BMW「R 18」とトライアンフ「ロケット3R」に乗って実感 多様化するクルーザーは可能性無限大&激戦区に!!
BMW Motorrad史上最大排気量となる1801ccフラットツインエンジンを搭載してデビューした「R 18」は、クルーザーセグメントを活性化させる注目株です。また欧州発なら量産モーターサイクル用としては世界最大排気量のトライアンフ「ROCKET 3R」も忘れてはなりません。クルーザーに精通するモーターサイクルジャーナリストの青木タカオさんに最新事情を聞いてみました。
近年人気の、パフォーマンスクルーザー
ハーレー・ダビッドソン(以下、ハーレー)やインディアンなど、Vツインエンジンを搭載したアメリカンクルーザーが主役の座を担ってきたクルーザーセグメントですが、昨今では両ブランドのラインナップに新しい動きが見られます。
従来では大陸横断をも前提とした長距離グランドツアラーを頂点に、いかに疲労度を軽減し、荷物もたっぷり積めるという評価軸をメインストリームとしてきましたが、ワインディングも攻められるほどにエンジンや足まわりを強化したスポーティな走りに重きを置いたモデルが続々と登場し、人気を博しています。
カスタムシーンをルーツに、“パフォーマンスクルーザー”や“パワークルーザー”とも呼ばれ、大排気量Vツインならではのテイスティなトルクフィールをそのままにパワーアップし、サスペンションやホイール、ブレーキもグレードアップ。豪快にコーナーを駆け抜け、直線ダッシュも痛快なものにしています。
フロント17インチで旋回力も疎かにしないトライアンフ「ROCKET 3R(ロケット・スリー・アール)」はこの新種に属し、剛性の高いアルミフレームに倒立フォークや片持ちスイングアーム、ラジアルモノブロックキャリパーなど、ロードレース由来の高性能パーツが惜しみなく注ぎ込まれています。ライバルはドゥカティ「ディアベル」やヤマハ「VMAX」などストリートファイター的な要素も取り入れたメガクルーザーも加わってきます。
BMW Motorradも1990年代後半に「R 1200 C」シリーズをリリースしたとおり、ハーレーなどアメリカンブランドに欧州や日本メーカーが挑むという図式が昔からある一方で、ハーレーもまた日欧スタイルのストリートファイター「BRONX(ブロンクス)」の開発を2019年に公表するなど、メーカーやジャンルの垣根を越える戦いがますます熾烈化しようとしています。
同じセグメントでも、似て非なるキャラクター
そう考えると、スチール製の鋼管ダブルクレードルフレームに伝統のOHV水平対向2気筒エンジン(=ボクサーツイン、フラットツイン)を搭載するBMW Motorrad「R 18(アール・エイティーン)」は、オーソドックスな路線と言えるでしょう。フロント19/リア16インチは落ち着いたハンドリングを生み出すにはうってつけで、ハーレーも長年ベーシックとしてきました。
1936年式「R 5」へのオマージュだと言う通り、正統派ヘリテージであり、パフォーマンスクルーザーとは一線を画しますが、それは見た目でも明確です。試乗した「First Edition」ではレトロな外観にクロームパーツが多用され、白のピンストライプのペイントワークが施されました。
シート下にカンチレバー式のモノショックを隠し、リアアクスルをめがけて伸びるスイングアームなどはリアショックを持たなかった時代のリジッドフレームのシルエットを再現したもの。フィッシュテールマフラーやスポークホイールといった装備面も、「R 18」の歴史的なルーツを反映しています。
一方「ロケット3R」では、エンジンも足まわりもブラックが基調で、ハイドロフォーム製法の3ヘッダーエキゾーストパイプが黒とは対照的に鈍く光り、コンストラクトを演出。車体デザインにクラシックテイストはなく、スタイルからして別ジャンルであることがわかります。つまり、クルーザーと言ってもキャラクターが異なり、多様化・細分化しているのです。
エンジンもまったく違うフィーリング
走って感じるライドフィールも別モノと言えます。「R 18」のトコトコトコと軽やかに回るフラットツインはジェントルで、シリンダーを水平配置したことによる低重心が抜群の安定性を発揮します。セルスターターを押せば、横揺れとともに乾いたサウンドを奏で、スロットルを煽る度に車体がトルクリアクションで左に傾きます。この強烈なクセは、ボクサーツインのファンにはたまらないものでしょう。
「ロケット3R」の並列3気筒エンジンも、駆動輪のアクスル脇までクランクの回転方向をそのまま維持するクランク縦置き+シャフトドライブ。スロットルを開けた瞬間に車体が左側に傾こうとする独特の挙動が発生します。
2458ccという規格外の大排気量でビッグトルクを発揮し、加速力は停止状態から100km/hまで2.89秒と驚異的。スロットルをラフに開けると、トラクションコントロールが介入するほど低速域も力強く、DOHC4バルブらしく全域フラットに伸び上がり、高回転域まで胸のすく加速感が得られます。
不等間隔爆発となるハーレーのVツインは荒々しさがあり、エンジンフィーリングは大きく異なります。今後、水冷60度Vツインも登場するほか、最新ビッグツインは114キュービックインチ=1868ccにまで排気量を拡大しています。純正キットでも2000cc超えとなり、スケールアップに拍車がかかるのは間違いありません。
それぞれに持ち味があって個性をぶつけ合うクルーザーセグメントの多様化は、2021年も勢いが衰えることはないでしょう。
【了】
Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。