レクサスLSヒットは前身のV8クラウンにあり! トヨタ8代目「クラウン」の軌跡

モータースポーツ界の生き字引、現役レーサーの木下隆之氏の新連載コラム「木下隆之のヒストリカルパレード(通称:ヒスパレ)」がスタート! 連載第31回目は、8代目130系クラウンを紹介します。8代目クラウンには、レクサス最初のモデル「LS」に先んじて4リッターV8エンジンが搭載されていました。

V8エンジンを搭載したトヨタ130系クラウンとは

 レクサスが誕生したのが1989年10月のことです。トヨタの高級ブランドの位置づけでしたが、日本投入に先立ち、アメリカで販売を開始したのです。最初のモデルは高級セダンである「LS」でした。

1990年に発売れた高級セダンLEXUS「LS400」
1990年に発売れた高級セダンLEXUS「LS400」

 LSは爆発的にヒットしました。高級セダンで世界を席巻していたのは、地元キャデラックやフォード、あるいはドイツのメルセデスやBMWであり、日本のモデルはそのジャンルに属していませんでした。そんなプレミアムゾーンにレクサスはLSを送り込み、成功を収めたのです。

もっとも評価されたのは、エンジンの静粛性です。振動の少なさです。ボンネットにシャンパングラスをタワー上に積み重ね、エンジンを始動させても液体が全く波立たないCMが話題をさらいました。それほど振動がなかったのです。

 それがアメリカ国民に強烈な印象を与えました。

「安いけれど壊れない」
「小さいからに燃費がいい」

 それまでの日本車の評判はそんなところでした。ところがそんな屈辱的な評判を覆したのです。メルセデスやBMWをターゲットに開発されたレクサスLSがフラッグシップとなり、のちのレクサスブランド成功の足掛かりになったのですね。

 実は、そのレクサスLSに搭載されたエンジンこそ、今回ここで紹介するクラウンV8に搭載されていたそのものなのです。

トヨタ「クラウン ロイヤルサルーンG」(写真提供:ミハラ自動車)
トヨタ「クラウン ロイヤルサルーンG」(写真提供:ミハラ自動車)

 クラウンはレクサスが誕生するまで、最高級モデルとして君臨していました。特に1987年9月に誕生した8代目130系クラウンは、1986年から始まったバブル経済で富を得た富裕層をターゲットに開発、その中でも最高級グレードに、それまで日本に存在していなかった高級モデル用のV型8気筒エンジンを搭載したのです。

 時代はバブル経済の狂乱に浮かれていますから、気筒数は多いのを好みました。4気筒より6気筒、6気筒より8気筒です。排気量も大きいに越したことはありません。2リッターより3リッター、3リッターより4リッター。クラウンV8に搭載したのは4リッターユニットでしたね。

クラウンに搭載された水冷V型8気筒DOHC32バルブエンジン(写真提供:ミハラ自動車)
クラウンに搭載された水冷V型8気筒DOHC32バルブエンジン(写真提供:ミハラ自動車)

 直列6気筒や水平対向4気筒、あるいはV型12気筒エンジンは、一次振動と二次震動が打ち消しあい、理論上振動を発生しない完全バランスエンジンですが、V型8気筒はそれとは異なります。ですが、のちにレクサスLSに搭載され静粛性の高さで世界トップに君臨することになるクラウン用のV型8気筒ユニットは、クランクシャフトの精度をレーシングエンジン並みに整えるなど徹底した品質管理により、成立してみせたのです。

 そんな夢のようなエンジンを搭載したのがクラウンV8なのですから、当然ボディも威風堂々としています。ボディは拡大にワイドになり1755mmに達しました。いまでも十分に通用する佇まいです。

クラウンには、マッサージ機能付きシートが組み込まれていた(写真提供:ミハラ自動車)
クラウンには、マッサージ機能付きシートが組み込まれていた(写真提供:ミハラ自動車)

 運転席のマルチヴィジョンやクルーズコントロール、あるいはマッサージ機能付きシートが組み込まれるなど、豪華装備が満載です。

 乗り味も優しく、突き上げのような不快感は皆無です。いまでもこれほど優雅な乗り心地はないかもしれません。まさにバブルの申し子のようです。

 のちにレクサスLSが無振動のV型8気筒エンジンを武器に衝撃的なデビューを飾ることになり、あたかもそのV型8気筒はレクサスが発祥のように語られているのは、クラウンファンとしてはちょっと寂しい思いがあるかもしれません。

 ですので、もう一度口にします。レクサスLSのヒットは、クラウンV8のエンジンを積んだからなのですよ、と。

◾️トヨタ「クラウン ロイヤルサルーンG」
<エンジン>
形式:1UZ-FE
種類:水冷V型8気筒DOHC32バルブ
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
総排気量(cc):3968
圧縮比:10.0
最高出力(ps/r.p.m):260 (191kW)/5400
最大トルク(lg-m//r.p.m):36.0 (353.0N・m)/4600
燃料供給装置:EFI(電子制御式燃料噴射装置)
燃料タンク容量(リットル):72
<寸法・定員>
全長(mm):4860
全幅(mm):1755
全高(mm):1400
ホイールベース(mm):2730
車両重量(kg):1690
乗車定員(名):5

※ ※ ※

 1989年に発売されたスズキ「GSX-R250R」は、GSX-R250をベースに耐久レーサー風のスタイリングを採用したモデルです。

スズキ「GSX-R250R」
スズキ「GSX-R250R」

 最高出力45ps/15,000rpmを発揮する水冷4サイクル直列4気筒DOHC4バルブ250ccエンジンは、高剛性で軽量なALBOXフレームに搭載していた。また同時にスポーツプロダクション仕様車も同時発売されていました。

 スズキ「GSX-R250R」の発売当時の価格は、59万9000円でした。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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