バイクのエンジンからカチカチ音がする……「タペット音」ってナニ? そのメカニズムとは

エンジンをかけたらシリンダーヘッドの辺りからカチカチと音がする……けれど、しばらくしたら鳴り止んだ、という旧車や距離を走ったバイクにありがちな症状ですが、大丈夫なんでしょうか?

カチカチ音は、どこで鳴っている?

 動いているエンジンからは吸・排気音の他にも様々な音がしますが、正常でない状態で聞こえる音を「異音」と呼びます。その異音の中でも比較的メジャーなのが「タペット音」でしょう。

 エンジンを始動するとシリンダーヘッドの付近からカチカチ……とか、カタカタ……と金属を叩くような連続音が聞こえますが、しばらくしてエンジンが温まってくると音がしなくなるパターンが多いです。しかしエンジンが温まっても、鳴り続ける場合もあります。

 このタペット音は、旧車や距離を走った4ストロークエンジンのバイク、また特定の車名を出すのは少々気が引けますが、ヤマハの「SR400/500」ではありがちな症状です。

エンジンを始動するとシリンダーヘッド辺りからカチカチカチ……と聞こえる「タペット音」
エンジンを始動するとシリンダーヘッド辺りからカチカチカチ……と聞こえる「タペット音」

「タペット」とは、広義において「カムやカムによって駆動される部品の間で動作を伝達する部品」のことを指します。

 これだと解りにくいですが、カムが吸・排気バルブと接触する部分や(直押し式の場合)、カムによって駆動されるロッカーアームやフィンガーフォロワーが吸・排気バルブと接する部分のことで、そこから発生する音なので「タペット音」と呼びます。

タペットの隙間は、広すぎても狭すぎてもダメ!!

 バイクのエンジンはガソリンと空気の混合ガスを吸い込み、燃焼・爆発することでパワーを生み出すので、当然ながら「熱」も発生します。

 そしてアルミや鉄などの金属で構成されたエンジンは、その熱によって膨張します。とくに燃焼室に配置された吸・排気バルブは爆発時の高温に晒されるので、相応に熱膨張します(細長い軸方向に伸びやすい)。

 その吸・排気バルブが軸方向に伸びる量を見越して、エンジンが冷えている状態ではタペット部分にほんのわずかな「隙間」を設定しています。

 この隙間を「タペットクリアランス」や「バルブクリアランス」と呼び、その値は車種やエンジンごとに異なります。

動弁系のパーツが熱膨張するのを見越して、冷間時のタペット部分に設けた隙間を「タペットクリアランス」や「バルブクリアランス」と呼ぶ
動弁系のパーツが熱膨張するのを見越して、冷間時のタペット部分に設けた隙間を「タペットクリアランス」や「バルブクリアランス」と呼ぶ

 ちなみにヤマハ「SR400」のタペットクリアランスは、吸気バルブ側が0.07~0.12mm、排気バルブ側が0.12~0.17mmです。

 また「YZF-R1」(2018年)では吸気バルブ側が0.09~0.17mm、排気バルブ側が0.18~0.23mmに規定されています。

 タペットクリアランスはこのようにわずかな隙間なので、キチンと規定値に収まっていれば、エンジンを始動した直後の温まっていない状態でも、ライダーに聞こえるほどのタペット音は発生しません。

 しかし距離が伸びてカムやロッカーアームの接触面が摩耗してくると、タペットクリアランスが規定値より広くなってしまい、隙間が大きいためカチカチやカタカタといった「打音」が発生します。

 ところが、しばらく走行してエンジンが温まると、吸・排気バルブをはじめカムやロッカーアームなどの動弁系のパーツが熱膨張することでタペットクリアランスが狭くなり、タペット音がしなくなる……という仕組みです。

 とはいえ、いったんタペット音が発生すると、(広い隙間で叩くため)タペットクリアランスがどんどん広がって、そのうちにエンジンが温まってもタペット音が鳴り続けるようになってしまします。

タペットクリアランスが広すぎるとタペット音が発生する。反対にタペットクリアランスが狭すぎると圧縮漏れを起こしてエンジンの始動性が悪化したりパワーダウンする
タペットクリアランスが広すぎるとタペット音が発生する。反対にタペットクリアランスが狭すぎると圧縮漏れを起こしてエンジンの始動性が悪化したりパワーダウンする

 距離を走ることで、カムやロッカーアームが摩耗してタペットクリアランスが広がるのが一般的ですが、車両によってはタペットクリアランスが狭くなることもあります。これは吸・排気バルブがシリンダーヘッドの燃焼室と密着する「バルブシート」と呼ばれる部分が摩耗するなど、バルブがシリンダーヘッド側に沈み込むことで、相対的にタペットクリアランスが狭くなる症状です。

 この場合は隙間が狭いのでタペット音は発生しませんが、ともするとバルブが正しく閉じ切らなくなるためエンジンが圧縮漏れを起こし、始動性がすこぶる悪くなったり、体感的に分かるほどパワーダウンする場合もあります。これも放置すると、症状は悪化する一方です。

どうやって調整する?

 タペットクリアランスは広すぎても狭すぎてもNGで、規定内に入っていることが重要です。そのために「タペットクリアランス調整」を行います。

 4ストロークエンジンの動弁機構は、「ロッカーアーム式」または「直押し式」の2種類があります。ロッカーアーム式の場合はバルブを押す部分にネジで隙間を調整するアジャストスクリューを備えるタイプが多いようです(バルブシム式の場合もアリ)。

スズキ「Vストローム250」のエンジンはロッカーアーム式で、アジャストスクリュー(矢印)でタペットクリアランスを調整するタイプ。画像では見えないが、吸気側のバルブも同様
スズキ「Vストローム250」のエンジンはロッカーアーム式で、アジャストスクリュー(矢印)でタペットクリアランスを調整するタイプ。画像では見えないが、吸気側のバルブも同様

 また、カムが直接バルブを押し下げる直押し式や、最近のスーパースポーツ系に多いカムとバルブの間にフィンガーフォロワーを設けるタイプの場合は、バルブシムと呼ぶ金属の板(調整用に何種類もの厚みが用意される)を交換してタペットクリアランスを調整します。

ホンダ「CBR250RR」のエンジンはカムが直接バルブを押し下げる直押し式。バルブのバケット(矢印のカバー状の部品)の中に備わるバルブシムを交換してタペットクリアランスを調整する
ホンダ「CBR250RR」のエンジンはカムが直接バルブを押し下げる直押し式。バルブのバケット(矢印のカバー状の部品)の中に備わるバルブシムを交換してタペットクリアランスを調整する

 ヤマハの「SR400/500」はロッカーアーム式のアジャストスクリューのタイプですが、昔のドラムブレーキの型(2000年ごろ)までは、タペットクリアランスの計測に必要なシックネスゲージとアジャストスクリューを回す専用工具(バルブアジャスティングツール)が車載工具に含まれていました。

 ということは、ユーザーにタペットクリアランス調整を推奨していた(?)……のかもしれませんが、調整作業は相応に難易度が高く、作業ミスで症状が悪化するパターンも少なくありません。

 また、バルブシムを交換するタイプだと、あらかじめ多種のバルブシム(厚さの種類×バルブ数。4気筒4バルブだと数百枚!?)を用意しておくか、クリアランスを計測してから必要なシムを注文・取り寄せる必要があり、ユーザー自身が行うのは正直なところあまり現実的ではありません(シムが届くまで作業できない&シムを入れ替えて再計測し、もし規定値に収まっていなければやり直し)。

 したがって「趣味的」にチャレンジしたい人はともかく、タペットクリアランス調整はバイクショップ等のプロに依頼することをオススメします。

放置しないで点検を!

 前述したように、旧車や距離を走ったバイクがタペット音を発している例は少なくありませんが、近年のバイクではあまり耳にしません。これは各パーツの材質の向上や、構造の進化による負荷の軽減(直押し式よりフィンガーフォロワー式の方が負荷が少ない)で、摩耗しにくい=タペットクリアランスが広がりにくくなったからだと思われます。

 それと当然ですが、近年のバイクは総じて(旧車より)走行距離が短いので、まだタペット音が発生する距離に達していない車両が多いのかもしれません。

 また、ヤマハ「SR400/500」がタペット音を発生しやすいのは、単気筒の2バルブ(吸・排気バルブが各1本ずつ)なのでバルブが大きくて重く、かつ空冷なので発熱による熱膨張が大きいことが理由でしょう。

 それに1978年に発売された「ご長寿バイク」(ロングセラーモデル)なので、年式にかかわらず走行距離の長さや経年劣化も考えられます。

 とはいえ定期的にタペットクリアランス調整を行えば防げるし、「SR400/500」のシリンダーヘッドにはタペット調整用のメンテナンスホール(タペットカバー)を設けており、近年の「身が詰まったバイク」よりはラクに調整作業ができます。

 というワケで、エンジンからカチカチ音がしたり、音がしなくても始動性の悪化やパワーダウンを感じたら、速やかにタペットクリアランスの計測&調整を行うことをオススメします。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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