バイクのスペック表を読み解く! もっとも気になる「最高出力」と「最大トルク」とは!

バイクのカタログや、メーカーHPに掲載されている「スペック」や「仕様」、「諸元」の表には、購入時の参考やライバル車との性能比較など、役立つ情報が含まれています。何はともあれ「最高出力」が気になるのはライダーの性……かもしれません。

「馬力」と「トルク」、なにが違う?

 バイクのスペックで多くのライダーが気になるのは、やはり「最高出力」と「最大トルク」ではないでしょうか。これらの数値が大きいほど高性能でスピードが出る……と感じるので無理もありません。とは言え、どちらも「バイクの力」を表しているイメージですが、一体ナニが違うのでしょうか?

馬力は馬1頭分の「仕事量」を数値化したもので、75kgを1秒間に1m動かす仕事率が1PS(仏馬力)になる。トルクは「回す力」と捉えるのが解りやすく、たとえば柄の長さが1mの軸を20kgの力で回すと、20kgf・mのトルクになる
馬力は馬1頭分の「仕事量」を数値化したもので、75kgを1秒間に1m動かす仕事率が1PS(仏馬力)になる。トルクは「回す力」と捉えるのが解りやすく、たとえば柄の長さが1mの軸を20kgの力で回すと、20kgf・mのトルクになる

 まず最高出力で表記する「PS」=「馬力」ですが、これは「馬の最高出力=1馬力」という意味ではなく、1頭の馬が継続的に発揮できる仕事率を表しています。たとえば最高出力150馬力のバイクは、150頭の馬と同等の力がある……というワケではありません。

 次に「トルク」ですが、ことらはエンジンのクランクシャフトが生み出す「回す力」を表しています。

 ちなみに近年のスペック表を見ると、最高出力は「kw[PS]/rpm」、最大トルクは「N・m[kgf・m]/rpm」のように、2種類の単位で表記されることが多いです。かつては[ ]内のPSやkgf・mのメートル法の単位で表記していましたが、その後継として新計量法で公示された国際単位系(SI単位)への移行により、バイクのスペック表(カタログ表記)では2000年頃から「kw」や「N・m」に変更されました。

 しかし、既存のモデルとの性能比較などで解りやすくするため、[ ]書きで以前の単位でも併記することが許容されています。

自転車で考えるとわかりやすい!

「馬力は仕事率、トルクは回す力」と言われてもピンとこないかもしれません。そこで良くあるたとえですが、自転車に置き換えて考えるとわかりやすいでしょう(変速機はナシでで考えます)。

ペダルを踏み込む力の大きさがトルク。バイクのエンジンだと、クランクシャフトが回って生み出す力に相当
ペダルを踏み込む力の大きさがトルク。バイクのエンジンだと、クランクシャフトが回って生み出す力に相当

 スペック表では最高出力の方が先に書かれていますが、まずはトルクから。

 自転車の場合は足でペダルを踏み下げる力がトルクになります。この時、グッ!と力強く踏むほどトルクが大きく、発進や加速力が強くなります。反対に踏む力が弱い(トルクが小さい)と、発進や加速力が弱くなるのは、多くの方が実感できるでしょう。

 しかし自転車で走り続けるには、ペダルを踏み続ける(回し続ける)必要があります。そしてスピードを出すには、ペダルを踏んで回す「回転数」を高くする必要があります。そこで、ペダルを踏む力(トルク)と回転数を掛けたものが「馬力」になります。

ペダルを踏み続ける(回し続ける)のが回転数。この回転数が高いほどスピードが出る。これはエンジンの回転数(クランクシャフトの回転数)に相当
ペダルを踏み続ける(回し続ける)のが回転数。この回転数が高いほどスピードが出る。これはエンジンの回転数(クランクシャフトの回転数)に相当

 そのため、トルクか回転数のどちらかが高くなれば、必然的に馬力もアップします。もちろんトルクと回転数の両方が高くなれば、馬力はいっそう大きくなります。

 たとえばシリンダーの内径や行程を拡大して排気量をアップしたり、圧縮比を高めて爆発力を強くすればトルクが大きくなります。また気筒数を増やしたり、DOHCなど高性能な動弁機構を採用することで回転数を高くすることができます。これらの手法を用いて、エンジンから大きなパワーを引き出しています。

つねに最高出力が出ているワケではない

 トルクと馬力の関係を理解して頂けたと思いますが、スペック表に「最高出力」、「最大トルク」と書いてあるように、表記しているのは最高・最大値。なので走っている最中にずっと最高出力や最大トルクが出ているワケではありません。

ドゥカティ「パニガーレV4S」の性能曲線図。いわゆるパワーグラフ
ドゥカティ「パニガーレV4S」の性能曲線図。いわゆるパワーグラフ

 上図はドゥカティ「パニガーレV4S」の性能曲線図で、1万3000回転で最高出力の215.5psを発揮しています。ところが一般道や巡行で使う4000回転付近だと、馬力はおおむね50psなので400ccの2~4気筒モデルの最高出力と同じくらいです。

 トルクも回転数が低いと下りますが、馬力ほど大きな変化はありません。とくに近年のバイクのエンジンは最大トルクの発生回転数を下げ、かつ全域で安定したトルクを発揮するフラットな特性を持たせ、力強い加速や扱いやすさを重視する傾向があります。

乗り味に影響する「発生回転数」

 じつは、同じ排気量の同系統のエンジンを使っていても、車種によって最高出力や最大トルクを変えているケースがあります。

同系統の水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブエンジン(排気量や内径×ストローク、圧縮比も同一)を搭載する、ホンダの3機種を比較
同系統の水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブエンジン(排気量や内径×ストローク、圧縮比も同一)を搭載する、ホンダの3機種を比較

 参考として上の表を見ると、スポーツネイキッドのホンダ「CB250R」が3機種のなかでもっとも高い最高出力と最大トルクを発揮しますが、それぞれ発生回転数も高めなので、回してスポーツするタイプでしょう。対するクルーザータイプの「レブル250」は、最大トルクの発生回転数を下げて扱いやすくしているイメージです。そしてスクランブラータイプの「CL250」はさらに最大トルクの発生回転数を下げており、こちらは未舗装路や力強い加速を優先しているように思えます。その分「レブル250」や「CL250」は最高出力が下っていますが(回転数が下がると馬力も下がる)、それは「CB250R」ほど最高速などのスピードを重視していないと考えられます。

 最高出力や最大トルクの数値は大いに気になりますが、それだけでなく発生するエンジン回転数を見ることで、バイクのキャラクターによる乗り味もイメージできます。これは自分の好みや使い方に合ったバイク探しをするときにも有効でしょう。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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