電動アシスト自転車の要! スポーツ自転車「e-MTB」に搭載される最新ドライブユニットとは?

モーターサイクルショーの自転車版、国内最大規模を誇るスポーツ自転車の見本市「サイクルモードインターナショナル 2019」で見た「e-MTB」の最新ドライブユニットとは?

スポーツ自転車の見本市で最新の技術を見た!

 2019年11月2日(土)から4日(月・祝)まで、千葉県の幕張メッセで「サイクルモードインターナショナル 2019」が開催されました。国内最大の規模を誇るスポーツ自転車の見本市として毎年開催されている、モーターサイクルショーの自転車版になります。

『Bosch(ボッシュ)』の高性能ドライブユニット「パフォーマンスライン CX」を搭載するe-MTB

 会場には1000台を超えるスポーツ自転車のほか、国内外の最新パーツやウェアが展示され、会場をひと回りすればスポーツ自転車を取りまく現代のトレンドが何となく見えてきます。

 ここ数年でもっとも革新的なスポーツ自転車といえば、何と言っても「e-BIKE」でしょう。簡単に言えば電動アシスト付きのスポーツ自転車です。

 欧州や北米ではすでに人気のカテゴリーとなっており、2018年から日本市場でも本格的な展開が始まっています。もちろんサイクルモードでも業界の期待感や来場者の注目度が高く、わざわざ専用のエリアが設けられるほどです。

多くの来場者でにぎわう「サイクルモードインターナショナル 2019」会場(幕張メッセ)

 日本で多く走っている一般車(いわゆるママチャリ)タイプの電動アシスト自転車との大きな違いは、スポーツライドを想定した小型・軽量なドライブユニットが搭載されている点です。

 ドライブユニットというのは、アシストを行うモーターと、それを制御するROM、バッテリーなどのセットを総称したものです。このドライブユニットを製造している主なメーカーは、日本の「シマノ」や「ヤマハ」、「パナソニック」、ドイツの「ボッシュ」、中国の「バーファン」などがあります。

 これらのメーカーは、サプライヤーとして世界中のスポーツ自転車ブランドにドライブユニットを供給していますが、ヤマハやパナソニックのように自社ブランドの自転車に搭載するケースもあります。

ヤマハが参考出品する「YPJ-MTB フルサスコンセプト」(エンデューロ)には自社製e-MTB向けドライブユニット「PW-X」が搭載される

 なかでも世界有数の自動車機器サプライヤー(ABSなど)である『Bosch(ボッシュ)』は、バイク乗りにも馴染みのある名前でしょう。じつはe-BIKE黎明期の2009年から市場に参入しており、すでに欧州では大きなシェアを獲得しています。

 そんなボッシュのブースでは、2019年に登場したばかりのe-MTB向け高性能ドライブユニット「パフォーマンスライン CX」が展示されていました。

e-BIKEの中でも人気のカテゴリー、MTBタイプの「e-MTB」とは?

 スキーやスノーボードがそうであるように、MTB(マウンテンバイク)で山道を駆け降りる爽快感は言葉にならないものです。しかし、ゴンドラのあるスキー場のゲレンデを利用したクローズドコース以外でそれを味わうためには、自力で未舗装の坂道を登らなければならなりません。

イタリアのモーターサイクルメーカー『FANTIC(ファンティック)』のブースでは自社開発のe-MTB「XF2 INTEGRA」をオフロードバイクと共に展示

 自転車を漕いで登れるならまだいいのですが、実際には「押して」登るケースもよくあります。そこへ電動アシストがあれば、その労力は激減することになるのです。MTBで山遊びする人間にとって、e-MTBは待望の救世主だったのです。

 ボッシュのブースにはパフォーマンスライン CXを搭載したTREK(トレック)の「Rail9.7」が用意されていたので、少しだけ試乗させてもらいました。

 Rail9.7は、カーボン製のメインフレームに前160mmトラベル、後150mmトラベルのサスペンションを搭載し、本体価格79万円のハイエンドモデルです。バッテリーがフレームに内蔵されているため、知らない人が見たら、これが電動アシスト自転車とは判別できないでしょう。

ボッシュのパフォーマンスライン CXを搭載したTREK「Rail9.7」に試乗する筆者(佐藤旅宇)

 ボッシュ株式会社マーケティング担当の豊田佑一さんにお話を伺いました。

「2019年フルモデルチェンジされたパフォーマンスライン CXの特徴は、従来モデルから大幅なコンパクト化を果たしたことです。出力は同じ最大75Nmですが、体積比で48%も小型化されています。

 スポーツサイクルはクランクの中心部(自転車用語ではBBと呼ばれる)から後輪車軸までの距離(リアセンター)によって運動性能が大きく変化します。短ければ回頭性の高いスポーティなハンドリングになり、長ければ直進安定性に優れた特性になります。

 e-MTBはドライブユニットをBB付近に搭載するという構造上、電動アシストを持たないMTBよりもリアセンターを長くせざるを得なかったのです。しかし、このパフォーマンスライン CXは最初からe-MTBに搭載することに特化した設計を採用したことで、一般的なMTBに近いジオメトリーを実現しています。また重量も3.9kgから2.9kgへと、およそ25パーセントもの軽量化を果たしました」

ボッシュのパフォーマンスライン CXを搭載したTREK「Rail9.7」

 一般的な電動アシスト自転車と同様に、e-BIKEもモーターによるアシスト力やアシストできる上限速度(時速24km)が法律によって規制されています。したがって今後、ドライブユニットの進化は小型軽量化とモーターの制御プログラムの緻密化が二本柱となるでしょう。

 豊田さんはパフォーマンスライン CXの制御について以下のように話します。

「アシスト力の制御の味付けはメーカーの思想や車種によって異なります。パフォーマンスライン CXが重視しているのは、乗り手の意思に忠実な制御です。つまり、ペダルを踏んだら素早くアシストが立ち上がり、踏むのを止めたらすぐにアシストが切れる、そういうメリハリのある制御です」

 MTBで岩場などの滑りやすい路面を走るときは、トラクションの確保が肝要です。いくら脚力があっても、路面状況に応じて繊細なペダリングと荷重移動ができなければ、バイクを進ませることはできません。それはe-MTBも同じですが、従来のモデルはここが弱点でした。ペダルを踏むと急にアシストが立ち上がってしまうからです。

大幅な軽量小型化を実現したパフォーマンスライン CX(左:旧型/右:最新型)

 パフォーマンスライン CXでは、踏力に応じて適切なアシスト力を自動でコントロールする「e-MTBモード」を新たに搭載していると言います。

 サイクルモード会場の狭い試乗コースでこのバイクの真価を見極めることは当然できませんでしたが、このモーターの制御の緻密さだけはすぐに分かりました。重心バランスの良い車体と、切れ味抜群のドライブユニットの組み合わせは平地を走っていても動きが軽くて爽快です。

※ ※ ※

 現在、e-BIKEはフレームを製造する自転車メーカーとボッシュのようなドライブユニットメーカーが連携して新型車の開発にあたっています。ありもののフレームにありもののドライブユニットを組み合わせた黎明期を経て、e-BIKEは第2のフェーズに移行したと言えるかもしれません。

【了】

欧州で人気の「e-MTB」最新技術とは?

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Writer: 佐藤旅宇(ライター)

オートバイ専門誌『MOTONAVI』、自転車専門誌『BICYCLE NAVI』の編集記者を経てフリーライターに。クルマ、バイク、自転車、アウトドアのメディアを中心に活動中。バイクは16歳のときに購入したヤマハRZ50(1HK)を皮切りに現在まで20台以上乗り継ぐ。自身のサイト『GoGo-GaGa!』も運営する1978年生まれ。

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