思わず2度見するハスクバーナ「スヴァルトピレン401」 その乗り味は兄弟車KTM「390デューク」とは別物!?

ハスクバーナ「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」は、排気量373ccの水冷単気筒エンジンを搭載するネイキッドモデルです。兄弟車であるKTM「390 DUKE(390デューク)」から基本設計を転用していますが、乗り味はだいぶ異なるようです。

躍進のきっかけは、「ピレン」シリーズ

 会社の創業は1689年で、モーターサイクルの生産を1903年に始めた老舗でありながら、オフロードとスーパーモタード好き以外には、何となく縁遠い存在……。少なくとも十数年前まで、スウェーデン発祥のハスクバーナ・モーターサイクルズ(以下、ハスクバーナ)はそういう印象のメーカーでした。それがKTM(オーストリア)と同じピエラインダストリーAGに所属するようになって9年以上が経過した現在、同社に対する認識は大きく変わり、日本を含めた世界中の多くのライダーが、ハスクバーナを身近なメーカーと感じています。その功労者は言わずもがな、2018年から発売が始まった「PILEN(ピレン)」シリーズでしょう。

ハスクバーナ「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」(2022年型)に試乗する筆者(中村友彦)
ハスクバーナ「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」(2022年型)に試乗する筆者(中村友彦)

 ピレンシリーズの原点は、2014年のEICMA(イタリア・ミラノで開催される世界最大級のバイクの見本市)で発表された、カフェレーサーの「VITPILEN 401(ヴィットピレン401)」と、スクランブラーの「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」です。基本設計の多くを共有する2台のコンセプトモデルは、レトロとモダンを融合したスタイルがあまりにも斬新だったため、当時は多くの人がそのままの姿で市販されることはないだろう、と感じたのですが……2018年になるとコンセプトモデルに小変更を加えただけの状態で、ヴィットピレン401とスヴァルトピレン401の発売が始まり、少し遅れて兄貴分のヴィットピレン701が市場に投入されました。

 その3モデルが好セールスを記録したため、以後のハスクバーンはラインナップ拡大に注力し、2019年にスヴァルトピレン701、2020年にヴィットピレン250とスヴァルトピレン250、2021年にはスヴァルトピレン125が登場します。

 なお、同社初のアドベンチャーツアラーとして2022年から発売が始まった「NORDEN 901(ノーデン901)」は、ピレンシリーズの成功なくして語れないモデルだと私(筆者:中村友彦)は感じています。

KTMの基本設計を転用して開発

 では、ハスクバーナはどうして、わずか数年でイッキにラインナップを拡大できたのでしょうか。その答えは至って単純で、同じグループに所属するKTMの基本設計を転用したからです。

ハスクバーナ「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」(2022年型)
ハスクバーナ「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」(2022年型)

 具体的な話をするなら、スヴァルトピレン125/250/401は、KTMがラインナップする「DUKE(デューク)」シリーズの400ccクラス以下のモデル(=スモールデューク)の兄弟車、スヴァルトピレン701は690デュークの兄弟車で、トレリスフレームや水冷単気筒エンジンを筆頭とする、数多くの部品を共有しています(ノーデン901は、890アドベンチャーの兄弟車)。

 この手法をどう感じるかは人それぞれですが、ハスクバーナの認知度を効率よく高めるという視点なら、ピエラインダストリーAGの選択は大正解と言って良いでしょう。

 2018年のデビュー当初は、日本での価格がKTM「390デューク」より15万7000円高い77万7000円だったため、ヴィットピレン401とスヴァルトピレン401は高級車という印象でした。ただし2022年型の各モデルの価格(消費税10%込み)は次の通り。

KTM「390 DUKE」 73万5000円
ハスクバーナ「SVARTPILEN 401」 76万7000円
ハスクバーナ「VITPILEN 401」 78万7000円

 という設定なので、各車の位置づけが少々わかりづらくなっています。中でも、アップライトな乗車姿勢という共通点を持つ390デュークとスヴァルトピレン401は、どちらが自分の使い方に適しているのかで、悩む人が多いかもしれません。

兄弟車とは異なる、トラディショナルな乗り味

 ハスクバーナの125/250/401シリーズと、兄弟車であるスモールデュークシリーズに接して、私がいつも感心するのは質感の高さです。逆に言うなら近年の他社製アンダー400ccモデルは、安っぽさが目に付くことが多いのですが、このシリーズの場合は、さまざまなモデルで基本設計を共有したことが功を奏しているようで、入門用として扱われることが多いアンダー400ccモデルでも、コストダウンの気配はほとんどありません。

身長182cmの筆者(中村友彦)がシート高835mmの車体にまたがった状態。ステップに足を載せると膝の曲がり具合はやや狭く感じる。両足を下ろすとかかとまで地面に接地する
身長182cmの筆者(中村友彦)がシート高835mmの車体にまたがった状態。ステップに足を載せると膝の曲がり具合はやや狭く感じる。両足を下ろすとかかとまで地面に接地する

 それに加えてもうひとつ、このシリーズで特筆したいのは、人生初のバイクの感触、バイクの原点的なフィーリングを思い出させてくれることです。と言うのも、試乗経験が豊富になった結果として、最近の私は感覚的にスレてしまったところがあるのですが、このシリーズを走らせるといつも、右手でスロットルをひねって加速すること、コーナーで車体をバンクさせることが「こんなに楽しかったのか!!」という気持ちになるのです。

 もちろん、どんなモデルにそういった印象を抱くかは乗り手の感性によりけりですが、刺激と気軽さを程よい塩梅で両立したこのシリーズに対して、私と同様に車格とパワーの設定が絶妙と感じる人は少なくないでしょう。

 さて、全体的な話が先行しましたが、今回の試乗で私は、ハスクバーナの125/250/401シリーズと、KTMのスモールデュークシリーズの差異を実感しました。

 前輪のグリップ力と旋回性を駆使してクイックに曲がって行く、現代のスポーツバイクならではの資質を備えるスモールデュークシリーズとは異なり、着座位置が高くて後方にあるピレンシリーズは(シート高は390デュークより5mm高い835mmですが、実際はもっと高く感じます)、基本的にリアが主役のトラディショナルなハンドリングなのです。また、同条件で比較しないと断言はできませんが、右手の操作に対するエンジンの反応は、ピレンシリーズのほうがやや穏やかな印象です。

ハスクバーナ「スヴァルトピレン401」は、スレたオッサン(筆者:中村友彦)にバイクの原点的な気持ちを思い出させてくれる
ハスクバーナ「スヴァルトピレン401」は、スレたオッサン(筆者:中村友彦)にバイクの原点的な気持ちを思い出させてくれる

 世間の一部ではピレンシリーズに対して、“KTMの着せ替え仕様”と言う人がいるようですが、実際に両社のモデルを比較して、そう感じる人はいないでしょう。もっとも、スモールデュークシリーズとの差異は、今回試乗したアップハンドルのスヴァルトピレン401ではなく、セパレートハンドル+バックステップを装備するヴィットピレン401のほうが理解しやすいと思います。

【画像】ハスクバーナ「SVARTPILEN 401(スヴァルトピレン401)」(2022年型)の詳細を見る(18枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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