要望に応えて2スト新型登場!? ジャンプも豪快にキメられる!! ヤマハ「YZ125」試乗

「RZ」、「ガンマ」、「NSR」……1980年代から90年代のレーサーレプリカブームを知る世代なら、高回転高出力エンジンの代名詞として「2ストロークエンジン」を記憶している人は多いでしょう。公道向けの国産車では絶滅しましたが、市販競技車両では新型車が登場。青木タカオさんが試乗しました。

力強く扱いやすいから、ジャンプも安定して跳べる!!

 2ストロークエンジンなのに、トルクバンドがこんなにも広く、扱いやすいなんて! そして、中高回転域の伸びがなんとも気持ちがいい。パワーバンドでしっかり加速したら、あとはサオ立ちにならないようアクセルワークで車体姿勢を整えてテイクオフ!!

17年ぶりにフルモデルチェンジとなった2ストロークマシン、ヤマハ「YZ125」(2022年型)に試乗する筆者(青木タカオ)

 高回転がパワフルになりつつも低中回転域が力強いため、ピーキーさがなく、ジャンプの離陸でも安定姿勢が保ちやすい。久しぶりに乗った2サイクルマシンに、心の底から楽しめた筆者(青木タカオ)なのでした。

どっこい生きてた2スト

 発表するやいなや、年内の生産計画台数を上回るオーダーが入り、予約を一旦ストップ! 大反響で引っ張りだことなったヤマハ「SR400ファイナルエディション」のハナシ……ではありません。なんと、17年ぶりのフルモデルチェンジとなった新型「YZ125」(2022年型)です!

 その後、受注は再開しましたが、生産可能上限数に達した場合は再びオーダー終了の可能性もあるという、すさまじい人気ぶりとなっています。

 心臓部は、厳格化した環境規制によって国産ナンバー付き公道向けモデルでは絶滅危惧種になったはずの2ストロークエンジン。しかし、コンペティションモデルでは生き延び、ファンから根強く支持されていました。

 ヤマハでは、プロジェクトリーダー上村正毅さん(OV開発部YZグループ)を中心に新作パワーユニットの開発が進められ、満を持しての新型登場へ。競技車両とはいえ、新車の国産2ストマシンが買えるのですから、嬉しいかぎりです。ありえない夢物語かもしれませんが、公道向け「DT200WR」や「ランツァ」復活……なんてことも期待せずにはいられません。

渇望されていた新作エンジン

 気になって仕方がない最新(2022年型)の「YZ125」ですが、スポーツランドSUGOのインターナショナルモトクロスコース(宮城県柴田郡)で報道向け試乗会が開かれるというから、参加しない手はありません。

17年ぶりにフルモデルチェンジとなったヤマハの2ストロークマシン「YZ125」(2022年型)

 10代の頃から2スト125ccモトクロッサーを所有し続けていた筆者は、20代後半(正確には2000年)に4ストエンジンを搭載する「YZ250F」が登場すると新車で即購入。それ以来、「トラクション性能に優れる4サイクルエンジンはモトクロスでもベスト」と決め込んでいましたが、最近仲間たちからチラホラ聞いていたのが「ファンライドするなら車体が軽くて、エンジンをブン回して面白い2ストがいい」という声でした。

 そう教えてくれた友人もまた、2022年型「YZ125」が発表されると、すぐにモトショップ鷹(埼玉県川越市)にて注文。長年乗り続けた2013年式「YZ125」から、ついに乗り換えたのです。休日にモトクロスを楽しむライダーたちの間で、2ストの新型マシンが渇望されていたことは、こうした肌感覚でも薄々気付いていました。

 そんな筆者の身近なハナシだけではなく、欧米でも2スト125ccマシンは需要が高く、ライダーの育成にも必要不可欠とされていましたから、ヤマハは市場の要望に応えたというわけなのです。

全域トルクバンドで、疲れにくい

 乗ると、圧倒的な軽さを感じます。車体重量は100kgを下回る95kgです。シートはスリムかつフラットで、前後移動の妨げになりません。シート上面は前端をマイナス6mm、中央の凹み部をプラス5mmとし、より平滑な座面となりました。シュラウドの張り出しも従来型より7mm抑え、フィット感を向上しています。

どこからでも力強いパワーを発揮するエンジン特性は、ライダーの疲労軽減につながる

 アクセルをワイドオープンすれば、軽い車体が吹っ飛ぶように猛加速し、SUGOの大坂も何事もなかったかのように駆け上がります。傾斜角30度、高低差約35mの上り坂はこのコースの名物ですが、低いギアのまま引っ張り上げてもトップエンドでじわじわとパワーを絞り出してくれますし、坂の途中でシフトアップしてもトルクバンドが広く、余裕で上がっていけるのです。

 低中速域のトルクが太くなり、どこからでもレスポンスよく加速してくれるので、立体的なリズムセクションでフロントを谷間に落としたときや、タイトコーナーで速度を落としきってしまったときなども素早くリカバリーでき、いつでも速度回復できるという安心感が疲労度軽減にも大きく繋がります。

 前後サスペンションは4ストエンジンの「YZ250F」に近い減衰の効いたコシのあるセッティングが施され、ハイパワー化に対応した踏ん張りがしっかりと効く味付けです。コーナー進入でフロントブレーキを強くかけてもリアが暴れず、リバウンドが落ち着いてキックバックを受けません。それでいて低速ではしなやかに動いて、路面追従性も良好。トラクションを感じながら、コーナーでも積極的にアクセルを開けていけます。

エンジン全面新設計、その恩恵は大きい

 ピットに戻ると、「気持ち良さそうに跳んでいましたね」と、プロジェクトリーダーの上村さんが声をかけてくれます。エンジンが力強く、どんなときでも車体の姿勢をコントロールしやすいことを伝えると、技術的な進化ポイントをいろいろと教えてくれました。

プロジェクトリーダー上村正毅さん(OV開発部YZグループ)に話を伺う筆者(青木タカオ)

 完全新設計のエンジンは、ポートタイミングとポート通路形状を最適化したアルミメッキシリンダーをはじめ、燃焼室形状やピストン、コネクティングロッドといったムービングパーツも新作。吸気をより直線的にするべく、エアインテークをシート後部に設け、後方からのみ吸気することで効率を高めるなどしています。

 トランスミッションは強化され、シフトフィーリングをよりスムーズに。チャンバーは排気脈動が効果的に活かせるよう径を最適化し、サイレンサーを50mm短縮。キャブレターは回転数やスロットル開度に応じて点火制御するケイヒンPWK38を新採用しました。

 また、パワーデリバリーをよりスムーズにしているのは、リードバルブにMoto Tassinari社製の「V-FORCE4」を用いたことや、バルブ位置や形状を見直す進化を遂げたYPVS(ヤマハパワーバルブシステム)によるところも大きい。

 上村さんらYZ開発チームが万全を期してリリース。完全新作の2ストエンジンを味わい尽くせる新型「YZ125」は、新たな趣味にモトクロスを加えるキッカケになりそうですし、もういちどオフロードを楽しみたいという人にもオススメしたいです。

【了】

【画像】ヤマハの2ストモトクロッサー「YZ125」(2022年型)を見る(17枚)

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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