トライアルバイクメーカー「TRS Motorcycles」の工場見学をしたよ! 後編

スペインへ語学留学中のバイクタレント兼こうのす観光大使・岸田彩美さんが、スペインのトライアルバイクメーカー「TRS Motorcycles」のマンレサ工場を訪れました。

TRSを率いるジョルディ・タレスさんに直撃インタビュー

 こんにちは。バイクタレントの岸田彩美です。今回は前回に引き続き、工場見学の後半です。今回はTRS Motorcycles(以下:TSR)を率いるジョルディ・タレスさんにお話を聞いて来たので、そちらをご紹介したいと思います。

岸田彩美さんとTRS Motorcyclesの創業者ジョルディ・タレスさん
岸田彩美さんとTRS Motorcyclesの創業者ジョルディ・タレスさん

 まずトライアルを始めたきっかけから伺ったところ、タレスさんの兄がトライアルをしていたことや、近隣の方や友達がトライアル選手だったこともあり、13歳の時に始めたそうです。

 あまりお金が無かったから、最初は自転車で始めて自転車のヨーロッパ選手権に出場し、その後トライアルを開始。タレスさん曰く、少しの時間だけでバイクに乗れるようになったらしいです。

 TRSでも自転車を売っているのは、「子供達もTRSが欲しいという夢があるからだけど、メインはトライアルバイクだし、自転車は本当に少しだけだよ」とのこと。

 タレスさんが引退したのは31歳の時。現在での感覚で思うと早い年齢での引退だと感じますが、当時は普通だったそうです。選手として戦い、経験するのと同時に、メカニックやバイクデザインを学ぶのも好きだったそうですが、引退した後は何をするかわからなかったといいます。

 スペイン発祥のメーカー「GASGAS」でライダーのトレーナーを行う傍ら「いつか自分の名前が入ったバイクが作りたいという夢があって、そのバイクで競い合いたい」と考えるようになり、少しずつ準備をしていたそうです。ですが「夢はとても難しい。たくさんのお金とリスクがあるからね」と話します。
 
 2016年の日本GPで、TRSに乗るライダー、アダム・ラガ選手が優勝した時は涙が出たそうですが、まだ会社として若いけれど(2013年設立)どんどんお客さんが信頼してくれるようになっていることは嬉しいと語っていました。

2013年に設立されたTRS Motorcycles。2016年の日本GPで優勝を果たしています
2013年に設立されたTRS Motorcycles。2016年の日本GPで優勝を果たしています

 トライアル市場は入れ替わりが早いようで、スピード感が求められるそうです。基本的には11月にイタリア・ミラノで開催されるバイクの見本市「EICMA」で発表し、新しいモデルを毎年6種発売するそうです。各モデルが発売された直後が一番売れ、夏は落ち着くのが通常だそうですが、コロナ禍になってからは常に好調だそうで、2021年全体で40パーセント増、2022年はすでに40パーセント増しとのことでした。人と会わずにスポーツをしたい人が増えたのかなと仰っていました。

 TRSでタレスさんは、バイクの修正を行う時(開発時など)一番最初にタレスさんが行い、その後ライダーが乗って、挙動などを確認したりするそうです。

 世界各国にある販売代理人からの注文による見積もりや、パーツなどの保証関係も全て目を通して確認しているそうです。新しいことがある毎日がとても楽しいと仰っていました。タレスさんにとって大切なことは好きなことをやることだから、この仕事が大好きだとも言います。

 また、タレスさんにトライアルの魅力を訪ねてみると次のように話ます。

「一つ目は危険が少ない事。スピードが出ている状態で転んだら骨が折れてしまうよね。でもトライアルはスピードを出さないから転倒しても怪我が少ない。気軽に練習出来るし、少しのリスクで楽しめる事かなとのこと(月曜日は仕事にも行けるよね)。

 2つ目はいろんな可能性を秘めていること。 小さな石をバイクで登ると言っても、とっても難しい。人々には小さいバイクだから簡単そうに見えるけど、実はとても難しくてテクニックが必要だし、何時間も練習しないと出来ない。トライアルはコントロールが全てだから。

 だから少しの危険と色んな場所で乗れて練習ができることかな。あと小さい子供から75歳の大人まで乗れるし、友達と一緒に練習したり、山奥で人と接触せずに乗ることもできる。戦うのはバイクと自分の精神だから。落ち着いて乗れるのが魅力だよね」。

子供向けの電動バイクも製造するTRS Motorcycles
子供向けの電動バイクも製造するTRS Motorcycles

 ちなみに、TRSで発売している電動バイクが、なぜ子供向けだけなのか訪ねたところ、「音もなく、やけどの心配もないし、出力量も調整出来るから家の庭で練習ができる。子供たちは最初は電動バイクから乗り始めるのがいい」とのことです。

 ただ「大人向けのもっと出力量の大きい電動トライアルバイクとなると値段も高くなっちゃうし出力もいまいちになってしまうよね」と言います。

 そこで、車やバイクがどんどんが電動化するけどどう思うか尋ねてみたところ、以下のように話します。

「将来の事はわからないけど 色んな問題があるよね。チャージがどこでもできるのか、バッテリー価格も高い。もしバッテリーが壊れたらもっとお金がかかるよね 自然環境のために汚染を減らす目的だと思うが、電動でも電力が必要になるけどねと。また、トライアル世界選手権にも電動クラスがあるけど、今のところ参戦は考えいません」。

 実はタレスさん、少し日本語を知っていたのでなぜ日本が好きなのか聞いてみると、とある日本人男性(トライアルファンの一人)にタレスさんが16歳の時にイタリアで出会ったそうで、当時タレスさんは日本に住みたかったらしいです。

 ただ世界戦と同じタイミングで日本の国内戦もあるから、実現は出来なかったらしく、たくさんの可能性があるから、毎年日本に行っていたそうです。初めて日本に行った時は17日滞在し、英語も日本語も話せず 右も左もわからなかったけど、日本人はとってもいい人たちだよねと言っていました。今年も世界選手権日本グランプリが中止になってしまったことを残念がっていました。ちなみにタレスさんは、カタルーニャ語・スペイン語・英語・フランス語・イタリア語も話せるんです。

アパレルも自社でデザインするTRS Motorcycles
アパレルも自社でデザインするTRS Motorcycles

 更に新しいバイクが生み出されるデザイン室も見せていただき、ハンドメイドでバイクデザインやパーツの設計をしていました。またウエアやヘルメットにいたるまでのデザインもここで行われています。

 アパレル関係は、別の会社に委託しているのかと思っていたのですが、ブランドイメージが統一されていたので納得しました。特別に私もグッズ、いただいてしまいました! ブランドカラーの黄色が素敵です。

 最後に今後の目標を聞いてみました。

「もちろん、トライアル世界選手権のGPクラスで、TRSの車両で優勝すること。とても難しいけど夢。でも一番大切なことは、TRSが人々に良いイメージを持ってもらえること。いいバイクだよねって思ってもらえることが今後の夢だね」

タレスさんとタンデムツーリングを楽しむ岸田彩美さん
タレスさんとタンデムツーリングを楽しむ岸田彩美さん

 後日タレスさんにタンデムでツーリングに連れて行ってもらい、ご自宅にあるトロフィーやマシンが飾られたミュージムも見せていただきました。ものすごい数がありましたよ。。

トロフィーやマシンが飾られ垂タレスさんのミュージアム
トロフィーやマシンが飾られ垂タレスさんのミュージアム

 タレスさんの優しさと、トライアルに対する情熱、夢。すべてが私にとって刺激になりました。一つの事をコツコツと成し遂げてきたからこそ、現在に繋がっているのでしょうし、計り知れない苦労や壁があったと思いますが、それを感じさせずに常に前向きで明るい姿勢のタレスさんを見て、私ももっと頑張らなくてはと思いました。

 ただトライアルが好き! という理由で、快く工場見学やお話を聞いてくださったタレスさんの懐の広さに感謝しつつ、今後も精いっぱい応援していきます。十人十色の考えや生き方があるから、話を聞けるのって最高に楽しいですね。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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Writer: 岸田彩美

食べる事とインコが大好き。愛称:あやみん。2011年駒澤大学準ミスグランプリを取得後、ツインリンクもてぎのイメージガール、ツインリンクもてぎエンジェルを務めた。任期中に様々なバイクの楽しみ方に出会いその魅力に心を奪われた。トライアルデモンストレーション、MotoGP 日本グランプリでステージMCなどバイクのイベント出演や司会も務める。

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