モトグッツィ新型「V100マンデッロS」をじっくり堪能 昔ながらの資質と現代的な運動性を高次元で両立

現存するイタリア最古のバイクブランド「MOTO GUZZI(モトグッツィ)」から新登場となった「V100 Mandello」は、完全新設計となる排気量1042ccの水冷縦置き90度Vツインエンジンを搭載し、同ブランドの次世代モデルとして先陣を切りました。2023年に日本市場へ導入され、あらためて、さまざまなシーンでじっくり走り込んでみました。

全面新設計でも“らしさ”は健在

 モトグッツィ「V100 Mandello(マンデッロ)」とその上級仕様である「V100 Mandello S」は、モトグッツィにとっては数十年ぶりとなる全面新設計車です。そして2023年春に開催された2輪の輸入車試乗会で、日本初上陸となったこのモデルを初めて体験した私(筆者:中村友彦)は、既存のモデルとの共通部品がほぼ皆無であるにも関わらず、モトグッツィらしさが健在だったことに大いに感心しました。

モトグッツィ新型「V100 Mandello S」に試乗する筆者(中村友彦)
モトグッツィ新型「V100 Mandello S」に試乗する筆者(中村友彦)

 具体的な話をするなら、低回転域ではドコドコ感、中高回転域では爽快感が満喫できる、90度Vツインならではの二面性はきっちり維持されていますし、ライディング中にエンジンと車両全体の“芯”であるクランクシャフトの存在が感じやすいことにも変わりはありません。

 ちなみに、既存のモデルとは逆の左方向になりましたが、アイドリングでスロットルを操作すると車体が傾こうとする挙動、トルクリアクションがわずかに発生します。

モトグッツィ特有の“気遣い”は不要

 言ってみれば初体験の段階では、私は昔ながらの資質に注目したのですが、後日あらためて試乗し、さまざまな状況を走ってみたところ、既存のモトグッツィ各車とはレベルが異なる、現代的な運動性能に驚くことになりました。

新開発のエンジンは、排気量1042ccの水冷縦置き90度V型2気筒DOHC4バルブ。通称「コンパクトブロック」(取材車両にはアクセサリーのエンジンプロテクションバーを装着)
新開発のエンジンは、排気量1042ccの水冷縦置き90度V型2気筒DOHC4バルブ。通称「コンパクトブロック」(取材車両にはアクセサリーのエンジンプロテクションバーを装着)

 まずはエンジンの印象を述べると、近年のリッターバイクの基準で考えれば、117psという最高出力は驚くほどではないのですが、これまでの同社製90度Vツインと比較するなら、操作に対するレスポンスは格段に良好に、吹け上がりのスピードは格段に鋭くなっています。しかもそれでいて、低回転域では相当な粘り強さを発揮してくれるので、どんな状況でもストレスは感じません。

 一方の車体……と言うよりハンドリングは、モトグッツィ特有の気遣いが不要になったことが印象的でした。

 既存の同社のリッターバイクは峠道をハイペースで走ると、縦置きクランクとシャフトドイライブのネガを意識したり、ギアチェンジを優しく行なう必然性を感じたり、タイヤの接地感に物足りなさを感じたり、などという事態に遭遇することが少なくなかったのですが(ただし、850cc以下の「スモールブロック」はかなりの改善が進んでいる)、「V100マンデッロ」は他社製リッターバイクと大差ない感覚でスポーツライディングが楽しめるのです。

状況やライディングモードに応じて、ガソリンタンク左右のディフレクターが自動で開閉する、モーターサイクルとしては世界初の「アダプティブ・エアロダイナミクス」を採用(写真左:閉じた状態/写真右:開いた状態)
状況やライディングモードに応じて、ガソリンタンク左右のディフレクターが自動で開閉する、モーターサイクルとしては世界初の「アダプティブ・エアロダイナミクス」を採用(写真左:閉じた状態/写真右:開いた状態)

 まあでも、そういった事実をどう捉えるかは人それぞれで、世の中には味や個性が無くなったと言う人がいるかもしれません。ただし前述したように、昔ながらの資質は健在ですし、次世代を見据えた全面新設計車を手がけるにあたって、モトグッツィが現代的なエンジン特性とハンドリングを目指したのは、当然のことだと思います。

 なお、登場前から話題になっていた世界初の「アダプティブ・エアロダイナミクス」、速度やモードに応じてディフレクターが自動で上下する機構は、巡航時になかなか良い仕事をしてくれました。

 ツーリングモードでの走行中に速度が70km/hを超えると(30~95km/hの範囲で任意の設定が可能)、燃料タンクの左右に備わるディフレクターが(知らぬ間に)パカッと開くかのように上がり、側頭部や肩、腕への走行風が和らぐのです。

 と言っても、効果は絶大と言うほどではないですが、魅せることを意識したこの機構には、新しい手法でライダーを楽しませようという開発陣の遊び心が表れているように思います。

シートと前後サスペンションに対する不満

 そんなわけで、「V100マンデッロ」に好感触を抱いた私ですが、距離が進むにつれて以下の2点が気になり始めました。そのひとつ目はシートです。デザインは秀逸で、斜め上から見下ろすと「なんて色っぽい形なんだ……」と感じるのですが、着座位置が後方に固定されてしまう形状なので、状況や疲労の度合いに応じて自由に動けません。現状より前方に座ることができれば運動性や快適性が向上しそうなだけに、私は非常にもったいないと思いました。

取材車両の「S」バージョンに標準装備のオーリンズ製サスペンションと、見た目は色っぽいシート形状に不満は残るものの、既存のモトグッツィのような気遣いは必要なく、現代的な運動性能でスポーツライディングが楽しめる。それでいて“モトグッツィらしさ”が健在なのは嬉しいかぎり
取材車両の「S」バージョンに標準装備のオーリンズ製サスペンションと、見た目は色っぽいシート形状に不満は残るものの、既存のモトグッツィのような気遣いは必要なく、現代的な運動性能でスポーツライディングが楽しめる。それでいて“モトグッツィらしさ”が健在なのは嬉しいかぎり

 そして2つ目は前後サスペンションで、今回テストした「V100マンデッロS」は、モトグッツィ初のオーリンズ製セミアクティブ式を採用しているのに(スタンダードはKYB製の手動調整式)、どのモードでも乗り心地が良好ではなかったのです。また、ダンパー設定が柔らかめのツーリング/レインモードでは、ストロークにコシがないためか、フロントブレーキに扱いづらさを感じました。

 もっとも、シートに関してはウレタンの加工、あるいは純正アクセサリーのハイシートへの交換で対応できそうですし、前後サスペンションへの不満はセッティングで解消できるはずですから、この2点は声を大にして言うほどの問題ではないでしょう。

 事実、今の私の頭の中にはそういった気になる点よりも、ワインディングロードでスポーツライディングしたときの楽しさ、既存のモトグッツィ各車を凌駕する圧倒的な速さが、強く印象に残っています。

※ ※ ※

 モトグッツィ新型「V100マンデッロ」の価格(消費税10%込み)は220万円、上位グレードの「S」バージョン(取材車両)「V100マンデッロS」は264万円です。日本市場では2023年2月より受注が開始されました。

【画像】モトグッツィ新型「V100 Mandello S」を詳しく見る(18枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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