普通二輪免許で乗れるアドベンチャーモデル KTM「390アドベンチャー」が乗りやすかった理由
アドベンチャーモデルに排気量400cc以下の新型、KTM「390アドベンチャー」が登場しました。一体どんな乗り味なのでしょうか? 和歌山利宏さんが試乗します。
意外や意外、ゆったり快適な本格派。アドベンチャーの敷居を下げる存在
オーストリアのKTMは「購入してすぐにレースで走れるポテンシャルを持つバイク」をコンセプトに製品づくりを続けるメーカーです。なかでもアドベンチャーモデルは排気量799ccと1301ccのエンジンを搭載する全7機種をラインナップし、そこへ最小排気量となる373.2ccの「390 ADVENTURE(390アドベンチャー)」が加わりました。
KTMのアドベンチャーと聞くと、オフロード性能に抜かりのない本格派であっても、小柄なライダーには御せそうにない大柄で手強いイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この「390アドベンチャー」にしても、KTMのネイキッドモデルである「390デューク」をベースにしているとは言え、フレームは専用設計、フロントに19インチホイールを履き、前後サスペンションストロークも140/150mmから170/177mmへと伸長されており、まさに本格派です。しかも、シート高の諸元値は855mmもあるのですから、ちょっと気軽には乗れそうにないと思って不思議ではないところです。
でも嬉しいことに、車体が単気筒らしくスリムなので足つき性は数字ほど悪くなく、また車体が軽量であるため、足つき時の肉体的負担もあまり感じられません。身長161cmの私(筆者:和歌山利宏)でもツーリングに出掛けようという気にさせられるほどですから、人並みの体格なら十分にコミューターとしても使えるはずです。
ただ私はじつのところ、この「390アドベンチャー」に対し、試乗前にあらぬ妄想を抱いていました。“READY TO RACE(レディ・トゥ・レース)”がキャッチフレーズのKTMだけに、軽量な車体を生かした軽中量級ラリー仕様のような運動性を前面に押し出した走りを想像していたのです。「390デューク」の素性からしても、その見立ては自然かと思います。
ですが、その予想は見事に外れていました。真逆だったのです。大型アドベンチャーツアラーであるかのように、ゆったりと安定した走りで、じつに快適なのです。実際、サスペンションストロークの増大、フロントホイールの大径化だけでなく、デュークよりもホイールベースは73mm長く、キャスター角も1.5度寝かされているのですから、当然とも言えます。
加えて、フロントカウルを構成する部品群がマシンの挙動をゆったりと安定させているかのようでもあります。その意味では、アドベンチャーらしい装いを身に付けた以上、こうしたハンドリングにならざるを得なかったのかもしれません。
とは言え、こうした車輌性格は大変に現実的です。使えるだけでなく、アドベンチャーのエントリーモデルとしても存在価値があります。とすると、KTMはレディ・トゥ・レースを捨てたというのでしょうか? 決してはそうではありません。
この走り味は、悪く言えば大型車に軽中量級のエンジンを載せたものと言えなくもないところです。それでもスロットルを開けるや、ダイレクトに鼓動感を伴ったトルク感が高まります。ひ弱さはありません。
それに何より、オフロードにおいて不整路面にバランスを崩しそうになっても、このパンチがあるトルクによってトラクションを得られ、極端な場合、スライドを誘発することでマシンをコントロール下に置けるはずです。今回はオフロードに脚を伸ばす機会はなかったのですが、これならアドベンチャーらしく、オフロードの走破性も問題なさそうです。
たとえレディ・トゥ・レースを前面に押し出さなくても、マシンコントロール面ではKTMらしく、そのポリシーが貫かれているといったところでしょうか。もっと言えば、今日のKTMはスパルタンさを抑え、多くの人に現実的で扱いやすいものを目指しているのかもしれません。
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KTMのネイキッドモデル「390デューク」から派生した普通二輪免許(いわゆる中免)で乗れるアドベンチャーモデル「390アドベンチャー」の価格(消費税10%込み)は75万9000円、生産国はインドです。
【了】
Writer: 和歌山利宏
1954年2月18日滋賀県大津市生まれ。1975年ヤマハ発動機(株)入社。ロードスポーツ車の開発テストにたずさわる。また自らレース活動を始め、1979年国際A級昇格。1982年より契約ライダーとして、また車体デザイナーとして「XJ750」ベースのF-1マシンの開発にあたり、その後、タイヤ開発のテストライダーとなる。現在は、フリーのジャーナリストとしてバイクの理想を求めて活躍中。