ホンダ初のアドベンチャーバイク!? 1983年にデビューした空冷45度Vツインエンジンを搭載する「XLV750R」とは

ナナハンの空冷Vツインエンジンを搭載し、全てが規格外の大きさを持つオン&オフツアラーのホンダ「XLV750R」は、まだ「アドベンチャーバイク」という言葉が無かった時代に「驚異のVツイン、キンブ・オブ・ランドスポーツバイク」と呼ばれてデビューしました。

「パリ-ダカール・ラリー」優勝のイメージを具現化

 1971年にフランスのパリからアフリカのダカールまで、3週間で約1万kmを走破するパリ-ダカール・ラリーが始まりました。ヨーロッパでは大人気となり、その成績がバイクの売り上げに影響するほどでした。ホンダは1982年に「XR500R」をベースにしたバイクで優勝し、1983年にはそのイメージを反映したオン&オフツアラー「XLV750R」を数量限定で市販します。

オンロードでもオフロードでも、オールラウンドに楽しめるホンダ「XLV750R」(1983年型)
オンロードでもオフロードでも、オールラウンドに楽しめるホンダ「XLV750R」(1983年型)

 当時の日本は林道ツーリングがポピュラーでしたが、排気量750ccクラス(ナナハン)のエンジンを搭載する「XLV750R」はそのカテゴリーに属さず、ビッグオフロードバイクとして種別されました。実際にはハードなオフロードでの走破性よりも、長距離ツーリングに適したバイクでした。

 それはまさしく「アドベンチャーバイク」の創世記で、そのブームが始まっていたヨーロッパがメインマーケットであり、日本国内では300台のみの限定販売となっています。

 パリ-ダカール・ラリーはその後ハイスピードを競う場面が多くなり、バイクは並列2気筒エンジンや大排気量車が台頭します。残念ながら「XLV750R」が活躍することはありませんでしたが、ホンダが投入したファクトリーマシン「NXR750」は1986年からパリ-ダカール・ラリーを4連覇しています。そのエンジンは「XLV750R」をベースにチューニングされた、水冷Vツインが搭載されていました。

空冷45度V型2気筒エンジンを搭載。極太フレームにオイルを循環し、その間にオイルクーラーを設置
空冷45度V型2気筒エンジンを搭載。極太フレームにオイルを循環し、その間にオイルクーラーを設置

「XLV750R」のエンジンは、前年に発売されたクルーザーモデル「NV750カスタム」をベースにしています。45度という狭い角度の水冷Vツインエンジンを空冷化し、さらにドライサンプ方式に変更するなど大幅な手直しによって、長距離・不整地走行への対策を施しました。当時はまだオフロードバイクの水冷システムに対して不安があったようです。

 ホンダ独自の位相クランクは振動を低減するとともに、素性としてオン&オフロードバイクとして大事なトラクション性能も持っていました。

 バルブ駆動はOHCですが、吸気バルブが2本、排気バルブが1本の3バルブ方式で、プラグも2本というユニーク燃焼室でした。現在の「アフリカツイン」や「トランザルプ」はユニカム方式ですが、「シリンダーヘッド部分を軽量化しつつ高い吸排気効率を得る」という考え方は、時代を超えてホンダのオフロードモデルにおける共通要件です。

膝元は細く絞り込んだ燃料タンク。中央にエアクリーナーボックスへアクセスできる蓋がある
膝元は細く絞り込んだ燃料タンク。中央にエアクリーナーボックスへアクセスできる蓋がある

 パリ-ダカール・ラリーを走るマシンと同様に、燃料タンク中央にエアクリーナーボックスを配置し、吸い込んだ空気を狭角シリンダー間のキャブレターへ流し、ダウンドラフトで燃焼室に混合気を送り込んでいます。

 空冷化で課題となった後ろのシリンダーの冷却にはエアダクトが装備され、また高剛性のフレームは極太角パイプのダウンチューブ内にオイルを巡らせて冷却するヒートシンクとなっています。

 駆動方式は「NV750カスタム」同様にシャフトドライブとなっており、サスペンションストロークの長いバイクですが、頻繁なチェーン調整の煩わしさもなく長距離走行中のメンテナンスフリーに寄与しています。

 そしてオフロードバイク系としてはいち早くディスクブレーキを採用し、片押しデュアルピストンキャリパーと放熱性を高める孔付きのディスクローターという組み合わせは、現行モデルにも見られる装備です。

タコメーター以外はほぼオフロードバイクと同じ。スピードメーターは180km/h表示
タコメーター以外はほぼオフロードバイクと同じ。スピードメーターは180km/h表示

 2023年5月にホンダの最新アドベンチャーモデル「XL750トランザルプ」が発売されました。奇しくも「XLV750R」と同じナナハン・アドベンチャーですが、「XL750トランザルプ」は気軽に乗れるミドルクラスで親しみやすさをアピールしている一方、「XLV750R」は「驚異のキング・オブ・ランドスポーツ」と名乗り、乗る事自体がチャレンジングな一種のモンスターマシンでした。当時の販売価格は75万円です。

■ホンダ「XLV750R」(1983年)主要諸元
エンジン形式:空冷4ストロークV型2気筒OHC3バルブ
総排気量:749cc
最高出力:55ps/7000rpm
最大トルク:6.0kg-m/5500rpm
全長×全幅×全高:2235×890×1230mm
シート高:835mm
車両重量:213kg
燃料タンク容量:19リットル
フレーム形式:ダブルクレードル
タイヤサイズ(前):90/90-21 54S
タイヤサイズ(後):130/80-17 65S

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)

【画像】ホンダ「XLV750R」(1983年)を詳しく見る(11枚)

画像ギャラリー

Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

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