銀幕を飾ったカスタム・バイク 1969年公開の映画『イージー・ライダー』に登場したチョッパーとは

1969年に公開された「イージー・ライダー」は、公開後50年が経過した現在でも多くのファンを持つアメリカンニューシネマの代表作です。

未だ色褪せることのないアメリカン・カスタムのアイコン

 前方に延長されたフロント周りと、路面からの衝撃を吸収するリア・サスペンションを持たないシンプルなリジッド・フレーム、そしてハンドルのグリップ位置が乗り手よりも高い位置にあるエイプハンガーやコンパクトなタンク、後部が空に向かって伸びるような形状のシートなど、多くの方が“CHOPPER”(チョッパー)と聞いて、まず思い浮かべるのが1969年に公開された映画“イージー・ライダー”に登場したバイクではないでしょうか?

主役のワイアットを演じたピーター・フォンダ(手前)とビリー役のデニス・ホッパー。ピーターの後ろに乗るのはジョージ役のジャック・ニコルソン© 1969, renewed 1997 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

 そう言っても過言でないほどに映画公開当時は勿論、現在もなお、ピーター・フォンダが演じた“ワイアット”とデニス・ホッパーが演じた“ビリー”が走らせたバイクはアメリカン・カスタムのアイコンとして多くに人々に認識されています。

 米国がベトナム戦争に介入を始めた1960年代の後半から1970年代にかけて制作された“アメリカン・ニューシネマ”の多くは、1967年に公開された“俺たちに明日はない”を皮切りに、既存のハリウッド作品とは異なる“社会の闇”を描き出したものが多く見受けられます。

“イージー・ライダー”もその例に漏れず、内容はドラッグディールにより大金をせしめた主役の二人がカリフォルニアからニューオリンズの謝肉祭へCHOPPERを走らせるというロードムービーとなっており、道中、社会から逃避するヒッピーや人種差別、保守層による若者への拒絶など当時の米国が抱えた様々な問題を浮き彫りにするものとなっています。

 そうした中、スクリーン上を疾走するCHOPPERが“自由の象徴”として今も語り継がれるのは、やはり、この映画の影響が強いといえるのかもしれません。

 事実、工場から出荷されたノーマルのバイクに手を加え、乗り手、一人、一人が自由に作り上げたことがCHOPPERというカスタム・カルチャーの一つの起源であり、そもそもの根底に流れる精神なのですが、あえて言えば当時のCHOPPERは工学的な知識や技術が確立された現在のものと違い、ある意味、“自由すぎる”曖昧な目見当で製作されたものであることも否めない事実です。

当時のパーツを用いて復元されたワイアット・チョッパー

 実際、イージー・ライダーの劇中でピーター・フォンダが走らせたCHOPPERは撮影用として3台が用意されたそうですが、フレームのレイク角(フロント周りの角度)も45度と43度の二種類があったと言われています。

その誤差の理由としてあるのが、フレーム加工の際に固定する治具を用いなかったことが要因として挙げられ、当時のパーツを使用して再生された車両を押し引きしてみても、現在の技術で製作されたCHOPPERとは比較にならないくらい重いハンドリングとなっています。

 これは当時のCHOPPERというものが、“感覚的”に作られたものであることを示しており、ノーマルのハーレーより14インチ(35.56cm)延長されたと云われるフロントフォーク長も、実寸は定かではないとのことです。

ロサンゼルス市警からの払い下げで作られた主演バイク

 ちなみに、撮影当時の車両は製作総指揮を兼ねたピーター・フォンダがロサンジェルス市警から払い下げのポリスバイクを数台調達したものがベースと言われています。

 また、書類上では1965年式ハーレー・ダビッドソン、パンヘッドエンジンを搭載したデュオグライドというモデルが素材でしたが、実際の車両は1949年式以降のハイドラグライドのフレームに1952年式のエンジンを搭載したもので、ピーターが黒人公民権運動を通じて知り合った黒人のカスタム・ビルダー、“ベン・ハーディー”が製作したものとして知られています。

今なお未だ色褪せることのないアメリカン・カスタムのアイコン

 ここに紹介する車両は、1960年代当時のパーツで再生されたといわれるもので、映画公開時との相違点はフロントにミニドラム・ブレーキが装着されている部分です。
 
 1946年から1965年まで生産された小型バイク “Mustang”(マスタング)のものを流用したタンクや、四輪のクライスラー用のボタンをあしらい、“ラリー・フーパー”という職人によって張られたキング&クイーン・シート、魚の尻尾のようなフィッシュテール・エンドのアップスウィープ・マフラー、エイプハンガー・ハンドルを保持するドッグボーンライザーなど、各部には現在のCHOPPERにも通じるディテールが与えられています。
 
 これはすなわち1960年代後半に今に続くCHOPPERのフォーマットが既に確立されていたことを示すといっても過言ではありません。

 イージー・ライダーという映画が公開されてから今年でちょうど50年……それでもなお、廃れない魅力をこの一台が放っている部分こそが“永遠の定番”というフレーズを如実に指し示しているのかもしれません。

【了】

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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