史上最多となる27万人の観客数を記録したMotoGPフランスGPで感じた空気 ~「ル・マン」ぶら歩き~

MotoGP第5戦フランスGPの取材では、観客の雰囲気をより近くで感じることができました。フランスGPは史上最多の観客数を記録したのですが、その大人数がコース上で繰り広げる戦いに熱中する様子は、圧倒的な光景でした。

もはや熱狂、圧倒的な興奮が伝わってくる

 私、伊藤英里のル・マン-ブガッティ・サーキット周辺の印象は、「静かな町」というものでした。そしてまた、よく聞くように「連綿と行なわれてきたモータースポーツの存在感、伝統を実感できる町」というものでもありました。大型スーパーマーケットには4輪の耐久レース、FIA世界耐久選手権(WEC)ル・マン24時間レースのグッズが並びます。道路を走るトラムには、やはりWECのラッピング車両が混じっていて、停車駅にはポスターが貼られていました。2023年、WECル・マン24時間レースは100周年を迎えるのです。町全体が、その記録的なレースに彩られていました。

WECル・マン24時間レースのグッズ。スーパーマーケットで売っているのがすごい
WECル・マン24時間レースのグッズ。スーパーマーケットで売っているのがすごい

 私が取材したMotoGP第5戦フランスGPもまた、記録的なグランプリで、ロードレース世界選手権1000GPとしての大会でした。

 5月中旬のル・マンは日が暮れると暖房が欲しくなるほど寒く、日中は陽が差せば暑いくらいの体感気温です。そして、びっくりするほど日没時間が遅いのです。21時ごろになってようやく、夕焼けを眺めることができるのでした。

 木曜日、ホテルからサーキットに向かうと、近くに民家やレストランがあり、自動車やバイク関係のショップが並んでいました。それを見ながら入り口を目指します。4輪の耐久レース、WECル・マン24時間レースが行なわれるのは大部分が公道の「ル・マン-サルト・サーキット」ですが、今回訪れたのはMotoGPや2輪の24時間耐久レースが行なわれる「ル・マン-ブガッティ・サーキット」です。

「ル・マン-ブガッティ・サーキット」のマップ
「ル・マン-ブガッティ・サーキット」のマップ

 レースウイークの木曜日は走行がありません。にもかかわらず、ル・マンはすでに熱気の片鱗が漂っていました。木曜日夕方のピットウォークでは、とくにフランス人ライダーのファビオ・クアルタラロ選手のピット前がとてつもなく盛り上がり、ぎゅうぎゅうと観客がひしめいて歓声が上がります。たくさんのMotoGPファンの興奮がピットレーンを埋めていました。

 ル・マンはパドックや一部の客席、イベント会場、グッズショップ、飲食ブースなどのエリアをコースがぐるりと囲むようなレイアウトになっています。

 金曜日、走行の合間にパドックを出ると、たくさんの人々がサーキットの中を家族や友人と一緒に歩いており、おしなべてビールを手にしている様子に出くわしました。みんな、陽気にビールを飲みながら移動したり、物販のブースを覗いたり、飲食ブースに寄って腹ごしらえをしたりしていました。

 それにしても、とにかく、人が多い……! それもそのはず、フランスGPの週末は史上最多の観客数である27万8805人を記録したということです。

スタート前の様子。グランドスタンドは満員御礼
スタート前の様子。グランドスタンドは満員御礼

 フランスGPで彼らの中に混じって歩き、感じたのは、これまでに触れたことのない熱さ。それは、人が多いというだけでは言い切れないものでした。もしあの空気を表すとしたら、「熱狂」という言葉が近いかもしれません。その空気は、日曜日の決勝レースでさらに膨れ上がりました。

 日曜日、メディアセンターから真正面に見える大きなグランドスタンドは、観客でびっしりと埋められていました。

 MotoGPクラスの決勝レースでフランス人ライダーのヨハン・ザルコ選手が3位を獲得して表彰台に上がると、グランドスタンドに座る観客は最終コーナー側に位置する表彰台に向かって、木曜日のピットウォークで感じた以上の、ひときわ大きな拍手と歓声が上がっています。揺れるフランス国旗。コース上を覆う、圧倒的な興奮。メディアセンターのガラス窓を隔てて、ひりついた興奮が伝わってくるのでした。

ル・マンを象徴するミシュランのランキングタワー
ル・マンを象徴するミシュランのランキングタワー

 日曜日のレースが全て終わった後、駐車場に向かうころには、レースが終わって5時間以上経っていました。その道にはもう、ビールのカップを首から下げて、レースへの興奮をにじませながら歩く観客はいません。静かになったコースを、まだまだ強烈な夕日の光が照らしていました。

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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