スズキ「GSX-R1000R」 現行リッタースーパースポーツをあえて“親しみやすさ”で選ぶなら!?

大排気量レーサーレプリカの先駆車として、1985年から発売が始まったスズキ「GSX-R」シリーズ。その最新作(2020年型)となる「GSX-R1000R」はどんな乗り味なのでしょうか。二輪専門誌などで活動するライターの中村友彦さんが試乗します。

数年前まではクラストップだったものの……

 長きに渡って熟成を続けて来た「GSX-R750」の排気量を拡大する形で、「GSX-R1000」がデビューしたのは2001年、以後の十数年間、スズキはリッタースーパースポーツ市場をリードしていました。ただしここ数年は、他社にやや遅れを取っている印象です。

スズキ「GSX-R1000R」(2020年型)に試乗する筆者(中村友彦)

 具体的な話をすると、日本仕様で197PS(海外仕様では202PS)の最高出力は、クラス平均値に到達していないですし、近年の流行である電子制御のサポートはかなり控えめ。誤解を恐れずに言うなら、近年のリッタースーパースポーツの先鋭化に、スズキはあえて背を向けているのかもしれません。

 だから……とは言い切れないのですが、その価格(消費税10%込み)はライバル勢を大幅に下回っています。

スズキ「GSX-R1000R」215万6000円
ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE」242万円/278万3000円(SP)
ヤマハ「YZF-R1」236万5000円/319万円(R1M)
カワサキ「Ninja ZX-10R」210万1000円/270万6000円(KRT)/298万1000円(10RR)

 これらと比べれば、現在のGSX-Rの立ち位置が理解できるでしょう。なお海外のスズキのラインアップには、さらに安価なスタンダードの「GSX-R1000」が存在しますが、日本ではショーワ製の高性能ショック、BFFとBFRC-liteを装備する、上級仕様の「R」のみが販売されています。

ライバル勢とは一線を画する、親しみやすい特性

 ここまで読まれた方は、クラストップを目指さない(?)近年のスズキの姿勢に、何となく違和感を抱いているのではないでしょうか。しかし今回の試乗で、さまざまな場面でこのバイクをじっくり走らせた私(筆者:中村友彦)は、ライバル勢とは一線を画する、GSX-R1000Rならではの魅力に、改めて感心することになりました。

スズキ「GSX-R1000R」(2020年型)100周年記念カラー

 私が考えるGSX-R1000Rならではの魅力は“親しみやすさ”です。その象徴が、リッタースーパースポーツにしては足つき性が良好で、上半身の前傾が緩めの乗車姿勢、このバイクは跨った際に感じるハードルは意外に高くありません。

 そして実際に走り始めると、可変バルブタイミング機構(SR-VVT)と、クイックでも安定指向でもないニュートラルなハンドリングのおかげで、低中回転&低中速域でも、十分にスポーツライディングが楽しめます。

 そういう特性だから、ライバル勢の多くが苦手としている、混雑した市街地や見通しの悪いタイトな峠道でも、GSX-R1000Rはあまりストレスを感じません。

 サクッと書いてしまいましたが、それは賞賛に値することです。ライバル勢の場合は、サーキットでの運動性能に特化した結果として、日常域ではツラさや味気なさを感じることが少なくないのですから。

 もっとも、現代のリッタースーパースポーツはスーパーバイクレースや耐久選手権のホモロゲーションモデルなので、日常域を度外視した市販レーサー的なキャラクターは、それはそれで否定するべきではないでしょう。ただし、レースが前提のモデルでも、日常域での使い勝手を犠牲にしないスズキの姿勢に、共感する人は少なくないはずです。

サーキットでも十分以上に速い

 では、肝心の運動性能、高回転&高荷重域を駆使して走るサーキットではどうかと言うと、十分以上に速いというのが、率直な印象です。もちろん、ストレートが長いコースでは力不足を感じる可能性があるし、タイムを追求してセッティングを煮詰めていくと、電子制御のメニューに物足りなさを感じるかもしれません。

 とはいえ、私を含めた一般的なライダーが、年に数回のサーキット走行会を楽しむレベルであれば、ライバル勢に負けたと感じる場面には、なかなか遭遇しないはずです。それどころか、前述した親しみやすさのおかげで、不慣れなサーキットでは、ライバル勢より速く走れるかもしれません。

先代やBMWとの比較で気になった要素

 そんなわけで、GSX-R1000Rにかなりの好感を抱いている私ですが、誉めてばかりでは何なので、以下に2つの気になった点を記します。

スズキのリッタースーパースポーツ「GSX-R1000R」には、ライバルモデルの中では“親しみやすさ”を感じるという中村さん

 まずひとつ目は、エンジンが発生する振動。ライバル勢と比べて明らかに多いわけではないですが、エンジンフィーリングの滑らかさという点では、バランサーを装備していた2016年型以前のほうが上でした。

 ちなみに振動緩和用のバランサーには、重量とフリクションが増加するというデメリットがあるのですが、GSX-R1000Rのキャラクターを考えると、やっぱ現行モデルでも採用するべきだったと思います。

 そしてふたつ目は、海外からの刺客であるBMW Motorrad「S1000RR」が、2019年型でGSX-R1000Rに通じる親しみやすさと、クラストップと言うべき速さを両立してしまったことです。

 もちろん、この件はスズキの責任ではないですし、厳密に言うなら低中回転&低中速域の楽しさは、個人的にはGSX-R1000Rに分があると思います。でも多種多様な電子制御と独創的なシフトカムを採用する、最新のS1000RRを体験した私は、これが今後のGSX-Rの目指すべき道なのかもしれない……と感じました。

 ただしS1000RRは、価格がGSX-R1000Rより高い231万3000円からで、部品代や整備費用もスズキより高いようですから、このあたりをどう考えるかで、各車に対する評価は変わって来るでしょう。

ツーリングが楽しめるし、初心者にも最適

 さて、最後になって微妙な展開になりましたが、例えばどこかの編集部から「現行リッタースーパースポーツのいずれかでロングツーリングしませんか?」という仕事の依頼が来たら、私は即座にGSX-R1000Rを選びます。

スズキ「GSX-R1000R」(2020年型)100周年記念カラー

 また「初めてのリッタースポーツに最適なモデルは?」と聞かれたら、その答えもGSX-R1000Rです。スペックや装備の豪華さを重視する人にとっては、所有欲がそそられないモデルかもしれませんが、日常域における親しみやすさという観点なら、現行リッタースーパースポーツでGSX-R1000Rに勝るモデルは存在しないのですから。

【了】

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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