【MotoGPアナライズ】2019年仕様に近いタイヤ、雨、ドゥーハンとの電話…M・マルケスの581日ぶり勝利の要因とは?

マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が得意のザクセンリンクで581日ぶりとなる優勝を遂げた。右腕への負担が少ない特殊なコースレイアウトだけでなく、そこにはいくつかの勝因が存在した。

581日ぶりの優勝へと導いた、いくつかの勝因

 MotoGP・第8戦ドイツGPでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が、2019年の最終戦バレンシアGP以来、581日ぶりとなる復活優勝を遂げた。

MotoGP・第8戦ドイツGPで581日ぶりとなる復活優勝を遂げたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 昨年7月に開催されたスペインGPで右上腕骨を骨折し、2020年シーズンを棒に振った元世界王者が復帰したのは第3戦ポルトガルGP。雨に見舞われた第5戦フランスGPで一時トップに立つなど、時折見せ場を作るもこれまでの最高位は復帰戦の7位。本来のパフォーマンスには程遠く、ドイツGPの前まで3戦連続でリタイアしていた。

 連続ポールポジション記録の更新こそ果たせなかったものの、125cc、Moto2から続くザクセンリンクでの連勝を11に伸ばし、“キング・オブ・ザ・リンク”の異名が伊達ではないことを証明した。

物理的な制限をわずかしか受けないコース特性

 まず勝因として考えられるのが、左コーナー10に対して右コーナー3、左回りという珍しいコースレイアウトだ。

 先日行われたカタルニアでのテストで全ライダーの中で最多となる87ラップを周回するなど、かなり回復は進んでいるが、マルケスのフィジカルはまだまだの状態だ。

右コーナーを攻めるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 右肘が不自然に上がるライディングフォームからもマシンをうまく抑え込めない様子が窺え、特に右腕に負担がかかる右コーナーにおいて、その症状は顕著なようだ。

 レースウィークに入る際、「物理的な制限をわずかしか受けない最初の週末になるかもしれない」と述べた通り、ザクセンリンクの特殊性が、手負いの元世界王者を助けたことは間違いない。

ドイツGPで使われた2019年仕様に近いリアタイヤ

 ホンダ陣営をこれまで苦しめてきたタイヤも今回は味方した。

 2020年に特性を変えたミシュラン・タイヤは、相対的に前輪荷重が大きくなる直列4気筒エンジンを積むヤマハ、スズキと相性が良いとされてきた。

 その傾向は基本的には今シーズンも続いているようだが、昨年、新型コロナウイルスの影響によりドイツGPが中止になったことが良い方向に転んだ。

ポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)

 2020年の走行データがなかったため、ミシュランは2019年に近い仕様のリアタイヤをザクセンリンクに持ち込んでおり、それにより前後のグリップバランスが改善されたのか、マルケス以外ではポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)の10位が最高位ではあったが、予選Q2に4人のライダー全員が今季初めて進出するなど、ホンダ勢はおおむね好調だった。

 ヘレスでのオフィシャルテストを境に一気に競争力を高めたKTMのように、RC213Vに施した何らかの対策が功を奏した可能性も十分にあるが、タイヤがマシンの不調を覆い隠した面が、もしかしたらあったのかもしれない。

「これは僕のレースだ!」勝負を分けた序盤の雨

 5番グリッドから好スタートを決め、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)のインをやや強引に差した場面は、好調時の走りを思い起こさせたが、勝負を分けたのは、レース序盤に降り出した雨だったといえる。

ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)のインを差すマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 雨粒がアスファルトを濡らし始めた瞬間、マルケスは「これは僕のレースだ!」と感じたという。

 ホールショットを奪ったアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)との争いを制し、首位に躍り出たゼッケン“93”は、ピットに入ってマシンを乗り換えることが許可される白旗が掲示され、ほとんどのライダーが抑えた走りをする中、ペースをそのままキープ。トラクション不足に苦しむアレイシが後続にふたをする格好になったこともあり、2位以下におよそ2秒のリードを築いた。

 雨のフランスGPでも転倒を喫するまでトップを快走したようにグリップレベルが落ちるウェット・コンディションは身体への負担が少なく、この日は天候もホンダの絶対エースに微笑んだ。

 アレイシは「雨が降り始めた時、僕はマルクほど勇敢じゃなかった。8コーナーで転倒しそうになって、少しペースを落としたら、そこで多くの選択肢を失ってしまったんだ」とレース後に語り、その後ろを走っていたジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)は「マルクは雨を見て、ドカンと他のライダーたちに差をつけていったんだ」とその際の様子について振り返っている。

 終盤、ミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)が1秒以内にまで差を縮めるが、すでにその頃にはレースの行方は決まっていた。

助けとなったミック・ドゥーハンとの30分の電話

 メンタルトレーニングに取り組んでいるクアルタラロがチャンピオンシップをリードしている通り、精神の状態はレース結果に著しく影響する。

 鋼のハートを持っていそうなスパニッシュにとっても5年連続で500ccクラス王者に輝いたミック・ドゥーハンとの電話は大きな助けとなった。

マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とミック・ドゥーハン(写真は2018年)

「怪我をした時は、必ず戻ってくる、強くなって戻ってくるって思ってたんだ。でも、ポルティマオで初めてMotoGPマシンに乗った時、”自分のレベルからはとても遠いところにいる”と感じた。そこからがとても大変だった」と不安に襲われていたマルケスは、イタリアGPでホンダのレジェンドと再会。1992年に一時は切断が検討されるほどの重傷を右足に負い、似たような境遇を経験してきた先輩に『今度、電話で話したい』と頼んだ。30分に及ぶ電話の間はただ耳を傾けていたという。

「バイクを理解すること、思い通りに乗れないこと、愚かなミス、愚かなクラッシュ、レースでは速くても練習では遅くなり、その理由がわからないことなど、僕が抱えている問題は、全て彼が過去に抱えていたものだったんだ」

 これらの勝因によりホンダはひさびさの優勝を手にした訳だが、チームマネージャーのアルベルト・プーチが「まだ解決しなければいけない問題は多いし、マルクもライバルに追いつく必要があるね」と認めるように常勝メーカーにとって苦境はもうしばらく続くと予想される。しかし、この1勝が名門復活への良いきっかけとなることは確かだろう。

【了】

【画像】復活を果たしたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)(10枚)

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Writer: 井出 直人

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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