米国カスタムシーンに新たな流れをもたらしたバイク サリナスボーイズ「ブルー・ボバー」とは

米国のカスタムシーンでは約10年周期で新たな流れを生むカスタムバイクが登場してきました。ここに紹介する「サリナスボーイズ」が手掛けた一台もまさにそうしたキッカケを生み出した一台といえるでしょう。

新たな流れを産んだ「サリナスボーイズ」

 近年の米国のカスタム・シーンを振り返ると90年代後半から2000年代にかけて、「ウエストコーストチョッパーズ」のジェシー・ジェームスが生み出した『ネオ・チョッパー』が業界を牽引し、その流れが2000年代の中頃まで続いたのですが、そうした中、新たなスタイルを提唱し、今に続くシーンに最も強い影響を与えた男が「サリナスボーイズ」のコール・フォスターであることに異論を挟むカスタム・マニアは、きっと少ないでしょう。

今でこそコンパクトなカスタムは一つの主流ですが、この”BLUE BOBBER”が製作された2002年ではかなり斬新。エボ・スタイルのエンジンはレブテック製88cu-in(撮影 増井貴光)

 ちなみにこのサリナスボーイズとは、米国の北カリフォルニアで1989年に創業された四輪の“ホットロッド”のカスタムショップなのですが、2002年にハーレーのアフターマーケットパーツディストリビューター(卸売業者)であるCCI(カスタムクローム)から依頼を受け、同社のカタログに掲載されるデモマシンを製作。このページで紹介する『ブルー・ボバー』をはじめとする車両でバイクのカスタム・シーンに登場した経緯を持ちます。

 現在でこそ車体のシルエット全体を凝縮したようなコンパクトなフォルムを持つカスタムが一つのスタイルとして確立されているのですが、それもここに紹介するサリナスボーイズの『ブルー・ボバー』というマシンが登場して以降のもの。では、なぜ彼はこの「ボバー」という言葉をカスタムネームとして選ぶに至ったのでしょうか? 今回、改めてその件についてインタビューを試みてみたのですが、コール・フォスターは以下のように語ります。

「最初、CCIからカスタム製作を依頼された時に“何かショー・ネームをつけてくれ”って言われてね。それで色々と調べたところ、この言葉に行き着いたんだ。当時のカスタムシーンといえばワイドタイヤのビッグ・チョッパーが主流で、それにオレは辟易していたんだけど、その逆がボバーさ。このスタイルにはバイクを機能させる必要最低限のものしかない。そこがフィットしたんだ」と彼は言います。

温故知新の精神が根付くカスタムバイク

 ちなみにこのマシンはパーツディストリビューターであるCCI(カスタムクローム)がカタログに掲載さするデモ・マシンとして製作を依頼したものですが、こうして新たなスタイルを提唱することも、メーカーのプロモーション活動として大切な項目です。

Cole Foster 1964年カリフォルニア州サリナス出身。四輪のドラッグレーサーとして活躍した父、パット・フォスターの元で育ち、自然にその影響を受けた結果、10代の頃よりホットロッドやチョッパーの製作を開始。1989年に自らのショップ、サリナスボイースを創業してからもホイールの数を問わず、様々なカスタムをクリエイトし、2002年には大手H-Dパーツ・ディストロビューターであるCCIのデモ・バイクを製作。この時の“BLUE BOBBER”が現在のシーンに影響を与え、新たな潮流を生み出したといっても過言ではありません。クルマの世界でも2013年にNational Hot Rod Hall of Fameに選出。まさに名実ともにトップビルダーです。

 チョッパーがチョッパーとなる以前、米国のカスタム・スタイルが『ボバー』と呼ばれていることは以前にも当サイトでお伝えしましたが、その手法は無駄なパーツをそぎ落とし、『走り』の性能を追求したいわば『レーサーレプリカ』のようなものです。

 1930年代にアメリカのAMA(米国のレース団体)が『レースに参加するライダーはサーキットまで自走で来ること』を前提とした“Cクラス”というレースを開催したことが発展のキッカケとなっているのですが、コール・フォスターが生み出した“サリナスボーイズ・ボバー”スタイルも、そのコンセプトはまさに『走り』を念頭に置いたもので、まさに現在的なスタイルにアレンジして『ボバー』を蘇らせたといえるものです。
 
 そのコール・フォスターというビルダーが生み出すカスタムは2003年の『ブルーボバー』以降も “ムーンロケット”や“スペシャルK”、“ビューティフルルーザー”など基本的にスタイルのシルエットがすべて一貫しているのですが、その彼がカスタムを生み出す源泉は何かと考えると、それは『温故知新』の精神に他なりません。

今やひとつのトレンドとなったサリナス・ボバー

 実際、コールによると今回、紹介した『ブルーボバー』のスタイルは、旧き時代のJAWA製スピードウェイ・レーサー(1929年にチェコスロバキアで創業されたメーカー)の姿からヒントを受けたそうで、そこにホットロッド・ビルドで培ったシートメタル(板金)の技術を掛け合わせたもの。また、彼の目から見て海の向こうである90年代の日本のシーンを見て『ハンドメイドのチョッパー』の魅力を再認識したことも大きかったといいます。

こちらの“スペシャルK”と名付けられた一台はC・フォスターと同じくSINNERS(米国のバイク&ホットロッドクラブ)のメンバーであり、友人のジェフ・デッカーの奥様、ケリーに向けて共同で製作。全体的なフォルムは『ブルーボバー』を踏襲しますが、オイルタンクやエアクリーナーはジェフの手によるアルミ鋳物製を装着。またフロント回りのナセルの処理も秀逸で、ここが功を奏して車体はどこかノスタルジックな雰囲気となっています

 現在、日本はもとよりインドネシアやマレーシア、タイなどでも“サリナス・ボバー”的なスタイルのマシンが多く見られ、カスタムショーのアワード・コンペティションに於いてそれが一つのトレンドとなっていますが、やはりこのスタイルの出現は、現在のカスタムシーンを語る上で大きな存在です。

 過去のカスタムシーンを振り返るとボバーからチョッパー、ディガーにストリートロッド、そしてネオチョッパーと約10年周期で新たなスタイルのカスタムバイクが出現してきましたが、そうした法則を考えると、そろそろ革新的なマシンが誰かの手によって登場する時期に差し掛かっているのかもしれません。

【了】

【画像】サリナスボーイズが手掛けたカスタムバイク(8枚)

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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