イタリアンスクーターの老舗ブランド「ベスパ」 1960年代に登場した「Vespa 160 GS」は当時の“俊足”スクーターだった
ベスパやランブレッタ、ラビットやシルバーピジョンなど、近年旧車ファンの間で人気が高まっているのが、スチールボディを持つスクーター「鉄スクーター」です。今回は国内唯一の鉄スクーター専門誌「WELLERマガジン」に掲載されたヴィンテージVespaの王道モデルをご紹介します。
1963 Piaggio Vespa 160GS MK.2
Piaggio Vespa(ピアッジオ・ベスパ)のヴィンテージモデルの中でもその美しいデザインで古くから別格としての扱いを受けてきたのが「Vespa GS」シリーズです。今回ご紹介する「160GS」は1963年に登場した通称「Mk.2」と呼ばれる後期型の車両です。
車両のオーナーは、VespaやLambretta(ランブレッタ)などイタリア製鉄スクーターを複数台所有するマニア。とくに160GSには特別な思い入れがあるとのことで、この160GS Mk.2は、購入から20年以上に渡って所有しているそう。
Vespa GSシリーズでは、50年代的なデザインを引きずる「150GS」と後継モデルの「160GS」が人気を二分していますが、160GSは歴代Vespaヴィンテージモデルのなかでもトップクラスの人気を誇るモデルであり、いまでも世界中のマニアに愛されている車両です。
この160GSには1962年に登場した「Mk.1」と呼ばれる前期型と、1963年に登場した「Mk.2」と呼ばれる後期型の2種類が存在しています。パッと見ではよく似ている2機種ですが、わかりやすい違いとしてはラゲッジスペースのレイアウトが挙げられます。
Mk.1ではリアシート後方、テールランプ上部のボディパネルにフタ付きの小物入れを備えていますが、Mk.2ではそれが廃止されて、代わりにフロントパネル裏側に大型のグローブボックスを装備するようになりました。これは現代のスクーターの装備にも通じるもので、Piaggio社の先見性の高さを証明する装備と言えるかもしれません。
このように、160GSは150GSよりもラゲッジスペースの充実など実用性が高められたモデルではありますが、「GS=Grand Sport」の名が示す通り、その走りは当時のスクーター界では“俊足”と呼ばれる部類に入ります。
160GSのエンジンは2ストロークの強制空冷単気筒で、最高出力は8.2ps、最高速度もカタログ値で100km/hをマーク。160GSは当時のVespaシリーズのフラッグシップモデルにふさわしいスペックを誇っていたのです。
しかしながら、160GSは1964年には生産を終了。1965年に排気量を大幅に拡大して登場する「180SS」が160GSからフラッグシップモデルとしての役割を引き継ぎ、その後の「Rally 180」へと繋がっていきます。
ただ、160GSをはじめとするヴィンテージVespaの人気は相当なもので、近年では市場価格も急騰しています。例えば、映画『ローマの休日』にも登場したフェンダーライトモデル(※フロントフェンダー上にヘッドライトを搭載するモデル)ともなると、年式や程度にもよりますが、日本円で1000万円以上のプライスタグが掲げられることも……。現代的な感覚では日常使いするのも難しいモデルですが、クラシックカーと同じように一部では投機の対象となる骨董品として売買が行われているため、いまではコレクター向けのアイテムとなっています。
今回ご紹介した160GSも日本国内で流通する個体はそう多くはありませんし、ヴィンテージVespaとしての価値は今後ますます高まっていくことには間違いありません。
撮影協力/Goro Seto(車輌オーナー)