【MotoGPライダーの足跡】中上貴晶選手、9歳の転機。「カートは危ないから、2輪がいい」

中上貴晶選手の原点

 もちろん、中上選手が歩んだ道のりは、平坦ではなかったでしょう。なぜ、強いモチベーションを維持できたのでしょうか。中上選手を支え続けたのは、幼い頃の決意だったのです。

最高峰クラス参戦7シーズン目。中上選手は唯一の日本人MotoGPライダーとして活躍し続けている
最高峰クラス参戦7シーズン目。中上選手は唯一の日本人MotoGPライダーとして活躍し続けている

「9歳、10歳で(レーシングライダーになることを)決断して、まだ日本人が達成していない最高峰クラスの世界チャンピオンに、自分がなりたいと強く思ったんです。それが全てだと思っています」

「そこが、原点なんです。それしかなかったかもしれません。諦めるのも放り投げるのも簡単だけど、それで得られるものはないから。苦しくても『何のためにここまで頑張って来たんだろう』と考えたとき、ぽんと出てくるのは、小さい頃に『世界チャンピオンになるんだ』と思ったこと。それだけなんです」

 中上選手のキャリアを語るうえで大きな出来事のひとつとして、2008年から2009年にかけてロードレース世界選手権125ccクラスにフル参戦したものの、結果を残せずにシートを失ったことがありました。

 2010年、2011年は全日本ロードレース選手権に参戦しました。当時は、一度世界から日本に戻ると、再び世界選手権に参戦することは難しいだろう、と考えられていました。それは、中上選手のレースキャリアにとって、とても大きなターニング・ポイントでした。

 中上選手は、2011年にJ-GP2のチャンピオンを獲得して、2012年から再び世界選手権の舞台に戻るのです。あるいはそのときも、その原点が中上選手を支えていたのかもしれません。

「もし、レーシングライダーになっていなかったら?」

 最後に、「もし、レーシングライダーになっていなかったら?」と尋ねました。

 中上選手は「バイクで走ることしかしてこなかったから、昔は考えられなかったんですよね……。環境的にほかの職業を知る機会も見る機会もなかったから、答えるのが難しかった。今でも難しいですけど……」と、しばし悩みます。

2016年オランダGPのトップ3。Moto2クラスで優勝した中上選手(中央)、2位のヨハン・ザルコ選手(左)、3位のフランコ・モルビデリ選手(右)。皆、MotoGPで活躍中のライダーである
2016年オランダGPのトップ3。Moto2クラスで優勝した中上選手(中央)、2位のヨハン・ザルコ選手(左)、3位のフランコ・モルビデリ選手(右)。皆、MotoGPで活躍中のライダーである

 脇目もふらず、レースのために全てを懸けてきた、そして今も生活のほとんどをレースのために費やすレーシングライダーだからこそ、「もしも」だとしても難しい質問なのでしょう。苦笑いをしながら考え込む中上選手を見て、そう感じました。

 中上選手は悩みながらも、こう答えてくれました。

「ここ4、5年はテニスが好きです。テニスも厳しい世界ではありますけど、スポーツが好きなので、テニスプレイヤーは、唯一、候補として挙げられるかな……。メカニックはだめ。プラモデルも作れないんですよ!」

「あとは、4輪ドライバーも興味ありますね。今は年に一度、オフシーズン中、時間があるときに遊びでカートに乗っているんです。パソコンとかはだめ。体を動かす方が好きです。人生でいろいろ経験していったものが、つながっているのかもしれないですね」

 9歳の決断から、23年。その道は「MotoGPライダー」につながっていました。

■中上貴晶(なかがみ たかあき)選手/イデミツ・ホンダLCR/#30
1992年2月9日生まれ
2004年(12歳):ロードレースデビュー
2006年(14歳):全日本ロードレース選手権GP125クラスで全戦優勝。最年少チャンピオンを獲得
2007年(15歳):CEV Bucklerに参戦。また、MotoGP125ccクラス最終戦バレンシアGPに参戦
2008年(16歳):MotoGP125ccクラスにフル参戦
2009年(17歳):MotoGP125ccクラスにフル参戦
2010年(18歳):全日本ロードレース選手権ST600クラスに参戦。
2011年(19歳):全日本ロードレース選手権J-GP2クラスに参戦。チャンピオン獲得
2012年(20歳):Moto2クラスにフル参戦
2018年(26歳):MotoGPクラスにステップアップ
2021年(29歳):アラゴンGPで、日本人ライダーでは最多のロードレース世界選手権として通算200戦出走を達成

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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