自転車の「ギアチェンジ」 ペダルを漕ぐ(回す)力が軽くなったり重くなったりする理由とは?
自転車で上り坂や平坦路を走る際に、「ギアチェンジ」することでペダルが軽くなったり、速度を上げやすくなります。そこにはシンプルで面白い物理の原理が隠れています。
ギアチェンジは「最も効率よく身体を使うため」
自転車に乗り慣れてくると、上り坂の手前でギアを軽くしたり、平地でスピードを出したいときに重いギアに入れたりと、自然と「ギアチェンジ」をするようになります。
「重いギアは速く進めるけど疲れる」「軽いギアは楽だけど進まない」というのは体感として分かりますが、ギアを変えると自転車の中で何が変わっているのでしょうか。
そこには「てこの原理」が関わっています。シーソーをイメージすると、支える点(支点)から遠い場所に力をかける(力点)ほど、少ない力でも重いものを持ち上げることができます(作用点)。逆に支点に近い場所に力をかけると、同じ重さのものを持ち上げるためには、より大きな力が必要になります。
「小さな力でも、支点から遠い場所に力をかければ大きな力が生まれる」という原理は、自転車のペダルを踏む動作にも深く関わっています。ただし、自転車のペダルはシーソーのように直線的に動くのではなく、ぐるぐると回転します。そのため、自転車を語る上では「回転する力」、つまり「トルク」という考え方が重要になってきます。
トルクとは、物体を回転させるための「回転軸にかかる回す力」のことです。難しく聞こえますが、身近な例で考えると、ドアを開けるときを思い浮かべるといいかもしれません。ドアノブではなく、蝶番(ちょうつがい)を中心にした回転です。
取っ手(ドアの端)を持って押すと軽く開きますが、蝶番の近くを押すと、とても重く感じます。これはトルクの大きさが違うからです。回転の中心(蝶番)から遠い場所に力をかけるほど、大きなトルクが生まれます。
自転車のペダルも同様で、踏み込む力が加わる場所から、クランク(ペダルと歯車をつなぐ腕の部分)の回転中心までの距離が長いほど、大きなトルクが生まれます。これが自転車のクランクが一定の長さを持っている理由のひとつです。短過ぎると十分なトルクが生まれず、長過ぎると回転させるのが大変になるため、人間の体に合った長さに設計されています。

ペダルを踏むことでクランクが回転し、トルクが生まれます。このトルクはチェーンを通じて後輪のギアへ伝わり、車輪を回します。ここで重要になるのが、ペダル側のギア(フロントギア)と後輪側のギア(リアギア)の歯の数の比率、つまり「ギア比」です。
例えば、ペダル側のギアの歯数が40、後輪側のギアの歯数が20だった場合、ペダルが1回転するたびに後輪は2回転します。これを「ギア比2」と言います。逆に後輪側のギアの歯数が10だった場合、ペダル1回転で後輪は4回転し、「ギア比4」です。
後輪がたくさん回転するということは、ペダル1回転で進む距離が長くなる、つまり走行速度が上がるということです。しかし、それと引き換えにペダルを踏み込むために必要な力も大きくなります。逆に後輪の回転数が少ない場合は、ペダル1回転で進む距離は短くなりますが、少ない力でペダルを回すことができます。
「速く進みたいなら大きな力が必要」「楽に漕ぎたいなら進みは遅くなる」。ギアチェンジとは、この「スピード」と「力」のバランスを、自分の体力や路面の状況に合わせて調整することなのです。
ちなみに、人間の筋肉には最も効率よく力を発揮できる「ちょうどいいペダルの回転数」があります。これを「ケイデンス」と呼び、初心者や日常的に運動していない人には、一般的に1分間に65~80回転程度が最も効率が良いとされています。
速く走ろうとして重いギアにすれば、1回転あたりの力は大きくなり、回転数が落ちてしまいます。逆に軽いギアにすると、力はいらないけれどペダルがくるくると空回りするような感覚になり、やはり効率が下がります。
つまりギアチェンジとは、単に「楽をするため」や「速く走るため」だけではなく、坂道でも平地でも、常にこの「ちょうどいい回転数」を保ち、体を最も効率よく使い続けるための調整でもあるのです。
プロのロードレーサーがくるくると軽やかにペダルを回しながら坂道を登っていくのは、重いギアで力任せに踏むよりも、軽いギアで回転数を維持した方が、体への負担が少なく長く力を出し続けられるからです。
なお、プロのなかにはとんでもない坂を「マジか!?」と思わずツッコんでしまうほどの重いギアで登っていく怪物もいますが、あれはかなり特殊な例です。
何気なくこなしていたギアチェンジの裏側に、トルク、ギア比、ケイデンスといった物理の原理が隠れています。自分の身体と自転車が協力して物理の原理を活用していることを、ちょっとだけ意識してみると面白いかもしれません。





