ヤマハが4輪メーカーにならない不思議 ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.118~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、4輪のエンジンを開発できるヤマハが4輪メーカーにならないことが不思議だと言います。どういうことなのでしょうか?

作れるのに作らない? ヤマハの不思議

 ヤマハは4輪のエンジンを開発しているのに、なぜクルマを作らないのか……クルマ&バイク好きの僕(筆者:木下隆之)がこれまでずっと、頭の片隅でモヤモヤと燻っている疑問がそれだ。

トヨタ「2000GT」(1967年)

 ヤマハは1967年に、のちに伝説的名車となるトヨタ「2000GT」にエンジンを供給していた。直列6気筒DOHCユニットは高性能で、スピードトライアルの3種目で世界新記録を達成している。

 ヤマハには、あの巨大メーカーであるトヨタが頼るほどの高性能エンジンの開発と生産技術があるのだから、バイクの開発にとどまらず、クルマの開発に着手しても不思議ではない。

 内燃機関の開発はとても困難である。昨日今日の新興メーカーがエンジンを開発するのは容易ではない。それが証拠に、時代がEV化に傾倒し始めると、雨後の筍のようにEVメーカーが姿を表している。つまり、内燃機関の開発は難しく、既存の内燃機関メーカーでしかクルマを開発できない。電気モーターならば簡単だ。というほどにエンジンの開発は難しい。そんな技術を備えているのに、ヤマハはクルマを開発してこなかった。

 ホンダはクルマに進出して成功。F1の頂点を極めた。スズキも自動車メーカーだ。一方、カワサキはバイクを専業としている。ヤマハへの疑問をカワサキにも投げかけたい。

 ちなみに、一斉を風靡したトヨタ「セリカ1600GT」や、「レビン/トレノ」といったスポーツカーの、名機2T-Gエンジンの開発にもヤマハが深く携わっている。1G-Gや4A-Gも同様だ。トヨタの5バルブエンジンもヤマハの高回転技術が注がれている。レクサス「NX」や「IS」が採用している直噴ターボエンジンもヤマハの知見が注がれている。

 自動車メーカーを夢見ながら内燃機関の開発力が無く、進出できなかった幻のメーカーは数多くあった。というのに、優れた心臓部を開発できるヤマハは自動車メーカーにならなかった。

 2015年の東京モーターショーにヤマハは、デザインコンセプトモデルとして4輪スポーツカー「Sports Ride Concept(スポーツライドコンセプト)」を発表している。具体性を欠くコンセプトモデルではなく、今にも走り出しそうなほどリアリティがあった。

東京モーターショー2017に出展されたヤマハ発動機のデザインコンセプトモデル「CROSS HUB CONCEPT(クロスハブコンセプト)」

 2017年にも同様に、参考出展車としてSUVスタイルの「CROSS HUB CONCEPT(クロスハブコンセプト)」をワールドプレミアしている。その後に訪れたSUV時代を予見していたことは明白であり、つまり技術研鑽のためのプロトタイプではなく、クルマの商品化を見据えたプロジェクだ。

 謎はさらに深まる……だがその謎が、ヤマハの技術力の高さを想像させ、ミステリアスな存在にしている。技術があるのにクルマは作らないなんて、ちょっとカッコいい。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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