自転車の利便性を飛躍的に向上させた隠れた装置「フリーホイール」とは?

老若男女を問わず誰もが気軽で自由に扱うことができる自転車ですが、その利便性を支えているのに意外と認識されていない装置が組み込まれていることをご存じでしょうか?

旧時代と現代を分ける、エポックメイキング

 自転車が誕生しておよそ200年。老若男女を問わず誰もが気軽で自由に扱うことができる乗りものですが、その利便性を支えている装置が組み込まれていることをご存じでしょうか? それが無ければ思うように自転車に乗れない人が続出し、もっと自転車の事故が頻発するようになっていたかもしれない装置が「フリーホイール」です。

後輪のハブ軸の内部に組み込まれている「フリーホイール」
後輪のハブ軸の内部に組み込まれている「フリーホイール」

 自転車の起源については諸説ありますが、1813年にドイツのカール・フォン・ドライスが子供のおもちゃだった木製の車輪つき木馬に、舵を切れるハンドルを取り付けた足蹴り式の2輪車「ドライジーネ」がはじまりだと言われています。

 その後、1839年にスコットランドの鍛冶屋であるカークパトリック・マクミランが、蒸気機関車と同じ要領である梃(てこ)の原理で車輪を回すペダルを付けた「ベロシペード」を発明。

 それを発展させて、1863年にフランスのピエール・ラルマンが前輪にペダルとクランクを取り付けた、いまで言うところの幼児が乗る3輪車と同じ駆動方式を採用した自転車を誕生させます。

 この駆動方式を利用した2輪車は、フランスのミショー親子の量産化などによって世間に知られていくことになります。

 ただ、前輪に直接ペダルとクランクを取り付けた3輪車方式では、ペダル1回転で前輪が1回転するため、より速く走るためには、前輪の直径を大きくしなければなりません。

 そこで、1870年頃になると「昔の自転車の写真」などでよく見かける、前輪が極端に大きい「オーディナリー」という自転車が誕生します。確かに速く走れるようになったのですが、前輪が大きくなるのに合わせて車高も高くなり、誰でも安全に乗れるという訳ではありませんでした。

 どんどん大きくなるオーディナリーの前輪を横目に、1879年にイギリスのハリー・ジョン・ローソンが、現代の自転車に通じる前ギアと後ギアをチェーンで結ぶ駆動方法を発明します。

 その後、1885年にジョン・ケンブ・スタンレーがこの駆動方法を採用した「ローバー型安全自転車」を発売します。「セーフティバイシクル」とも呼ばれるこのタイプの自転車が、現在の自転車の原型となりました。

 さて、ここで問題です。「セーフティバイシクル」と現代の私たちが一般的に使っている自転車で、決定的に違う点はどこにあるでしょうか?

 答えは……「ペダル(クランク)と車輪の動きが完全に連動している」という点です。つまり、旧時代の自転車はペダルを前に回せば前進し、後ろに回せば後進する状態です。

 現代でも軽量化が必要な競輪用やピストバイクと言われる自転車ではその仕組みを採用していますが、タイヤが回ればペダルも回るので、坂道を下るときはペダルが回転し続けてしまうし、走行中に足を止めてしまうと急ブレーキがかかって転倒してしまうなどの危険を伴います。

 この困りごとを解決してくれたのが、1890年代に入って実用化された「フリーホイール」という装置です。

「フリーホイール」は、一方向だけに回転して反対には回らないラチェット機構を利用し、ペダル(クランク)と車輪の動きを不要な時に切り離すことができる装置で、ペダルの回転を止めても車輪だけが回り続けることを実現しました。

 一般的には後輪のギアの内部に格納されているので滅多に見ることのできない部品ですが、この装置のおかげで自転車は安心して運転することができるようになり、誰もが利用できる乗りものになったと言えます。

 ちなみに、釣り具などでも知られる自転車部品メーカーの株式会社シマノですが、明治時代に前身の島野鐵工所が最初に手掛けた製品が「フリーホイール」です。

 当時は海外からの輸入品が一般的でしたが、創業者の島野庄三郎が研究と改善を重ねた結果、世界に通用する装置を完成させました。そこからシマノは大いに飛躍し、現在ではスポーツ自転車部品の世界最大手です。

 気が付かなければ一生知る機会がないかもしれない自転車の「フリーホイール」ですが、この部品が自転車の普及に大きな役割を果たしたことは間違いないでしょう。

【画像】コレが無かったら気軽に乗ることはできない?(4枚)

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