34年前のハーレー・カスタム 世界のシーンにその名を刻むショップ『ホットドック』の原点となる一台とは

日本のハーレー・カスタム黎明期の時代から現在まで様々なカスタムバイクを手掛けてきた『ホットドック』は、国内のみならず、海外でもその名を知られている老舗ショップです。そんなショップの原点となる『Baby Face』は、日本のカスタムの歴史に名を残すべき名車と呼べる存在でしょう。

日本を代表するカスタム・ビルダー、河北啓二氏 その原点と呼べる34年前に製作されたローライダー・カスタム

 日本でハーレー・ダビッドソンのカスタムがまだ黎明期だった1985年、そんな時代に東京の練馬にショップを構える『ホットドックカスタムサイクルズ』が製作した1台のカスタムバイクは、ある意味、その後の我が国のシーンの方向を決定づける存在だったのかもしれません。

初代ローライダーの面影をそのままに、各部をスープアップしたスタイルが印象に残るこの一台。歴史に残すべきマシンです

 当時のハーレー・カスタムといえば、あくまでもチョッパーを基準とした『アメリカナイズ』されたものが中心でしたが、ビルダーの河北啓二氏は、それまでと違うアプローチで『Baby Face』と名付けられた1台のビルドアップに着手します。

 河北氏自身が若き日にハーレーへの興味を抱くキッカケとなったモデル「FXSローライダー」をベースに、ヤマハTZ用のフロントフォークやブレンボ製キャリパー、アールズのフィッティングなどのレーシングパーツをハーレーのカスタムに取り入れた発想は、当時としてかなり斬新なものであったことは想像に難しくありません。

フロントフォークはヤマハのレーシングマシン、TZのものを流用。オリジナルの大径フローティングローターにブレンボ製キャリパーをダブルで装着しています

 フレーム交換がイコールでリジッド化という時代において、クロモリ鋼でメインフレームを製作し、イタリアのビモータからヒントを得たエキセントリック式のチェーン引きを採用したスイングアームを装備する車体構成は、当時として画期的なものであり、その後のホットドック製カスタムの『ロー&ロング』のイメージを決定づけるものとなっています。

イメージ・ソースは国産のレーシングバイク

 ちなみに河北氏曰く、このドラッグレーサーを彷彿とさせるスタイルのイメージ・ソースはハーレーのソレではなく、80年代のスズキ「GS」やカワサキ「Z」系のプロストック・ドラッグレーサーをモチーフにしたとのことですが、このように他のジャンルに目を向ける視野の広さも(当時として)新しいスタイルを創る秘訣なのかもしれません。

クロモリ製フレームを骨格とした車体は純正と比較して明らかにロー&ロングなフォルムを実現。まさにホットドック・スタイルの原点と呼べる一台です

 また、このマシンの中で評価すべきポイントとして挙げられるのが、あくまでも『ハーレーらしさ』をキープしている点で、前述のフレームやスイングアームはもとより、タンクやフェンダー、シートといった外装の数々はオリジナルで製作されたワンオフ(一品もの)なのですが、フォルム全体はノーマルのローライダーをマッシブ(いかつい)なムードに昇華させたものとなっており、まるでハーレーの魅力をさらに強調したかのような雰囲気とされています。

 1977年に登場した名車であるFXSローライダーのフォルムを、そのままエクステンドしたかのようなムードは、このマシンが製作された1985年から34年経った今に見てもなお、色褪せるものではないことが、きっとお分かりになるでしょう。

ベースとなったハーレー・ダビッドソンのFXSローライダー。今なお高い人気を誇る名車です

 2008年に米国の老舗パーツメーカーである『S&S』社が創業50周年を記念したイベントを開催し、ウィスコンシン州に世界各国から選抜されたカスタム・ビルダーが50名集められ『ワールド・ラージェスト・ビルドオフ』というコンテストが開かれましたが、ホットドックの河北啓二氏はそこで見事、頂点に立った実力を持つ人物です。そんな河北氏の原点と呼べる『Baby Face』も、やはり日本のカスタムの歴史に名を刻むべき一台です。

【了】

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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