4輪と2輪、ふたつのBMWに乗って気付かされたこと ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.220~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、BMWは4輪も2輪もひとつのフィロソフィで繋がっていることが興味深いと言います。どういうことなのでしょうか?

4輪と2輪、ふたつのBMWに乗って気付いたこと

 先日のこと、自動車雑誌の試乗企画があり、僕(筆者:木下隆之)はBMWの主要モデルをイッキ乗りする機会を得ました。ボディサイズで言うならば、リーズナブルな1シリーズから、もはやシューファードリブンにまで肥大化した7シリーズまで、編集部がせっせと掻き集めた10台を一堂に集めてドライブしたのです。

軽快で俊敏な旋回フィールを味わえるBMW Motorrad「G 310 R」
軽快で俊敏な旋回フィールを味わえるBMW Motorrad「G 310 R」

 その中には、走りの性能でとびきり際立っている510馬力のM4クーペという物騒な超高速ツアラーがありました。一方で、車高の高いSUV(スポーツユーティリティヴィークル)、BMWではSUVをSAC(スポーツアクティビティクーペ)と呼ぶX4Mなども含まれていたのです。

 共通点はBMWであるというだけで、脈略のない繰り合わせに思えます。雑誌編集部が企画する時には、おおよそ結果を予想してストーリーを組み立てることがありますが、この企画では意図が不明でした。原稿を書くのは僕です。「たくさんのBMWの乗って楽しかった」では稚拙過ぎます。「これは厄介な企画を引き受けてしまったぞ……」と後悔したのです。

 ですが、終わってみると興味深い結果が得られました。おそらく誰もがM3やM4の走りが整っていると、そんな原稿を期待していたのでしょうが、実際に僕が気に入ったのは、318iツーリングだったのです。

 エンジンは直列4気筒2リッターの平凡なものです。最高出力は156ps。ワゴンボディなので積載能力は高いものの、走りの豊さは想像させません。ですが、そのクルマがもっとも気持ち良く走ったのです。

 その理由は、前後重量配分にありました。BMWは古くから「駆け抜ける歓び」をコーポレートテーマに掲げています。前後重量配分は50:50を理想としています。

 気持ち良い走りのありかを探るべく車検証をペラペラと確認すると、前後のウエイトバランスが理想値に近かったのです。フロントにパワーユニットが積み込まれているためにフロントヘビーだと決めつけていましたが、ルーフが後端まで伸ばされ、けして軽くないガラスの面積が広い。それにより、ウエイトバランスが均衡していたのです。

 そんな試乗の数日後、バイクの方のBMW「G 310 R」に触れる機会がありました。どうやらこのマシンには、BMWに共通する哲学が持ち込まれているのではないか、と気付いたのです。

「G 310 R」に搭載されるパワーユニットは排気量312ccの水冷単気筒ですが、常識とは異なり、シリンダヘッドを180度反転させ、フロント吸気、リア排気のレイアウトになっていたのです。

 通常ではシリンダヘッドのフロント(進行方向)側から排気管が突き出すものですが、それが無い。しかもシリンダは後方に傾けられている。その特異なスタイルを見たときに、BMWは前後重量配分を意識したのであろうと想像したのです。実際に手練れのライダーに聞けば、これによって旋回フィールが軽快だと言うのです。

 フロントヘビー傾向にあるクルマは、重心を可能な限り後方にずらすことによって前後重量配分が整いますが、「G 310 R」では旋回性をシャープにするために、車体の重心位置をフロント側へ押しやっているわけです。それによって、レーサーのような前傾姿勢ではないのに、ヒラヒラと舞うようなライディングを求めることができたのです。

 4輪と2輪、BMWとBMW Motorradが、ひとつのフィロソフィで繋がっていることは興味深いところです。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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