最新ガジェット スマホで簡単セッティング可能なオフロードレーサーの世界とは?

ほぼ毎年モデルチェンジを繰り返すオフロード競技モデル。2020年はヤマハ『YZ250FX』と『YZ450F』がビッグチェンジし、ホンダは『CRF450R』にトルクコントロール『HSTC』を初投入しました。各メーカーが最新技術を投入するモトクロッサー、エンデューロレーサーの世界を覗いてみましょう。

オフロードで試される、最新マッピングテクノロジー

 走行フィールド(レーストラック)に応じてサスペンションやエンジンのマッピングを設定し、マシンを最適な状態に調整することでライバルたちに差をつける競技の世界で、進化したガジェットが活躍しています。

「トルク」型のマップ。燃料濃いめ、点火時期を遅くするというオフロードレーサーでは典型的なマップ

 エンジン内部や独自セッティングのサスペンションなど注目点が多いのですが、ここでクローズアップするのは、スマホによるエンジンマップセッティング機能です。ヤマハの2020年型『YZ250FX』で見てみましょう。

 ヤマハが新エンジン、新車体を投入した2019年型のYZ250Fをベースに、エンジン特性やサスペンション、車体剛性などをクロスカントリー向けに設定したのが2020年型のYZ250FXです。公道走行はできませんが、人気のクロスカントリーレース『JNCC』などに参加するアマチュアライダー層が注目するニューモデルです。

 かつてYZシリーズは『パワーチューナー』という専用の機器が同梱され、車体とコードを繋いでセッティングを可能としていました。それまでノートパソコンを持ち込んでセッティングしていた世界ですが、泥や埃の多いオフロードコースではパソコンを持ち出したくないのも事実。そんな中、新たな専用デバイスを投入したヤマハの先進性が印象的でした。

注目は人気の高いクロスカントリーモデル『YZ250FX』

 2019年型YZ250Fでは、現代のニーズに合わせ、スマホによるセッティングが可能になりました。スマホに専用アプリをダウンロードするだけで使用可能とし、その技術がそのまま、2020年型のYZ250FXにも活かされています。もちろんスマホのWi-Fi機能を通じて行うので、ケーブルは不要です。

ヤマハが推奨する「マイルド」型マップ。点火時期をかなり遅角(ちかく)しているのが特徴

 このスマホによるパワーチューナーは、燃料噴射量と点火時期のマップを調整できます。従来の3×3=9ブロックから、4×4=16ブロックへ変更され、より細分化されました。かつてパソコンでしか見られなかった3Dグラフもチェックできるので、プロエンジニアも満足できるクオリティです。

 ヤマハが推奨する「マイルド」型マップのほか、燃料もかなり薄くした「超マイルド」仕様も試しましたが、初心者でも安心してアクセルを開けられるメリットを感じました。

マップ切り替えは手元のスイッチで行う。青く点灯しているか否かで識別し、走行中にも操作できるほど簡単

 例えばアクセルを開けていくようなゲレンデの登り坂のモードと、タイトでテクニカルなウッズ(林間)やガレ場のセクション手前でマイルドなモード、という切り替えも可能です。

 肝心の走行性能ですが、同じバイクとは思えないほど特性が変わります。初心者からトッププロまで好みに合わせることができるので、1台のバイクを、技術レベルや好みの特性が異なる家族や友人で使い回すときにも有効です。

 長年、ヤマハYZシリーズの開発プロジェクトの中心として活躍される横井正人氏は、新型YZ250FXについて以下のように言います。

「新型YZ250FXは誰が乗っても扱いやすいバイクになりました。ベースとなるYZ250Fが2019年型からセルフスターターを装備したことが大きいですね。

 昨年までのYZ250FXは、セルフスターターを新たに装備することで重量差が生じていましたし、モーターの配置などバランスも難しかったです。今回はセルが付いているYZ250F自体、剛性も最適化されていることで、重量のハンデや剛性バランスを一から考える必要がないのも大きいですね。

 それにモトクロッサーベースの車両ですが、“硬すぎる”バイクではないということもあります。世界レベルの開発ライダー陣も、モトクロッサーに対して“しなやかさ”を求めているため、YZ250F自体の素性が良いと考えています。

 YZ250FXはクロスカントリーだけでなく、モトクロスやトライアル的な遊びもできる、幅の広いバイクだと思いますよ」

もはや当然の装備となった電子制御システム

 ヤマハ以外のメーカーも手をこまねいているわけではありません。各メーカーが独自の解釈で、エンジンマップのテクノロジーを導入しています。

ホンダ『CRF450R』(2020年型)

 ホンダのCRF450Rはハンドル左に『ローンチコントロールシステム(スタート時に活用するシステム。路面コンディションやライダーのレベルによる3段階の調整が可能)』を装備しており、2020年型では、新たに『HSTC(Hondaセレクタブルトルクコントロール)』を初採用しました。

 HSTCは後輪の空転を制御するシステムで、エンジン回転数勾配が規定値以上となったときにエンジントルクを抑制し、駆動力を抑えるものです。3種類のモードから選べて、それぞれ介入度が「弱、中、強」となっています。

動画によるホンダの解説では、HSTC不使用時には空転し、加速立ち上がりが一瞬遅れたのに対し、HSTC使用時はロスなくコーナリング、加速しており、明らかにタイム差が生じていた

 初採用となるHSTCについて、ホンダの開発陣は以下のように話します。

「世界選手権MXGPの本年度MX1チャンピオン、ティム・ガイザー選手や、全日本モトクロスIA1クラスでランキング1-2位を争うTeam HRCの成田亮選手、山本鯨選手もこのシステムを使用しており、成果を得られています。

 切り替え自体は走行中にも出来る事を確認済みです。将来、CRF250Rへの導入は?という質問に対してはお答えはできませんが、今季世界選手権のMX2クラスでは、場面限定ではありますが使用しています、とだけお答えします」

 また、カワサキの2020年型『KX250』では、以前から『ローンチコントロールモード』を装備しており、軟質路面や硬土など滑りやすい路面や、スタート時のトラクション性能をコントロールしています。

カワサキ『KX250』(2020年型)

 カワサキの場合は手元のスイッチではなく、3種類のDFIカプラーを差し替えて、エンジンマップを切り替えます(緑:スタンダード、白:ハード路面用、黒:マディ路面用)。

カワサキ『KX250』(2020年型)

 カプラーの差し替えに工具は不要です。また、オプションのキャリブレーションキットを使えば、細かい設定が可能です。パソコンは不要で、コントローラーをエンジンECUに接続することで使用できます。

 スズキもRM-Z450で『スズキホールショットアシストコントロール(S-HAC)』を搭載しています。スロットルポジション、ギアポジションの情報から最適なエンジン出力を生み出すシステムです。

スズキ『RM-Z450』(2020年型)

 S-HACは、硬い路面や滑りやすい路面用の「A」モード、良好なコンディションでトラクションがかかりやすい路面用の「B」モードから選択できます。エンジンマップはカワサキ同様、カプラーを差し替えて切り替えることができます。

※ ※ ※

 不整地を走破するオフロードレーサーの世界も、今やマッピングコントロールはライダーが自在に切り替えられる時代です。しかし電子デバイスに振り回されないよう「これと決めたら迷わないことも大事です」と、某トップモトクロスライダーも話しています。

 あくまでも操るのは人間です。電子デバイスを上手く利用して、楽しいオフロードバイクライフを送りたいですね。

【了】

オフロードレーサーが最新のガジェットでより楽しくなる?

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