真夏でも快適!! レーシングドライバーの頭部を冷やす快適なシステムをバイクにも!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.105~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、なぜバイクはライダーを冷やす冷媒システムを開発しようとしないのかと言います。どういうことなのでしょうか?

やせ我慢は身体に毒、だと思うのだが……

 バイク乗りにとって、真夏は体力的に厳しい季節である。だから避暑を兼ねた北海道や標高の高いワインディングへ向かうツーリングが流行るのだろうと想像するけれど、とにかく頭部が暑い。巡航しているなら風を受ける身体はなんとか耐えられる。だがヘルメットで覆われた頭部を冷やすのは小さな穴から導入する夏の外気でしかなく、おつむのヒートアップは避けられない。

レーシングドライバーの筆者(木下隆之)が装着するヘルメットには、冷気を導入するシステムが装備されている

「アタマ冷やしてこい!」とは何度も教師から怒鳴られたけれど、バイクに乗っている時は本当に、自主的に頭を冷やしたい。

 その点では僕(筆者:木下隆之)が仕事で乗るレーシングマシンはなかなか良い環境である。真夏のレースが「暑くて熱い」のはドライバーもライダーも変わらないが、エアコンが組み込まれているからだ。

 と言っても、コックピット全体を冷やすほど冷媒の容量があるはずもない。パワーロスを防ぐため加速中はオフ、減速時のみオンのエアコンが装備されており、冷気を発生する。その冷気はヘルメットを覆うアクリルの「おかま」に導かれ、ヘルメットに開けた小さな穴から導入、冷風が頭頂部を冷やしてくれるのだ。

 ヘルメットに貫通させるのは衝撃時の強度不足となるから、僕が愛用しているアライヘルメットで加工をしてもらう(もちろん安全基準を満たしている)。

 これが快適そのもので、ときには寒いと感じるほど強力だ。地獄の暑さの中でも生きた心地がする。気温が低ければスイッチオフ。

ヘルメットを覆うアクリルの「おかま」に送り込まれた冷気がヘルメットに開いた通気口から導入され、頭頂部を冷やす

 4輪のレーシングマシンでも快適なのだから、バイクで有効でない理由が見当たらない。というのに、バイク用のエアコンという話を耳にしたことがない。エンジンの動力を利用して冷気を生み出す装置を開発するメーカーがあっても不思議ではない。だというのに、なぜかライダーは古今東西に渡って不平不満を口にせず、エアコンレスで真夏のツーリングを楽しんでいる。

 ホンダの「ゴールドウイング」なんて、リバースも可能だしオーディオもエアバッグも装備している。だというのに、エアコンがないのが不思議なのだ。

 バイクという乗り物にエアコンが開発されない不思議を友人のゴリゴリライダーに問うとこんな答えが返ってきた。

「ライダーはだいたいドMだから!」はぁ、なるほど……。聞いた僕が間違いなのか、ライダーとはそういうものなのか……。

 そう答えながら、友人は汗で濡れたびしょびしょの髪を、雑巾のようなヤレたタオルで拭いていた。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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