トライアンフ製バーチカルツインの王道「Bonneville T100(ボンネビルT100)」の魅力とは

英国の老舗バイクメーカー「TRIUMPH(トライアンフ)」には、人気の「Bonneville(ボンネビル)」シリーズがあります。その中でも最もクラシカルなスタイリングの「ボンネビルT100」に試乗しました。

微妙にわかりづらくなった各車の特徴

 2016年から展開が始まったトライアンフの水冷バーチカルツイン(シリンダーが直立したレイアウトの並列2気筒)エンジンシリーズは、当初は3機種のみでしたが、現在は9機種がラインアップに並んでいます。そして台数が増えた結果として、門外漢には各車のキャラクターが微妙にわかりづらくなっているようです。

トライアンフ「Bonneville T100(ボンネビルT100)」(2021年型)に試乗する筆者(中村友彦)

 もっとも、「ストリートスクランブラー」と「スクランブラー1200」が悪路走破性を意識していること、「スピードマスター」と「ボバー」がクルーザーであること、「スラクストンRS」が往年のカフェレーサースタイルを再現していることは、少しでもバイクの知識がある人ならすぐに理解できるでしょう。ただしほかの4台は、車名で誤解をする人がいるかもしれません。

 まず王道の「Bonneville(ボンネビル)」には「T120」と「T100」の2種が存在しますが、「T120」の数字が排気量と一致しているのとは異なり、「T100」の排気量は900ccです。余談ですが、1950年代から1960年代の同社の車名の数字は、マイル表記の最高速が通例でした。

 そして「ストリートツイン」と「スピードツイン」は、車名からは類似性を感じますが、「ストリートツイン」がコスト抑制を意識したベーシックな車両であるのに対して、「スピードツイン」は現代的な運動性を追及したスポーツバージョンです。なお当記事で取り上げる「ボンネビルT100」の立ち位置は、「T120」の弟分であると同時に、「ストリートツイン」のクラシック仕様と言えそうです。

兄弟車の2年遅れで各部の改革を実施

 2021年のトライアンフのバーチカルツインシリーズは、9台中7台が仕様変更を受けています。中でも最も大きな刷新を受けているのが「T100」で、まずエンジンは排気量を拡大することなく、最高出力を55psから65psに高めています。

排気量900ccの水冷並列2気筒SOHC4バルブエンジンを搭載。シリンダーが地面に対して直立した配置の「バーチカルツイン」はトライアンフの伝統を象徴するもののひとつ

 一方の車体に関しては、ニッシンからブレンボに変更されたフロントブレーキャリパー、カートリッジ式となったフロントフォークのダンパーなどが注目すべき要素で、車重は従来型より4kg軽い229kgになりました。

 ただしそれらの変更は、「ストリートツイン」と「ストリートスクランブラー」が2019年型で行った刷新の内容と同様ですから、「T100」は2年遅れで改良を受けたわけです。そう考えると「T100」は、同社にとって重要度が低いモデル……なのかもしれません。

 とは言え今回の試乗で「T100」を体感した私(筆者:中村友彦)は、実際に自分がトライアンフのバーチカルツインを購入する立場になったら、相当に迷いそうですが、この車両を選ぶ可能性が十分にあると感じました。

兄貴分のT120より、元祖ボンネビルに近い?

 一昔前ほどではありせんが、バイクの世界には“大きいことはいいことだ”、“排気量が大きいほうがエライ”という考え方をする人が存在します。しかしボンネビルの「T120」と「T100」を同条件で試乗して、そう断言できる人は決して多くはないでしょう。もちろん、絶対的なパワーや低中回転域のトルクは、排気量が300cc大きい「T120」のほうが上です。さらに言うなら価格が高いぶん、パワーユニット外観の仕上げは「T120」のほうが凝っていますし、電子制御も「T120」のほうが充実しています。

トライアンフ「Bonneville T100(ボンネビルT100)」(2021年型)

 とはいえ、「T100」には軽さという武器があるのです。まず車重が8kg軽いので、押し引きとハンドリングは明らかに「T100」のほうが軽快で、エンジンフィーリングに関しても、排気量の小さい「T100」のほうが格段に軽やかです。逆に「T100」を体感すると、「T120」の重厚な特性はクルーザーを連想する人がいるかもしれません。

 そのあたりを考えると、1959年に登場したシリーズの原点、いろいろな意味で軽快だった元祖ボンネビルに通じる資質は、「T120」より「T100」のほうが味わいやすい、と個人的には思います。

 ただしそういう視点で見るなら、排気量が同じ900ccで、車重がさらに軽い「ストリートツイン」(217kg)と「ストリートスクランブラー」(221kg)のほうが、もっと原点に近いのかもしれません。と言うより、じつは今回の試乗までの私は、「T100」よりも、その2機種のほうに魅力を感じていました。

 でも2021年型で行われた変更が功を奏したようで、現在の私の中では「T100」の株が急上昇しています。中でも、中回転域のトルクの太さ、足まわりの落ち着きのよさ、前輪の接地感のわかりやすさなどは印象的で、極端に言うなら、このモデルこそが900ccのメインで、他2機種は派生機種のような気がして来ました。

オーソドックスなヘッドライトまわり。灯火類はLEDではなく従来のハロゲンバルブ

 まあでも、「ストリートツイン」の価格の安さとシートの低さ、「ストリートスクランブラー」のアップマフラーとフロント19インチホイールにも、捨て難い魅力があるのは事実です。だから3台の中から1台を選ぶのは容易ではないのですが、昔ながらの乗り味に加えて、昔ながらのオーソドックスなスタイルが好みのライダーにとっては、「ボンネビルT100」が最有力候補になるでしょう。

※ ※ ※

 トライアンフ「Bonneville T100(ボンネビルT100)」の価格(消費税10%込み)は128万円からとなっています。取材車両のカラーリング(ルーサンブルー/フュージョンホワイト)は131万9600円です。

【了】

【画像】トライアンフ「Bonneville T100」(2021年型)の詳細を見る(9枚)

画像ギャラリー

Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

最新記事