フロントブレーキの「リストバンド」は、何のため?
バイクのロードレース中継などを見ていると、オンボード映像で目に入るフロントブレーキのマスターカップに巻かれた「リストバンド」っぽいモノに気が付きますが、コレっていったい何のため? まさかドレスアップではないと思いますが……?
じつは、本当にリストバンドだった!?
レーシングマシンのフロントブレーキのマスターカップには、なにやらリストバンドのようなモノが巻かれている場合が多いです。一般ライダーのバイクではあまり見られませんが、じつは1980年代半ば頃から爆発的に盛り上がった「レーサーレプリカ」では、皆がこぞって巻いていました。

このリストバンド状のモノは、正しくは「マスターシリンダーカップバンド」とか「リザーバータンクカバー」と呼ぶ、レース用のパーツです。一見するとテニス選手などが使っている、汗をぬぐうためのリストバンドに見えますが、昔は本当にスポーツ用のリストバンドを流用していました。
それではなぜ巻いているかというと……ブレーキフルードの飛散を防ぐためです。
超高速での、ブレーキフルードの飛散を防止
油圧式ディスクブレーキに使用されるブレーキフルードは、慣例的にはブレーキオイルと呼んでいますが、実際はオイル(油)ではなく、ポリエチレングリコールモノエーテルが主流になります。

この物質は溶剤として使われることもあり、プラスチックなどの樹脂系のパーツを傷めやすいのです。また、非常に浸透性が高いため、マスターカップのキャップがしっかり閉まっていても、ほんの僅かに滲み出ることがあります。
とはいえ、本当にほんの僅かに滲むかも……というレベルなので、普段乗りやツーリングに使っているバイクなら、たまに洗車すれば特に問題ありません。
しかし本格的なレースとなると状況が変わってきます。それは、ライダーがストレートで思いっ切りピッタリと伏せるからです。

燃料タンクにヘルメットのアゴが当たるくらいピッタリ伏せると、ブレーキのマスターカップがすぐ目の前にあります。そのため、わずかに滲んだブレーキフルードが飛沫となって、ヘルメットのシールドに付着する可能性があります。
ほんの泡粒のような付着でも、レースの高速走行(MotoGPなら300km/h以上!)で風圧を受けたら、ヌラヌラと広がって視界を妨げる危険があります。本格レースでは視界をクリアに保つためにティアオフシールド(捨てバイザー)を使いますが、それでも万全を期すために、滲んだブレーキフルードが飛散しないように、マスターシリンダーのカップに吸着するためのバンドを巻いているのです。
樹脂パーツやペイントの保護に効果的
とはいえ一般ライダーは、300km/hもスピードを出さないし、燃料タンクにアゴが着くほど伏せることも無いので、マスターカップにバンドを巻く意味はない……というワケでもありません。前述したようにブルーキフルードは、樹脂パーツや塗装を傷める性質があるからです。

マスターカップからのにじみはほんの僅かなので、カウリングや燃料タンクなどのペイントに付着しても気づかないかもしれません。しかしそれを放置していると、付着した部分のペイントが溶けて剥げてしまいます。
そこで、マスターシリンダーカップバンドを巻いておけばブレーキフルードを吸着するので、飛散や付着の心配がありません(たまには外して洗濯するのがオススメ)。
ちなみにWEBで検索すると、バイクメーカーやパーツメーカーなどから、かなりの種類が販売されています。たとえばホンダのレース部門であるHRCでは、MotoGPワークスマシン「RC213V」に使用しているモノと同一品を販売しています。
というワケで、機能性はもちろんドレスアップも兼ねて、愛車にマスターシリンダーカップバンドを装着するのは大いにアリだと言えます。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。













