いつまでもあると思うなセロー! 2020年に35周年を迎える「セロー」のファイナルモデル発売、お別れの時がついに来た!!

ヤマハオフロードバイクの代表格「セロー」が、2020年モデルを最後に生産終了します。日本国内のみで販売されていた永遠のスタンダードオフローダー「セロー」は、多くのライダーに愛されたモデルでした。

スーパーローもあってウイリーの練習に最適

 ヤマハの、いや日本のオフロードバイクを代表するモデルといっても過言ではない「セロー」。初代は1985年に登場し、モーターサイクルを自然のなかで愉しむマウンテントレールというジャンルを築き、シーンを牽引してきました。2020年で35周年を迎えますが、ついに生産終了します。

ヤマハのマウンテントライアル「セロー250」に試乗する筆者(青木タカオ)

 扱いやすく、初めてのオフロード体験はセローだったという人も少なくないでしょう。フレンドリーなだけでなく、丈夫で頼もしくフットワークも軽快ですから、上級者になってもいつまでも一緒に走りたいと思わせます。だから一度手に入れると、なかなか手放さないと聞きます。いつもそばにいる、そんな相棒のようなバイクがセローです。

 初代はXT200をベースにボアを拡大し、排気量225ccで発売されました。軽量化のためセルスターターを装備していませんでしたが、当時のオフロード車では珍しいことではありません。トライアルバイクのように、歩くような速度でゆっくり野山の中を走れるよう、トランスミッションのギヤ比は1速をスーパーローとしていました。だからウイリーを練習するには最適で、セローで前輪を上げて走る感動を知った人もたくさんいるはずです。

初期型「セロー225」(1985)

 乾燥重量はわずかに102㎏しかなく、シート高も810mmと低い。乗り手の体格を選びませんから、女性にも親しまれました。軽くて足着き性が良いだけでは女性を納得させられませんから、ヤマハのオートバイらしくどこか垢抜けていたのでしょう。思い返せば、泥臭いダートの似合うバイクですが、素敵な女性たちの愛車になってきた気がしてきます。まわりにいませんか? セロー美人。

 そういう意味では、元祖ミニSUVでもあったわけで、舗装路の上でしかバイクに乗らない人にもオフロードテイスト満載なところがオシャレだったのかもしれません。ゴツゴツしたタイヤだけでなく、ヘッドライトの前にあるスタックしたときに引っ張り出すためにあるスチール製ハンドルスタンディングなど、質実剛健なところに魅了されるのだと思います。

自分の生き様、貫き通してきた!

 セローがデビューした80年代半ばは、レーサーレプリカブーム真っ只中。絶対性能がすべてで、それはオフロードバイクでも同じでした。コンペティション志向のモデルが次々に登場し、ライバルより少しでも速くというのが多くのライダーたちの目指すところでした。

街乗りでの乗りやすさもセローの魅力でした

 しかし、時代と逆行するかのようにセローはスペック重視ではありません。モトクロスやエンデューロといったレースで勝つことが目的ではなく、自然の中をバイクで駆け抜ける歓びを提案したかったのです。

 ハンドル切れ角が多く、低速で粘り強い出力特性は街乗りでも威力を発揮し、日常の足としても高く評価されていきます。乗り手だけでなく、シーンも選ばないオールマイティさが、セローの大きな魅力となったのでした。

 セローが地道にラインナップされる中、ヤマハでは同じ軽二輪クラスでTWが大ブレイクし、ストリートカスタムバイク(スカチューン)で人気を集め、さらにマジェスティがビッグスクーターブームの火付け役となります。そうしたブームでストリートが騒がしい中、セローにはまったく飛び火せず我が道を歩み続けるのも筆者の印象に残っています。まわりでどんなことが起きたって、自分の生き様を変えずブレない。セローの信念を当時感じたものです。

20年にファイナルモデル発売か!?

 空冷4ストSOHC2バルブ単気筒は着実に熟成され、開発陣らは完成の域に達したと判断します。そして次世代へのチャレンジとして、2005年にはついに排気量を250ccに拡大。セミダブルクレードルフレームを新開発し、セローは大きく生まれ変わりました。

250ccに拡大された空冷4ストSOHC2バルブ単気筒エンジン

 しかし、セローらしさは失われておらず、誰が見てもそれだと分かるスタイルを踏襲。2008年にはフューエルインジェクションを採用し、大型ウインドスクリーンやリアキャリア、アルミアンダーガードを標準装備したツーリングセローも仲間に加わります。

 そして17年夏に。排ガス規制によって生産終了となり、翌19年春に復活したのは記憶に新しいところ。クランクケース左前方に黒い箱状のキャニスターを増設し、これで当分は大丈夫と思いきや、そうでもないようです。

 2020年で今度こそ発売終了、ファイナルモデルが発売されました。もしもセローを失ってしまうと、日本のバイク界にとっては大きな痛手のような気がしてなりません。永遠のスタンダードオフローダー、いつまでも我々に寄り添ってくれるロングセラーと信じていましたが、それは見込み違いで甘かったのかもしれません。

ヤマハ「セロー250」

 いまやセローは日本でしか発売されておらず、企業としては採算のとれないモデルとなってしまっています。ちなみに兄弟車であるトリッカーはひっそりと姿を消すという情報が入りました。多くのライダーを育んでくれたセローの新車を購入するなら、もう迷っている時間はないようです。

【了】

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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