オレンジ色が鮮やかな「KTM」と北欧の老舗「ハスクバーナ・モーターサイクルズ」 同じ会社で異なる哲学とは?

オーストリアに拠点を置くモーターサイクルメーカー「KTM」は、スウェーデン発祥の「ハスクバーナ・モーターサイクルズ」をファミリーの一員とし、両ブランドの製品を世に送り出しています。

ひとつの会社でふたつのブランドを両立、その違いは明確

 未舗装路を走る性能に長けた「オフロードバイク」。その特徴は衝撃を吸収しやすいストローク量の多いサスペンションや、大径スポークホイールを装備しているなどです。オフロードバイクの進化は、これらの車両を使う競技の進化とリンクしているとも言えます。

未舗装路を走る競技に特化したオフロードバイク

 ジャンプなどを設置したコースで速さを競う「モトクロス」や、ときに公道も含め、山間部などで長時間競う「エンデューロ」、または岩や崖、人工の障害物をいかに足を付かずにクリアできるかを競う「トライアル」など、オフロードバイクを使った様々な競技があり、それらの発展と共に、メーカーもしのぎを削り、専用モデルを開発しています。

 国内ではホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキが、海外ではイタリアの「BETA」、「tm」、「SWM」、スペインの「GASGAS」、フランスの「シェルコ」などが、オフロード専用モデルを発売しています。

 今回紹介するのはスウェーデン発祥の「Husqvarna Motorcycles(ハスクバーナ・モーターサイクルズ)」と、オーストリアの「KTM(ケーティーエム)」です。

 両ブランドは、世界最高峰のオフロード競技と呼ばれる「ダカール・ラリー」、北米で最も大規模な市場と世界中からレベルの高いモトクロスライダーが集まる「スーパークロス」、ヨーロッパ発祥で日本国内でも多数の競技人口を持つ「エンデューロ」など、国内外のオフロードバイクレースで目覚ましい活躍を遂げています。

長野県ワイルドクロスパークGAIAにて開催された、KTMとハスクバーナ・モーターサイクルズの2020年モデルのメディア向け試乗会

 最新モデルとなる2020年型では、KTMはフルモデルチェンジされたエンデューロモデル(EXCシリーズ)を全14機種、マイナーチェンジされたモトクロスモデル(SXシリーズ)を全9機種発表。ハスクバーナ・モーターサイクルズもエンデューロモデル全7機種、モトクロスモデル8機種を発表しました。

 オフロードバイクだけで、これほどのラインナップ数を誇る両ブランドについて、KTMジャパン・マーケティングマネージャーの西氏と、マーケティング&PRの増岡氏にお話を伺いました。

「今回は同じ会場で試乗会を開催しましたが、両ブランドは明確に分かれており、混合させないように意識しています。

 KTMは1953年、オーストリアで創業され、オフロードに特化したメーカーとしてスタートしました。KTMのフィロソフィー(哲学)は“READY TO RACE”。つまり、購入してすぐにレースに出られるパフォーマンスを持つモデルです。オフロード、オンロードを問わず“軽くて、スリムで、ハイパワー”なマシンを最優先に開発しています。

 一方、ハスクバーナ・モーターサイクルズは“PIONEERING SINCE 1903”という標語を持つ、世界最古のモーターサイクルメーカーのひとつです。その哲学は“ヘリテイジ(伝統)、スウェーディッシュルーツ(スウェーデン発祥)、プレミアム(上質な)”です」

 さらに西氏がハスクバーナ・モーターサイクルズの詳しい歴史を教えてくれました。

「ハスクバーナは、もともとミシンやキッチン用品、自転車を制作しており、自転車にエンジンを付けてモーターサイクルとして発売し始めたのが1903年ということです。つまりブランドとしては300年以上存在していることになります。

 多くの皆さんはチェーンソーのブランドとしても馴染みが深いと思いますが、じつはバイクもチェーンソーも同じ母体だったのです。

 しかし、1960~1970年代のオフロードレースでの活躍により、モーターサイクル部門が企業の投資対象となり、1977年にスウェーデンのエレクトロラックス社がハスクバーナ・モーターサイクルズを買収しました」

ハスクバーナのブランドロゴは、銃口であることをご存知でしょうか? 1689年にスウェーデン国王の勅命によりマスケット銃(火縄銃のようなもの)の工場が設立。地名であるハスクバーナの頭文字「H」を真ん中にあしらえています

 補足しますと、その後ハスクバーナ・モーターサイクルズは1987年にイタリアのモーターサイクルメーカー「カジバ」に売却され、「MV AGUSTA Motor」の傘下に入りましたが、ハスクバーナ・モーターサイクルズの開発チームはスウェーデンに残ることを選び、1988年に「フサベル」を立ち上げました。

 2007年には「BMW」によって買収されましたが、2013年にフサベルオーナーのピエラインダストリーズAGがハスクバーナ・モーターサイクルズを買収。2014年にKTMグループとして、一度は分裂したハスクバーナ・モーターサイクルズとフサベルが運命的な再会を果たし、現在に至っています。

 KTMとハスクバーナ・モーターサイクルズはエンジンや基本車体を同一にしながらも、外観だけでなく、乗り味、指向性、設計が大きく異なります。

 そのひとつがリアサスペンションです。KTMのEXCシリーズはリンクレス(リンクを介さない)PDSシステムを搭載し、よりダイレクトに路面へのトラクションを生み、木の根や丸太などの引っ掛かりを低減します。

 ハスクバーナ・モーターサイクルズのエンデューロモデル(FE、TEシリーズ)は、リンクを介したサスペンションを搭載しており、ギャップやジャンプの着地などの姿勢変化の少なさや、吸収性に優れています。

 また、KTMはアルミ製サブフレームを搭載するのに対して、ハスクバーナ・モーターサイクルズはポリアミドとカーボンを配合したサブフレームを採用し、しならせることで「サスペンションの一部」として機能させています。工具不要で脱着可能なサイドカバーも刷新されました。

 本社は共にオーストリアのマッティヒホーフェンを拠点にしていますが、両ブランドは同じジャンルの競技を戦う競合メーカー同士でもあります。今後の進化、発展に注目したいですね。

【了】

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