3輪バイクで「バンクする楽しみ」!? ホンダの「スリーター」は「ジャイロ」へ 2ストから4スト そして電動3輪スクーターに

3輪のバイクと言えば、配送などに使われるホンダの「ジャイロX」をよく目にします。しかしホンダではそれ以外にも、かつて「スリーター」と呼ぶ3輪バイクを数多くラインナップしていました。

3輪バイクではなく「スリーター」

 3輪のバイクと言えば、ホンダの「ジャイロX」や「ジャイロ・キャノピー」は日常的によく目にするし、ピザの配達などでも見かけます。

 それ以外の3輪バイクだと、いわゆる3輪バギーと呼ばれる公道走行不可のATVや(現在は4輪が主流)、バイクの後輪を2輪に改造したトライクをイメージするかもしれませんが、こちらは相応にマイナーな存在です。

 そのため「3輪バイク」≒「ジャイロX」の感が強いですが、じつはホンダは、1980年代に新しいカテゴリーの乗り物として、「スリーター」の名称で何種もの3輪バイクを発売していました。

日常的によく目にする3輪バイクと言えば、配送業務などに使われるホンダの「ジャイロX」がダントツ!
日常的によく目にする3輪バイクと言えば、配送業務などに使われるホンダの「ジャイロX」がダントツ!

バンクと復元性を実現した「ナイトハルト機構」

 スリーターとは、「スリーホイールで、スイング機構を持ち、2輪車の軽快性と4輪車の快適性を併せ持つ乗りもの」という意味でホンダが定義した新カテゴリーで、その第1弾が1981年11月に発売された「STREAM(ストリーム)」です。

「ストリーム」は前輪を含む車体部分と、後輪を駆動する連結部分に「ナイトハルト機構」を採用することで、コーナリング時にフロントボディが左右にスイングする、バイク感覚の乗り味を実現しました。

ホンダの「スリーター」第1弾となる「STREAM」(1981年)
ホンダの「スリーター」第1弾となる「STREAM」(1981年)

 ナイトハルト機構は、フロントボディと後輪駆動部を繋ぐスイングジョイントユニット内に収めたゴム製のナイトハルトラバーが、フロントボディが傾いた際に適切に変形することで反発力を生み出し、その反発力がフロントボディを起こす復元力として働きます。

 またコーナリング時に左右の後輪の回転差を調整するため、後輪軸にはデファレンシャルクラッチを装備しています。

 1980年代前半はバイクブーム真っ盛りとともに、スクーターの人気も拡大し、HY戦争と呼ばれるホンダとヤマハのスクーターの販売合戦も巻き起こりました。

 そこで、2輪のスクーターより極低速でも直進安定性が高く、乗用車のような快適性を併せ持ったスリーターによって、より販売を伸ばそうと考えたものと思われます。

 また「ストリーム」は、3段階に前後調整が可能なバックレスト付きのシートや、荷物を収納できるフロントトランクも装備し、快適性や利便性を追求しています。

 そのためか当時の一般的な原付1種のスクーターと比べると高額(19万8000円)で、販売台数はいまひとつだったようですが、意欲作だったことは間違いありません。

新型スリーターを毎年リリース!

「ストリーム」登場から約1年後の1982年10月に、スリーター第2弾として登場したのが、現在でもお馴染みの「GYRO X(ジャイロ・エックス)」です……が、その解説は後に回して、先に他のスリーターを見てみましょう。

 スリーターという新しいカテゴリーを創出したホンダですが、「ストリーム」は高級志向だったためか販売が伸びませんでした。

 そこで1983年にスリーター第3弾となる「JOY(ジョイ)」を発売しました。販売価格も9万9800円と10万円切りで当時のスクーターと同等の価格なうえに、シンプルかつコンパクトな作りに徹して車重も46kgと軽量なため、バイクに乗るのに自信のない女性ユーザーにも人気でした。

 同年5月には、「ジョイ」と共通のコンポーネントを使用しつつ高級感のある兄弟モデルとしてスリーター第4弾「JUST(ジャスト)」が登場します。こちらは車両重量57kgで12万9000円ですが、2速オートマチックを採用したことで走りがいっそうスムーズになりました。

 そして1984年7月に、スリーター第5弾として「ROAD FOX(ロードフォックス)」が登場します。

ホンダのスリーター第5弾「ROAD FOX」(1984年)。
ホンダのスリーター第5弾「ROAD FOX」(1984年)。

 既存のスリーターとは一線を画したスポーツ性をウリにした異端児で、スクータータイプのフラットフロアとは異なり、ステップバーを設けてチャンバータイプで狐の尾のように太いマフラーを装備しています。

 そんな3輪バギーのようなスタイルや、ゴーカートのような乗り味が人気となり、現在もコアなファンが少なくないスリーターです。

 ……とはいえ、ホンダのスリーターは「ジャイロ」シリーズを除き、すべて一代限りで姿を消してしまいました。一般的なスクーターほど売れなかったのか理由は定かではありませんが、少々残念な感じもあります。

日本に根付いた「ジャイロX」

 それでは、後回しになっていた1982年にスリーター第2弾として登場した「ジャイロX」です。こちらは他のスリーターと異なり、マイナーチェンジやフルチェンジを重ねながら、現在まで販売が続いています。

 1985年には後輪側に地面と水平な大型リアデッキを備えた「ジャイロ・アップ」がラインナップに加わります。

 さらに1990年にはルーフ一体型の大型ウインドスクリーンを装備した「ジャイロ・キャピー」が発売されます。こちらはリアに62Lの大容量のキー付きトランクを備えた「ワゴンタイプ」と、フラットな荷台形状の「デッキタイプ」の2種が用意されました。

「ジャイロ」シリーズは、エンジンは当時の原付1種スクーターと同様に空冷2ストローク単気筒エンジンを搭載しており、厳しさを増す排出ガス規制に対応して幾度かマイナーチェンジを行ってきましたが、2008年に水冷4ストロークOHC4バルブエンジン&電子制御式燃料噴射装置(FI)に完全刷新します。これにより排出ガスのCO2の低減はもとより、燃費が30%ほども向上しています。

 このフルチェンジでラインナップを整理し、「ジャイロX」(ベーシックとスタンダード)と「ジャイロ・キャノピー」(デッキタイプ)になりました。

ホンダ「GYRO Canopy(ワゴンタイプ)」(1990年)。
ホンダ「GYRO Canopy(ワゴンタイプ)」(1990年)。

 両モデルとも外観的には以前の2ストロークエンジンのモデルと大きく変わりませんが、後輪に新設計のアルミホイールを採用し、サイズも6インチから8インチに大径化して走行安定性を高めました。

 排出ガス規制は一層厳しさを増し、2017年に規制対応のためのマイナーチェンジを行いました。

 しかし2025年11月から適用される新たな排出ガス規制には対応せず、2025年10月末に生産終了となりました。これは他の原付1種のバイクと同じ流れと言えます。

電動モデルはあるけれど……

 こうしてホンダのスリーターは、エンジン車(内燃機関)は姿を消しましたが、2021年に電動の「ジャイロ e:」と「ジャイロキャノピー e:」が登場しています。当初は法人向けのみでしたが、現在は個人での購入も可能です。

 これらは「電動3輪スクーター」と表記され、かつてのスリーターという名称では呼ばれていません。荷物などの配送という意味では、従来の「ジャイロ」シリーズと通じますが、バイクとしての立ち位置は、かつてのスリーターとは少々異なるような感もあります。

 その意味では、「ストリーム」や「ロードフォックス」のようなスリーターが、原付2種などで復活したら面白いのに……と思ってしまうのはワガママというモノでしょうか……。

【画像】すっかり日本に根付いた働くバイクの代表格!? 電動で生き続けるホンダの3輪スクーターを画像で見る(18枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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