いったいなぜ? 鈴鹿8耐2020への参戦権を持つ日本チーム「TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW」がセパン8耐に参戦した理由

2019年12月14日、マレーシアにあるセパンインターナショナルサーキットで決勝レースが行われた世界耐久ロードレース選手権(EWC)には、日本から多くのチームが参戦しました。その、ほとんどのチームがセパン8耐に参戦を決めた目的は、同シリーズの最終戦である鈴鹿8耐2020への参戦権を手にするため。しかし1チームのみ、鈴鹿8耐への参戦権を持っているにも関わらず、セパン8耐に戦いを挑んだチームがあったのです。

世界に通用するチームだと証明したい

 2019年12月11日から14日の4日間、セパンインターナショナルサーキットで行われた世界耐久ロードレース選手権(EWC)第2戦 セパン8耐には、日本から約10チームがスポット参戦を果たしました。その、ほとんどのチームの目的は、同シリーズの最終戦 鈴鹿8耐2020への参戦権を得ることです。

ピットレーンでタイヤ交換を行うTONE RT SYNCEDGE 4413 BMW

 しかし、鈴鹿8耐2019 SSTクラスで優勝を果たし、来季鈴鹿への切符を持っているにも関わらず、セパン8耐に戦いを挑んだチームがありました。それが、「TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW」です。

 彼らは、いったいなぜセパン8耐に参戦したのでしょうか。

●山下監督 (#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW)

TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW 山下監督

ーーーセパン8耐に参戦することを決めた1番の理由は?

「監督としてチームをやってきて、全日本に参戦して、鈴鹿8耐にも参戦して、しかもSSTクラスで優勝してしまったので、次に目指すものが必要だと思ったんですよ。

 そこで思い浮かんだのが、24時間耐久に参戦したいという目標でした。

 それは日本でチームをやっていて、これまでやってきたレースでの経験と何年か前に見に行ったボルドール24時間がすごく大きくて、ボルドールを実際に見た時に、鈴鹿8耐に参戦しているほとんどの日本チームなら戦えるように見えたんです。

 例えば、使っている機材だとかピットワークなどを見ていると、別にできないレベルではないなと。

 全日本も鈴鹿8耐も、ボルドールも全部『できる』となった時に、海外のサーキットだったりレースって雰囲気だったり歴史だったりが全然違うでしょ? オートバイのレース文化はヨーロッパが発祥で、日本は後発じゃないですか?

 やっぱりオリジナルっていう部分にはすごく意味があると思っていて、是非そっちに出てみたいと思ったんです。
 
 そうすると、今日本でレースをやっていると起きるいろいろな小さな問題。つまらないことで喧嘩になるなど、村社会的な風潮なども全部超越したところにあるというか、超越しないとそもそもやれないみたいな。そんな、海外での24時間というアホみたいなレースに全力でトライしてみたいと思ったし、うちのチームスタッフに是非経験させてあげたいと思ったのが一番の理由です。

 技術的な面や体制的な面では24時間レースに参戦することは可能だと感じたものの、海外のレースにかかる予算や実際の大変さなどはやったことがないので分からないから、うちのチームは資金が豊富にあるわけではないので、現状は現実的ではないのですが……。

 今回はセパンでのF1が無くなって、F1に変わるイベントとして鈴鹿8耐をリスペクトしてセパンで8耐をやるということを去年から聞いていたので、出られたらいいなと漠然と思っていました。

 そしたらチームの運送費を主催のユーロスポーツが持ってくれるなどの待遇があり、『それなら可能性あるじゃん!』って。

 日程も12月なら全日本も終わっているので、参戦することを決めました」。

ーーー参戦が決まってから実際にセパンに来るまでに一番大変だったことはなんですか?

「一番大変だったのは、やはりチーム全体の資金を用意することだったり、レース資材を海外に持ち出すためのカルネという書類を作ることだったり……。

 実際に動いてくれたチームオーナーの高村君が一番大変だったと思います。

 あとは、チームのみんなをその気にさせることが大変でしたね。

 チームオーナーでありチーフメカである高村君がそもそもやる気になってくれなければ、セパン参戦は実現しなかったので、高村君、そしてピットクルーやライダー、みんなに、今年の目標は鈴鹿8耐を経てセパンに行くことだからと言い続けました。

 ライダーは、いえば行きたいって答えるにきまっているじゃないですか? でも、実際に予算がどのぐらいで……と、細かいことを明確にしていって……。

 そうすることで、最初は絶対に無理だと思っていたみんなが、だんだんやる気になってきて。

 ホントに行くの? どうするの? どうするの? という状態で、みんな会社の休みを取るのは大変なので……。

 でも、なんとなく『行くよー行こうよ! 行こうよ!』っていっていたら、『行きたい!』ってなって、みんなで来られた感じですね」。

ーーー日本と海外。レースをするのに違いはありましたか?

「当然環境は違うんだけど、一番違うのは参加したみんなの表情で、この人いつもだったらこんなことしないのにと思うぐらいすごく積極的だったり、いろいろと楽しんでくれている感じがすごくみんなの表情から見えて、最高に嬉しかったです」。

ーーーセパン参戦の次の目標は?

「次はやっぱり24時間耐久! ボルドールかル・マンに出たいですね。ボルドールの方がいいかな。

 ボルドールは直線が長くて、350㎞/h出ちゃうから、24時間走るのにバイクがいっぱいいっぱいで、ワークスマシンもチューニングをほとんどできないと聞いているし、本当にそうだと思うので、そうなるとSSTクラスにも大きなチャンスがあるはずで、実際に毎年のリザルトを見ても6位にSSTのトップが入ったりしているので、それをやりたい。

 だって、ボルドールで6位に入ったらすごいでしょ? それはチーム力の証明以外のなにものでもないし。

 自分たちは日本人なのにBMWのマシンとピレリのタイヤを使ってレースをしていて、日本では完全にアウェイで1台しかいません。

 自分たちでいろいろと積み上げてきて、それなりに力は付いたと思っているのですが、比較対象がないから実際のところが分からないんです。

 でも、ボルドールとかに行けば、世界の中での順位がハッキリとわかるでしょ?

 今回もセパンは初開催なので、ヨーロッパチームと日本チームみんなが初めてで、同じスタートラインからスタートして順番が付いたら、世界で何番目って言えるじゃないですか。

 もちろん鈴鹿8耐でのSST優勝も世界のSSTで優勝したとは言えるけど、8耐はホームだから日本人的には海外に出て行って、海外でも結果を残すことができたら、ホントに俺たちは強いチームだって言えるでしょ?

 工夫次第でプライベーターでもそこまでやれるというのを証明したいという気持ちは強いです」。

●渥美 心 選手 (#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW)

TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW 渥美 心 選手

ーーーセパン8耐に参戦することを決めた1番の理由は?

「まず、このチームに入る時から海外の耐久レースに出たいという方針を聞いていて、僕もその気持ちに賛同してこのチームに入ったという経緯があり、海外のレースへの参戦は僕もチームも望んでいた事でした。

 セパン8耐の開催が決定したときに、参戦をチームに猛プッシュして、チームもその提案に乗ってくれて、参戦することになりました。

 ただ、監督は僕の提案にすぐに乗ってくれましたが、高村さんは追々、考えながらという感じでした。

 でも、鈴鹿のSSTで勝って、乗りに乗っていい環境でセパンにも挑めるということで、参戦することを決意してくれました 」。

ーーー参戦が決まってから実際にセパンに来るまでに一番大変だったことはなんですか?

「僕にとってもチームにとっても海外のレースというのは初めてだったので、チームはもっとだと思うのですが、僕も飛行機の預け入れ荷物の重量だとか、持っていける荷物が限られていて・・・。

 持っていくものを制限しつつ、これだけはどうしても欲しいというものを選りすぐりして、絶対に必要なものしか持ってこないと腹をくくってここに来ました。

 その選別が一番大変だったかな」。

ーーー欲しかったけど渋々置いてきたものって、具体的にはなんですか?

「装備関係ですね。インナーの予備とか。いろいろな予備が持ってこれませんでした。

 なんでも大量にあった方が楽なのですが……。

 日本だったら普通に持ってこれていたものが、限られた枚数しか持ってこれなくて……洗濯したりして対応しました」。

ーーーセパンインターナショナルサーキットを実際に走った印象は?

「セパンは走ったことがなかったので、ここに来るにあたってゲームでめちゃくちゃ練習してきたのですが、意外にブレーキングポイントとかも一緒で、すごく参考になりました。

 ブレーキングでここまで突っ込もうと決めていたところなどはその通りになったので、全く違う話になっちゃいますが、ゲームってどんどん進化していてすごいなと思いました。

 だから、スピードが速すぎたらどうなるというイメージがなんとなく見えていたので、自分の感覚に落とし込んで、自分の動きをそれに合わせていくという感じでやっていったらある程度は上手く走れたかな?という感じでした」。

 ーーー難しいコースでしたか?

「僕にとってはそこまで難しい印象はなかったです。

 日本には無いタイプのコースですが、鈴鹿などの高速コーナーを走ったことによって培った感覚などを活かし、応用したら走れるサーキットでした」。

 ーーーセパン8耐に参戦した感想は?

「初めての海外レースで、この耐久レースは鈴鹿8耐とは違い、ヨーロッパのチームが多く参戦しているので、ヨーロッパのEWCチームに僕としてもチームとしてもアピールするチャンスだと思って参戦しました。

 予選でもSSTのポールを取ることができ、決勝でもSST3位でしたが存在感はアピールできたと思うので、これを今後につなげていけたらいいなと思っています」。

●石塚 健 選手 (#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW)

TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW 石塚 健 選手

ーーーセパン8耐に参戦することを決めた1番の理由は?

「鈴鹿8耐でオファーを頂いたチームから再度お話を頂いて、とても戦闘力のあるチームで雰囲気も良く、鈴鹿でもSSTで優勝できましたし、EWC第2戦という鈴鹿以外の場所でも成績を残せるのではないかという確信があったので、すぐにやりたいと思いました。」

ーーー参戦が決まってから実際にセパンに来るまでに一番大変だったことはなんですか?

「セパンは初めて走るサーキットだということで、サーキットの特性だったりとか、鈴鹿8耐ぶりに乗るマシンのフィーリングを思い出したりなどに時間をかけました。

 今年はスプリントのレースをずっとやっていたので、耐久レースをするために頭を切り替えることがたくさんあったので、サーキットを攻略するための準備が一番大変だったと思います」。

ーーー初めて走るサーキットを早く攻略するために、具体的にはなにをしましたか?

「イメージトレーニングです。

 実際にセパンを走っている動画を見たり、スーパーバイクのレースを見たりしてイメージを膨らませました」。

ーーーセパンインターナショナルサーキットを実際に走った印象は?

「初めてのサーキットはイメージしていたのと実際に走るのでは結構違ったりするのですが、セパンは動画などを見てイメージしていたサーキットそのもので、攻略するのに時間はかかりませんでした」。

ーーーセパン8耐に参戦した感想は?

「とてもいい経験になったと思います。

 今年は1年間、ヨーロッパでレースをやってきたこともあり、ほとんどのサーキットが初めてだったので、初めてのサーキットでも自信を持って攻めることができました。

 ヨーロッパで得たものを最大限に発揮できたと思うし、チームとしても海外のレースに初参戦してSSTクラス3位というのも上出来な結果だと思います。

 プラクティスや予選でも総合で上位に食い込めていたので、チームにとっても自分にとっても今後に向けての大きな自信につながりました」

※ ※ ※

セパン8耐への参戦理由は挑戦。日本で培ってきたレースでの経験が世界レベルで通用することを証明したかったと話すTONE RT SYNCEDGE 4413 BMWは、予選:総合12位/SSTクラス1位、決勝:総合15位/SSTクラス3位という素晴らしい結果を残し、そのチーム力を示してくれました。

 鈴鹿8耐SSTクラス優勝、セパン8耐参戦と、有言実行!ひとつひとつ着実に目標をクリアしていく同チームが、ボルドール24時間という次の目標を実現する日もそう遠くはないはず! 是非、実現して頂きたいと思います。

【了】

SSTクラス3位を獲得したTONE RT SYNCEDGE 4413 BMWのセパン8耐の様子を写真で見る (40枚)

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