なぜ市販化できるのか? ロードスポーツを追求した超ド級のストリートバイク!! ドゥカティ「スーパーレッジェーラV4」とは

世界最高峰ロードレースで戦い続けるドゥカティは、その技術を市販車でも実現したいという思いから「スーパーレッジェーラ(=超軽量)」の名を持つスーパースポーツモデルを世に送り出しています。世界限定500台、価格1000万円超となる2020年型の「スーパーレッジェーラV4」を紐解きます。

あまりにも特別な仕様、市販化にこだわる理由とは

 ドゥカティジャパンの広報・マーケティングダイレクターを務める五条秀巳さんを指南役に迎えて「Superleggerra V4(スーパーレッジェーラ・ブイ・フォー)」の魅力を紐解きます。

ドゥカティ「スーパーレッジェーラV4」(2020年型)

 これまでパワーウェイトレシオやエアロダイナミクス、軽さについてお伝えしてきましたが、今回(最終回)はMotoGPレーサー同様となるメーターや、特別な付属部品、またスーパーレッジェーラV4が誕生した経緯をご紹介しましょう。

MotoGPレーサー気分が味わえる

 スーパーレッジェーラV4のコクピットに備わる、5インチTFTフルカラーディスプレイは、基本的に「パニガーレV4」のレギュラーモデルと共通で、ディスプレイを介して多種多様な電子制御のレベルが変更できることも同様です。ただし、レギュラーモデルに存在しない設定として、スーパーレッジェーラV4は、レーシングエグゾースト専用のマッピングをインストールすると、完全にサーキット仕様の画面を表示することが可能になります。

マッピングのインストールでサーキット専用の情報を表示する「RaceGP」メーターディスプレイが有効になる ※表示イメージ

 この画面の特徴は、上部に備わるタコメーターが極端にシンプルなことや、ギアポジションと周回数、ラップタイムと前周との差が大きく表示されること、電子制御のレベルがひと目でわかること、速度計が存在しないことなどで、基本構成は最新のMotoGPレーサー「デスモセディチGP20」に準じています。

 言ってみれば、アンドレア・ドヴィツィオーゾやダニーロ・ペトルッチ、ジャック・ミラー、フランセスコ・バニャイアたちと、同じ気分が共有できるわけで、こういった配慮は、ドゥカティのスペシャルモデルならではと言えるでしょう。

レーシングエグゾーストは付属しない

 オープンタイプのクラッチカバーやドゥカティデータアナライザー+GPS、レーシングフィラーキャップ、ブレーキレバーガード、バイクカバー、前後レーシングスタンドなど、スーパーレッジェーラV4にはさまざまなキットパーツが付属します。ただし残念ながら、イタリア本国ではキットパーツに含まれるアクラポビッチ製のレーシングエグゾーストは、日本仕様には付属していません。

日本ではレーシングキット付属ではなく、条件付きで提供されるアクラポヴィッチ製チタニウム・コンプリート・レーシング・エグゾースト

 五条さん(以下、敬称略)「レーシングエグゾーストに関しては、我々としては苦渋の判断でした。スーパーレッジェーラV4を購入してくださったお客様が、公道でレーシングエグゾーストを使用するとは思えませんが、法規に適応しない部品を車両とセットで販売することは、日本ではやっぱりコンプライアンス上の問題がありますからね。ただしサーキット専用車の証として、廃車証明書を取得したお客様には、レーシングエギゾーストを提供させていただきます」

 その事実をどう感じるかは人それぞれですが、スーパーレッジェーラV4が標準装備するサイレンサーは、型式認証を取得したアクラポビッチのチタン製で、パニガーレV4のレギュラーモデルとは一線を画する、ワイルドで抑揚に富んだ排気音が堪能できます。

 ちなみにドゥカティの純正アクセサリーパーツには、このサイレンサーと同様の製品が存在し、日本での価格は87万6513円です。価格が1000万円以上のバイクにとって、87万6513円は微々たるもの(?)かもしれませんが、これまでに紹介してきた数々の専用設計パーツと同様に、アクラポビッチのチタンサイレンサーも、スーパーレッジェーラV4の魅力を語るうえでは重要なパーツなのです。

ドゥカティならではのスタンス

 近年のリッタースーパースポーツの世界では、豪華な装備を導入した上級仕様を設定するのが通例で、多くのメーカーがスタンダードとは別に「SP」や「M」、「R」、「RR」といった車両を販売しています。もっともスーパーレッジェーラほど、すべての面で突出したモデルは存在しません。逆に考えるとなぜドゥカティは、他メーカーの上級仕様とは次元が異なる、スーパーレッジェーラのようなモデルが生み出せるのでしょうか?

 五条「その背景にはいろいろな事情がありますが、メーカーの規模があまり大きくはないことが理由のひとつだと思います。巨大なメーカーになると、誰かが“こういうモデルを作ろう!”と考えても、本格的な検討や試作が始まるまでに、かなりの時間がかかりますが、ドゥカティの場合は発想から決断までのプロセスが非常に早いんです。だからこそ、スーパーレッジェーラ・シリーズを含めて、新しいアイデアが具現化しやすいのでしょう。

 それに工場の製造ラインが、1台につき2人から3人の専任制であることも、少量生産車が作りやすい理由です。一般的なメーカーの製造ラインでは、担当者が持ち場をほとんど移動しないのに対して、ドゥカティでは製造ラインに沿って、同じメンバーが移動しながら作業を行います。だからスーパーレッジェーラのようなイレギュラーなモデルでも、通常の製造ラインがそのまま使えます。言ってみれば、他メーカーのイレギュラーなモデルで必須となる専用の製造ラインが、ドゥカティには必要ないのです。

2020年6月よりボルゴパニガーレ・ファクトリー(イタリア、ボローニャ)で生産が開始され、最初の1台が出荷された

 細かい話を先に話してしまいましたが、スーパーレッジェーラが生まれた一番の理由は“夢を形にしたい!”という造り手の情熱でしょう。

 MotoGPとスーパーバイクへの参戦を通して、夢を具現化するさまざまな手法を習得したドゥカティとしては、それを市販車として形にしたかったんです。その結果として、価格はかなりの高額になったのですが、圧倒的な軽さと速さ、クオリティの高さを知ったら、安易に高いとは言えない……と思います。

もちろんスーパーレッジェーラのようなモデルは、誰もが気軽に購入できるわけではありません。でも幸いなことに、ドゥカティユーザーの中にはこういうモデルを切望している方が大勢いらっしゃって、2014年、2017年に販売した1199/1299スーパーレッジェーラは完売しましたし、最新のスーパーレッジェーラV4も、すでにほとんどオーナーが決まっているんですよ」

※ ※ ※

 2014年以降、3年ごとに現れるスーパーレッジェーラという特別なモデルは、ドゥカティが持つエンジニアリング、ディテール、パフォーマンスへのこだわりと、モーターサイクル・デザインの限界を打ち破り、ドゥカティの最高傑作を創り上げる、という使命のもとに生み出されています。

 MotoGPで開発され、連綿と進化を続けるテクノロジーと専門知識は、モーターサイクルのエンジニアリングとパフォーマンスをこよなく愛するエンスージアストのために、常に市販モデルへとフィードバックされているのです。

【了】

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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