納得感薄い国交省が明かしたバイクと軽四輪の料金が同じ理由 バイク料金独立はライダーへの朗報となるか?
日本に高速道路が作られて約60年。バイクは常に四輪車と同じ料金です。現行では「軽自動車等」の車種区分に含まれている理由を、国土交通省高速道路課が説明しました。バイクの車種区分の独立も視野に入れた議論の判断材料のひとつとするためですが、今もこの料金制度にある利用者にとっては割り切れなさが残ります。
見えない「車間距離」が、バイク通行料金を押し上げていた
2025年1月15日の国土幹線道路部会に、国土交通省高速道路課が、現行の高速道路料金の考え方を参考資料として示しました。部会では、バイク車種区分の設立を含めた新たな高速道路料金が、初めてテーマになります。
従来の高速道路料金は、「占有者」、「原因者」、「受益者」の負担の考え方で、「車種間の不公平感を踏まえて車種区分を細分化」している、と高速道路課は話します。
約30年前にNEXCO系高速道路で5車種区分となった最も大きな理由が、バイク独自の「占有者」負担の考え方でした。高速道路の利用で1台の車両が占める面積と実勢速度の平均値に基づいて負担率を算出するのですが、バイクには四輪車には無い“上げ底”的なデータが用いられていたのです。
車両が占める面積は、メーカーが示す諸元から「全長」、「全幅」、「重量」で明らかになります。バイクユーザーは、この点で、「どの車種よりも小さく軽い車両がバイクではないか。それに応じた料金体系にすべきだ」と主張してきました。
しかし、高速道路課が明らかにした算出方法では、バイクには前後50cm、合計で1mの見えない「車間距離」が上乗せされていました。
例えば、全長2.2mの大型バイクでも、料金算定段階では3.2mのさらに大きな車両と考えられていたのです。
一方、四輪車には「車間距離」という考え方は当初からありませんでした。全長3.3mの車両は、そのまま3.3mの車両と考えて料金が算定されていました。
面積を出すためには全長と全幅が必要ですが、料金算出の考え方では、全幅は大型トラックもバイクも、車種に関係なく同じ「車線幅=車幅」と考えられています。これは2台の車両が同一車線内で並走することはないためです。
今も続く料金算定の考え方の違和感は、「車間距離」という不思議なイメージを付け加えることで、軽四輪もバイクも1台の車両が占める面積は同じであると結論付けたことです。
業界団体は毎年、料金区分見直しの要望を続けていますが、バイクユーザーに対して「車間距離」という算出根拠について、明確に説明を受けたことはない、という認識です。
ABSが義務化されて、「車間距離」は不要になった!?
2025年からの議論で、国交省高速道路課はこの「車間距離」を考慮しないことを明言しました。1mという長さからもわかるように、一般で知られる「空走距離+制動距離」の合計ではありません。
当時の議論について、高速道路課が掘り起こしています。通行料金の算出では、次の2つの距離が合計されていました。
「自動二輪は、事故発生時の被害が大きくなる懸念から、車間距離をより広く確保する傾向にあると推定」
「また、後続車も、自動二輪が転倒したときのリスクへの懸念から、車間距離をより広く確保する傾向にあると推定」
見えない「車間距離」を1mとした根拠については、今回の資料では示されませんでした。1988年の議論当時、1mが適当であることを判断した根拠には関心が集まっています。
一方、2025年の議論で「車間距離」という考え方を取り入れなかった理由についても、ユーザー視点での納得感は得られているとは言い難いものです。
高速道路課は二輪車の安全対策が進んだから、見えない「車間距離」は、今回の議論から除外すると説明します。安全対策とは、2018年に義務化されたバイクのABSの搭載についてです。
確かに、ABS搭載車の停止距離は非搭載車より(状況により)短くなりますが、速度に応じた「見える車間距離」は、ABS搭載によらず同じである必要があります。
四輪車のユーザーも疑問を持っています。四輪車のABSは2013年から義務化が始まりました。高速道路料金の再考を求める自動車関係者は、次のように話します。
「四輪車では衝突安全軽減ブレーキなどの新たな安全対策が進んでいる。バイクABS搭載の義務化が考慮されるなら、四輪車の安全装備の進化についても将来的には考慮されるべきという議論になるが効果検証は難しい。だから、算出条件の取捨選択は恣意的に料金を定めているとユーザーから思われかねない。シンプルな考え方でもっとわかりやすい料金算出方法を取り入れるべきだ」
なぜか「バイクが大きくなる」高速道路課の諸元
車両の諸元は、通行料金の算出結果に大きな影響を与えていますが、高速道路課が資料で示すバイクの諸元は、当時と大きく変わっています。「バイクが成長している」のです。
<2024年/1988年比較>
全幅=0.79m/0.78m
全長=2.15m/2.10m
全高=1.66m/1.59m
車重=320kg/200kg
※出典=高速道路料金の車種区分について(補足資料1)
例えば、ホンダ「CB1300 SUPER FOUR」は全長2.2m、全幅0.79m、車重266kgです。白バイでも採用され、大型のバイクとして知られています。
資料のタイトルには「諸元の変化」とあり、特定のモデルに限定したのか、平均値なのか、根拠は示されていませんが、かなり大型の諸元に寄っています。特に、幅や長さの増加率と比較して、車重が30%以上も増えているのは不自然ではないでしょうか。
過積載の取り締まりでわかるように、車重は道路の損傷に最も大きな影響を与えるとされています。そのため車重が増えることは直接的に通行料金の算出結果に影響します。
二輪車関係者は、バイクの車種区分の設定を歓迎しながらも、懸念を払しょくできないでいます。
「バイクはタイヤが二輪で、四輪車のような駆動系やボディもない。車格に応じた通行料金体系を求めて、普通車に対して0.5の負担割合であるべきと訴えてきた。車種区分の見直しで、ほかの車種に負担を求めるべきという議論になるとすれば本末転倒だ」
5車種区分から30年。ETCサービス開始から20年。新たな議論は、ETCデータを活用した目に見える議論が必要ですが、部会に提出されるデータは、30年前とさほど変わらない手法で収集されています。
現行では車検証と同じ情報が搭載されているETC車載器情報は取得できないことになっています。通行する車種区分はわかっても、モデル名まではわかりません。前提条件のあるアナログなデータ収集のまま将来の車種区分を議論することになるのです。
高速道路課も次のように話します。
「現在のETCのシステムには詳細な情報を把握する仕組みがないため、実現にはシステム改修が必要」
今回、車種区分見直しでバイクについてもようやくテーマになりました。国土幹線道路部会ではバイクを含めて13車種区分で通行料金を算出します。並行して部会は関係団体からのヒアリングを行う予定です。
その結果をもとに、新たな車種区分を考える方向です。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。