります。

 またホイールのベアリングにも同様の力が加わり、これらもハンドリングを悪化させる要因になります。これを抑制するには剛性を高める必要があり、それには「アクスルシャフトの直径を太くする」、「ホイールベアリングを大径化する」という対策があります。

 とはいえ従来からの無垢のアクスルシャフトを単純に太くしたら、当然ながら重量がかさみます。するとバネ下荷重が増えてしまうので「軽量化のために穴を開ける」という流れになります。

 この中空アクスルシャフトがいつからレーシングマシンに使われたかは不明ですが、ヤマハの歴代ロードレーサーを見ると、早くも1960年代から採用しているようです。ホンダは世界グランプリに復帰した1979年の「NR500」に、太くて中空のアクスルシャフトを使っていました。

市販車への採用は、80年代のレーサーレプリカから

 レーシングマシンは速さと勝つためにコストをかけますが、公道を走る市販車はそうもいきません。中空アクスルシャフトは加工や材質にコストがかかるため、採用されたのは1980年代の中頃です。

 当時はレーサーレプリカ・ブームが始まったところなので、性能面はもちろんルックス的にも「よりレーサーに近く!」というライダー心理に訴える効果も狙ったのではないでしょうか。

 ヤマハは究極のレーサーレプリカと謳われた「RZV500R」(1984年)の前後ホイールに中空アクスルシャフトを装備し、同年発売の「FZ400R」は後輪が中空アクスルシャフトでした。

 また1985年発売の本格レーサーレプリカ「TZR250」も採用していますが、面白いところでは同年発売のシングルスポーツモデル「SRX400/600」も後輪に中空アクスルシャフトを装備していました。

 スズキは「GSX-R400」(1984年)の後輪や、「GSX-R750」(1985年)の前後輪に中空アクスルシャフトを採用。「RG250Γ」は1984年の2型から後輪に採用したようです。

 ホンダでは「VFR400」(1986年)や「NSR250R」(1987年)辺りから中空アクスルシャフトの装備が始まりましました。

 こうして1980年代のレーサーレプリカから市販車にも中空アクスルシャフトが広まりましたが、近年は排気量250ccクラスで採用するモデルは少なく、ヤマハの「MT-03/25」系くらいではないでしょうか。

 反対に大排気量車はスーパースポーツ系はもちろん、スポーツネイキッドも中空アクスルシャフトを装備する車両が増えたように感じられます。

じつはメンテにも便利!?

 軽量化や剛性で有効な中空アクスルシャフトですが、性能面以外に副次的なメリットがあります。それは「メンテナンススタンドが使いやすい」ことです。

中空アクスルシャフトのバイクを、貫通シャフトタイプのメンテナンススタンドで立てた様子(スタンドはJ-TRIPの「はじめてスタンド」)。タイヤ交換はできないが、チェーンのメンテナンスやエンジンオイルのレベルチェック&交換作業にとても便利
中空アクスルシャフトのバイクを、貫通シャフトタイプのメンテナンススタンドで立てた様子(スタンドはJ-TRIPの「はじめてスタンド」)。タイヤ交換はできないが、チェーンのメンテナンスやエンジンオイルのレベルチェック&交換作業にとても便利

 それこそレーサーレプリカ登場以前の市販バイクは、ほとんどがセンタースタンドを備えていましたが、近年(2000年代以降?)はバイクのジャンルに限らず、多くの車両がサイドスタンドのみになっています。

 普段乗る分には問題ないのですが、例えばチェーンの清掃・潤滑するときや、エンジンオイルの量をチェックしたいときなどのメンテナンス時は少々不便です。

 そんな時はメンテナンススタンドで車両を直立させれば良いのですが、スイングアームを支えたり、V型のフックをかけて立てる、いわゆるレーシングスタンドのタイプだと、慣れていなければ1人でスタンドを立てるのは結構ハードルが高いものです。

 ところが後輪が中空アクスルシャフトなら、そこに棒を通して立てるタイプの貫通シャフトのメンテナンススタンドが使えるので、1人でも不安なく簡単にスタンドを立てることができます(中空の穴の直径や、メンテナンススタンドの貫通シャフトの径によって使用不可の場合もある)。

 実際に使ってみるとチェーン清掃などが非常にラクで、洗車時も普通にメンテナンススタンドを使いたくなります。

「自分の愛車は中空アクスルシャフトじゃない」という人も多いかと思いますが、最近はアフターマーケットパーツで、色々な車種用の中空アクスルシャフトも販売されています。交換すれば性能もメンテナンス性も向上するので、試してみてはいかがでしょうか。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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