ついにベールを脱ぐ新型YZR-M1が目指したのは“旋回性” モルビデリのみが駆る“Aスペックプラス”との違いとは?

MotoGP参戦体制を正式に発表したヤマハは、バレンティーノ・ロッシにはファクトリー・スペックのYZR-M1を供給。2020年シーズンに3勝を挙げたフランコ・モルビデリは、旧型をベースにしたAスペック(2021年型はAスペックプラス)で走ります。

2021年型YZR-M1の開発テーマは“旋回性”

 世界GP参戦60周年を2021年に迎えるヤマハが、MotoGP参戦体制を正式に発表した。

 ファクトリー・チームの『モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP』のマーベリック・ビニャーレスとファビオ・クアルタラロに加え、今年からサテライト・チームに所属するバレンティーノ・ロッシには、ファクトリー・スペックのYZR-M1を供給。ロッシと同じ『ペトロナス・ヤマハ・セパン・レーシング・チーム』のフランコ・モルビデリは、これまで通り、旧型をベースにしたAスペック(2021年型はAスペックプラス)のM1で走る。

ペトロナス・ヤマハ・セパン・レーシング・チームのフランコ・モルビデリは、旧型をベースにしたAスペック(2021年型はAスペックプラス)のM1でMotoGPクラスに参戦

 昨シーズンのヤマハは、全14戦中7勝、勝率5割の結果を残したが、2020年型のマシンに限っていえば3人で4勝。一方、Aスペックで戦ったモルビデリはひとりで3勝を挙げた。

 必ずしも“最新のマシンこそ最良のマシン”でないことが証明されたわけだが、だからということではないだろうが、新しいマシンのコンセプトは、2019年型を踏襲したものになるようだ。

 ペトロナスのチームマネージャー、ウィルコ・ズィーレンベルグは「ファクトリー・スペックが取り戻すべきは“旋回性”」と話す。

2019年型のシャシーを使用したAスペックでシーズン3勝を挙げたモルビデリ(写真:2020年シーズン)

「2019年型のシャシーを使用しているAスペックは、2020年型と少し幅が違う。ファクトリー・スペックのバイクで走るライダーたちは、シーズン前のテストではハンドリングに満足していたが、いざシーズンが始まると、いくつかのコースで予期していなかった問題が発生したんだ」と当時の状況を説明する。

「だからヤマハは2020年型のシャシーを改良し、2019年型と同じ旋回性を持つようにしたいと考えているんだ。彼らはフランキーのバイクとファクトリー・スペックのバイクのデータを比較して、問題の原因が判明したと確信しているようだ」

 通常、ヤマハは小さなステップを積み重ね、開発を進めていくそうだが、2020年は大きなステップを踏み、それが結果としてやや裏目に出た。マレーシア・チームの代表を務めるラズラン・ラザリは、こう振り返る。

「ファクトリー・スペックのM1は、全く新しいバイクだとヤマハは言っていた。全てにおいて良くないバイクというわけではなかったが、初年度ということもあり、テストが不足していた。彼らがより良く開発すれば素晴らしいものになっていただろうが、それ以上の開発ができなかったということだ」

 ペトロナスはマシンを貸与されるサテライト・チームであり、主に財政的な理由からモルビデリにはいまだにファクトリー・スペックのマシンが与えられないが、そのことが2020年のヤマハとペトロナスにとって保険となった。

サテライト・チームに移籍したロッシが駆るヤマハの2021年型YZR-M1(ファクトリー・スペック)

 すでに公開されているファクトリー・チームのマシン画像では、フロントタイヤとの間隔が大きくなるようにラジエーター付近のカウル形状を変更。リアフェンダーも穴が空いたデザインを採用しており、こちらも昨シーズン苦しんだ、タイヤのオーバーヒート対策を施してきたことが見て取れる。

 カタールのロサイル・インターナショナル・サーキットで始まるプレシーズンテストには、“旋回性”の向上を目指し、素材の異なるスイングアームなど、さまざまなパーツが持ち込まれることだろう。

モルビデリが駆る“Aスペックプラス”とは?

 Aスペックのマシンは“旋回性”に優れるが、ファクトリー・スペックのトップスピードに対抗すべく、エアボックスの設計が変更され、2019年型をベースにするシャシーにもいくつか手が加えられている。また、昨年同様、シーズン中のアップグレードも約束されているという。

ファクトリー・スペックとは違う不利なマシンでも勝利を貪欲につかみにいくモルビデリ

 最新のパーツが回ってこないことは不利であることに違いないが、モルビデリはそのことをあまり気にはかけていないようだ。

「最新のバイクは最も伸びしろが多く、自分のバイクは最も少ない。ファクトリーのエネルギー全てが最新のパッケージに注ぎ込まれているから当然だ。でも僕のマシンに適応するパーツもあるし、与えられたパッケージから最大限のものを引き出すのが、僕の仕事なんだ」

 チームディレクターのヨハン・スティグフェルトもAスペックであることが障害にはならないと考えている。ホルヘ・ロレンソを3回のMotoGPクラス王者に導いたラモン・フォルカダが、クルーチーフとしてサポートしてくれることも心強い。

「フランキーは自分のマシンにとても慣れているし、ラモンとフランキーはシャシーのセットアップに関して、他の3人のヤマハライダーがしなかった方法を見つけた。レースで結果を残すには、新しいパーツだけでなく、多くのセッティングが必要なんだ。フランキーは2年前からこのバイクと向き合っていて、どんどん良くなっているんだ。だから、このパッケージにはまだまだ可能性があるんだよ」

【了】

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Writer: 井出ナオト

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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