カワサキ「Ninja ZX-4R」試乗【後編】 最大のトピックはエンジン性能とクイックシフターの精度にあり!!
2023年7月15日から発売が始まったカワサキのニューモデル「Ninja ZX-4R SE」「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」に豊富な経験を持つジャーナリスト 伊丹孝裕さんが試乗しました。今回はエンジン関連の話題に触れていきます。
“回してなんぼ”の新開発・直列4気筒エンジン
さて、前回お届けしたカワサキの「Ninja ZX-4R SE」(以下ZX-4R)と「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」(以下ZX-4RR)の試乗記は、結果的にネガティブ要素多めの内容になりました。「思いのほか曲がりませんね」と、ただそれだけのことを2500文字以上も書き連ね、納車待ちの方、これから注文しようとしている方は、結構微妙な気持ちになったかもしれません。
もっとも、このモデルで語られるべきはハンドリングではなく、エンジンのパフォーマンスでしょう。この時代に新開発の直列4気筒を投入し、しかもグローバル展開を見据えてのことですからカワサキとしても気合充分。「スクリーミング・インラインフォー・パワーの雄叫びが、再び」というコンセプトからもそれが溢れ出しています。
では、そのエンジンがどれほど雄叫ぶのか。レッドゾーンは1万6000rpmから始まり、77PS(ラムエア加圧時は80PS)の最高出力を1万4500rpmで発揮。最大トルクの発生回転も1万3000rpmと高く、とにかく“回してナンボ”仕様になっています。
このスペックに関して、開発スタッフに聞いてみたところ、「実は、当初掲げていた社内目標は、もっとずっと低いところにありました。でも、このエンジン形式を今度いつ開発できるかは分からない。だったら、思い切ってリッター当たり200PSの出力を目指そうということになり、実際こうして達成できたのです」と語ってくれました。
400ccの排気量から絞り出される80PS(ラムエア加圧時)を、1000ccに換算するとぴったり200PS。スーパースポーツを名乗るにふさわしいポテンシャルと言えるでしょう。
明確なパワーバンドを持つカワサキ製の4気筒エンジン
低回転から高回転まで一定の力強さを保ちながら、比較的フラットに吹け上がっていくエンジンが多い中、ZX-4R/RRには明確なパワーバンドがあります。
1万1000rpmを超えたあたりから、スロットルレスポンスはダイレクトなものになり、爽快なサウンドとともにディスプレイ内のバーグラフが跳ねるように上昇。レブリミットまで一気に回り切ります。
低中回転域のマイルドさと、高回転域のシャープさ。この二面性はなかなか刺激的ながら、あくまでもリッター換算200PSのため、一定のスキルがあれば、充分コントロールできるのが、このエンジンのいいところ。むやみに構える必要はなく、多くのライダーがスロットルを開ける歓びに浸れるに違いありません。
そのトレードオフとして、街乗りにおけるフレキシビリティはそれなりかも。2速に入れておくべきコーナーを3速で立ち上がろうとしたり、8000rpmあたりまで回転が落ち込むと、頼りなく感じられるのは事実だからです。
とはいえ、ピットインやピットアウトのスロー走行、もしくはストップ&ゴーで様子を伺う限りは、ことさら神経を使うわけでもなく、実用性も及第点。サーキットでは、パワーバンドと低中回転域の落差が如実に出ますが、一般公道では下側しか使わないはずなので、さほど気になるものでもないでしょう。
わかりやすい特性のライディングモードと好印象のKQS
電子デバイスはどうか? ライディングモードには、Sport/Road/Rainの3パターンがデフォルト設定され、トラクションコントロールと出力特性が連動して変化。マニュアル設定できるRiderを選択すれば、それぞれのパラメーターを個別に振り分けることもできます。モード毎の変化は分かりやすく、もしもパワーに不安があれば、Rainがそれを解消してくれるはず。
ペースを上げた時、特に好印象だったのが、KQS(カワサキクイックシフター)の精度です。袖ケ浦フォレストレースウェイのメインストレートのトップスピードは、メーター読みで4速180km超に達するわけですが、2速と3速のギヤレシオがやや離れているため、なんのデバイスもなければ、1コーナーの進入はひとつ落としか、ふたつ落としか迷うかもしれません。
ところが、ここでKQS(とスリッパークラッチ)が完璧に機能。クラッチレバーを握ることなく、パンパンッと一気にダウンしても回転差を巧みに逃がし、ほとんど挙動を乱すことなく、滑らかにギヤを2速へと送り込んでくれます。
減速操作というものは、ライダーの技量が大きく顕れる部分ですが、それをためらうことなく済ませられ、しかもほどよいスピードで繰り返し試せるこのモデルは、スキルアップに最適な一台と言えるでしょう。
「カワサキ」らしさを感じられるZX-4R
今回、ZX-4R/RRに乗って感じられたのは、「パワー? とりあえず出しといた。下は知らんけど。ブレーキ? ちゃんと利くはず。コーナー? そこは自分でがんばるところやんか」というメッセージで、(そういえば……)と思い出されたバイクが一台。以前、僕(伊丹孝裕)がアメリカのヒルクライムレースに参戦するために準備していた「Ninja H2」(2015年)がそれです。
パワーも車重もカテゴリーも成り立ちも異なるものの、色々な要素を削ぎ落していけば、似ていると言えなくもなく、つまりは「あぁ、ちゃんとカワサキっぽいなぁ」としみじみ。体感しておく価値のあるニューモデルです。
「Ninja ZX-4R SE」の価格(消費税込)は、112万2000円。「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」は、115万5000円です。
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。