昭和のバイクブーム世代が困惑!? 「Ninja ZX-25R」はレーサーレプリカじゃない?

アグレッシブなNinjaスタイリングの車体に、250ccクラス唯一の4気筒エンジンを搭載。幅広い層から注目を集めるNinja ZX-25Rですが、バイクブーム世代から見れば、懐かしのレーサーレプリカがカムバックを果たしたとなるわけです。

レーサーレプリカ世代に突き刺さる“4発”

 1980~90年代のバイクブームを知る同世代の友人が、筆者(青木タカオ)の記事をインターネットで見つけ、連絡をくれました。聞けば「コロナ禍で密を避けられるし、久々にバイクに乗ってみたい」とのこと。嬉しいではありませんか。

カワサキの250cc4気筒マシン「Ninja ZX-25R」に試乗!
カワサキの250cc4気筒マシン「Ninja ZX-25R」に試乗!

 かつてはNSR250やGSX-R400などに乗って、鈴鹿8耐やWGP(ロードレース世界選手権)を夢中になってテレビ観戦したバイク仲間。彼がいま欲しいのはズバリ、カワサキ『Ninja ZX-25R』です。

「“ニーハン”の“レーサーレプリカ”がいい」とのことで、環境規制によって2ストロークエンジン搭載車が絶滅してしまったことは承知なうえ、「2ストが選べないなら、4発(4気筒)しかない!」と言い切ります。そして、彼はこう続けました。

「見た目のカッコよさでホンダCBR250RRと迷ったものの、搭載するエンジンがカムギアトレーンの4気筒ではなく2気筒だと知り愕然したよ」

 昭和のバイクブームから情報がアップデートされていない彼に、ツインという選択肢はないようです。

250ccはニーハン、350ccはサンパンともう呼ばない!?

 数日後、リターンライダーを目指す彼は、知り合いの若いバイク乗りたちと話して、気づくことがいろいろとあったと教えてくれました。

ZX-25Rをレーサーレプリカではなく、“ニーゴー・スーパースポーツ”と呼ぶ
ZX-25Rをレーサーレプリカではなく、“ニーゴー・スーパースポーツ”と呼ぶ

「750ccがナナハン、350ccがサンパン、250ccはニーハン……。どうやら最近の若いライダーたちは、あまりそう呼ばないらしい。それと彼らはZX-25Rをレーサーレプリカではなく、“ニーゴー・スーパースポーツ”と呼ぶんだ」

“レーサーレプリカ”というワードは、もう使わないの……!? 彼は困惑していました。昭和の頃のように『Ninja ZX-25R』を“レーサーレプリカ”と呼ぶのは間違いなのでしょうか。

ブームの火付け役はガンマ

“レーサーレプリカ”はその名の通り、公道向け市販車でありながらレーシングマシン譲りの高性能とスタイルを持つモデルです。80~90年代が全盛で、国産4メーカーが競うように次々と新型をリリースし、毎年のようにモデルチェンジした結果、年を追うごとに性能が先鋭化されました。

1983年にデビューしたスズキ『RG250ガンマ』
1983年にデビューしたスズキ『RG250ガンマ』

 ブームの火付け役となったのが、1983年にデビューしたスズキ『RG250ガンマ』です。オールアルミ製の角パイプフレームやサーキットを走るレーサーさながらのフルカウル装着は、量産市販車では初めて。

 乾燥重量131kgの軽量な車体に、自主規制上限の45PSを発揮する水冷2ストローク並列2気筒エンジンを搭載し、世界グランプリ82年シーズンの王者、フランコ・ウンチーニが乗ったRG500ガンマのデザインを模したカラーバリエーションで発売されました。

ヤマハは84年に『FZ400R』をリリース
ヤマハは84年に『FZ400R』をリリース

 ヤマハはTTF-3ワークスマシン「FZR400と同時開発」という謳い文句で、84年に『FZ400R』をリリース。サーキットを走るレーサースタイルと勝つための技術がそこに集約され、人気を博します。

コスプレ的な楽しみもあった!?

 4スト250ccレーサーレプリカに注目すると、水冷並列4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載した『FZ250フェーザー』(1985年)をベースに、フルカウル、セパレートハンドル、前後17インチホイール化した『FZR250』が86年にヤマハから発売され、等身大レプリカとして大ヒットしました。

『FZ250フェーザー(1985年)』をベースに、フルカウル、セパレートハンドル、前後17インチホイール化した『FZR250』 を86年にヤマハから発売
『FZ250フェーザー(1985年)』をベースに、フルカウル、セパレートハンドル、前後17インチホイール化した『FZR250』 を86年にヤマハから発売

 耐久レーサー「YZF750」イメージの丸目2灯を持つフルカウルの外装。足まわりは『TZR250』と同じ前後17インチで、中空スポークのキャストホイールや対向4ポットキャリパー、大径320mmフローティングディスクなど充実の装備を誇ります。

「平忠彦になれる!」と、88年には資生堂「TECH21」カラーも発売
「平忠彦になれる!」と、88年には資生堂「TECH21」カラーも発売

「平忠彦になれる!」と、88年には資生堂「TECH21」カラーも発売されるなど、レーススポンサーカラーも販売され人気を集めました。憧れのライダーと同じツナギを着て、同じカラーグラフィックスのマシンで走ることができたのです。

ZXR250がZX-25Rの前身?

 リターンライダーを目指し、四半世紀ぶりにバイク情報を更新した彼が『Ninja ZX-25R』の前身と認識したのは、1989年にデビューした『ZXR250』でした。250ccレーサーレプリカでは最後発の4気筒エンジン搭載車で、現在ではメジャーとなっている倒立式フロントフォークを市販車で世界初採用した過激なマシンです。

 ワークスマシン「ZXR-7」のレプリカとして登場した『ZXR750』をラインナップの頂点に置き、丸目のデュアルヘッドライトなどを『ZXR400』とともに踏襲した『ZXR250』はシリーズの末弟。SPレース仕様車となる『ZRX250R』も設定されていました。

ZX-25Rはレーサーレプリカではない!?

 80~90年代のレーサーレプリカは“レーサー直系”と言えるものでしたが、いま売られている『Ninja ZX-25R』はどうでしょうか。250ccクラス唯一の直4エンジンを搭載し、トラクションコントロールやアップ&ダウン対応のクイックシフターといった最新の電子制御も上級仕様のSEに装備。倒立式フロントフォークやラジアルマウントのブレーキキャリパーなど、足回りも本格派としか言いようがありません。

250ccクラス唯一の直4エンジンを搭載し、足回りも本格派
250ccクラス唯一の直4エンジンを搭載し、足回りも本格派

 8000回転からパワーが盛り上がっていき、1万5000回転を超えてもまだ回る超高回転型エンジンは、4スト250ccレーサーレプリカそのもの。高速道路での100km/h巡航は6速/9500rpmでこなし、まだまだ力が余っているから頼もしいかぎりです。

 本題に戻りましょう。『Ninja ZX-25R』はレーサー直系ではないので、レーサーレプリカと呼ぶと違和感が少しあります。公式ホームページでは“スーパースポーツモデル”と紹介されています。

“スーパースポーツ”と呼ばれるセグメントのルーツは1992年のホンダ『CBR900RR』
“スーパースポーツ”と呼ばれるセグメントのルーツは1992年のホンダ『CBR900RR』

 いま“スーパースポーツ”と呼ばれるセグメントのルーツは1992年のホンダ『CBR900RR』にあり、900ccという排気量はレースレギュレーションに合致しないものです。このモデルの登場を機に大型スポーツバイクのジャンルが確立され、これが“スーパースポーツ”と呼ばれていくのでした。

SSがレース車両へと逆転現象

「ツイスティロード(公道)最速」と過激なキャッチコピーで、98年にヤマハ『YZF-R1』(1000cc)が登場するなどレースレギュレーションとは合致しないまま、公道向け市販モデルが先行して進化していく“スーパースポーツ”でしたが、2004年にスーパーバイク世界選手権のレギュレーションが気筒数を問わず1000ccへ変更され、レーサーベースの車両へとなっていきます。

98年にヤマハ『YZF-R1』(1000cc)が登場
98年にヤマハ『YZF-R1』(1000cc)が登場

 公道向けだったはずの“スーパースポーツ”がレース向けへと昇華していくという複雑なハナシで、現在の1000ccや600ccが“レーサーレプリカ”と呼ばれない理由はココにあるのでした。

KRTエディションは正真正銘レーサーレプリカ!

『Ninja ZX-25R』の長兄にあたる『Ninja ZX-10RR』はスーパーバイク世界選手権において2015~20年まで前人未到の6年連続タイトルを獲得するなど大活躍。『Ninja ZX-25R』にもカワサキレーシングチーム=KRTエディションがありますから、『Ninja ZX-25R』は“スーパースポーツ”であると同時に、“レーサーレプリカ”でもあるのかもしれません。

『Ninja ZX-25R』は“スーパースポーツ”であると同時に“レーサーレプリカ”でもある(写真:Ninja ZX-25Rと青木タカオ)
『Ninja ZX-25R』は“スーパースポーツ”であると同時に“レーサーレプリカ”でもある(写真:Ninja ZX-25Rと青木タカオ)

 結局のところ、バイクのジャンルやカテゴリーの定義付けは難しく、呼び方もあやふやだったりします。もし、昭和のバイクブーム世代のライダーが『Ninja ZX-25R』を“レーサーレプリカ”と呼んでも、どうぞ否定しないでおきましょう。少なくともKRTエディションはお許しを。

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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