34歳で2輪免許を取得したトップライダーに憧れる ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.108~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、スーパーバイク世界選手権6連覇中のジョナサン・レイ選手がスゴイと言います。どういうことなのでしょうか?
運転免許が無いと、競技に参加できなかったもので……
カワサキ(KRT)のエースライダーであるジョナサン・レイ選手が、ようやく2輪の運転免許を取得したという……そのニュースを聞いて驚いた。ジョナサン・レイ選手の名は、バイク無頓着の僕(筆者:木下隆之)だって耳にしたことがある。

ちょっと調べてみると、その経歴がぶっ飛んでいる。北アイルランド出身の彼は2015年にカワサキ・レーシング・チーム(KRT)に移籍、スーパーバイク世界選手権(SBK)で6年連続の王者に輝いているというから天才だ。2021年で34歳、レジェンドにして現役最速なのである。
だが、驚いたのはそこだけではない。彼の地では、公道走行可能な運転免許がなくともレースに参戦できること、である。
僕ら日本のレーシングドライバーは(ライダーも同様であろう)、運転免許を取得しなければレースに参戦できない。最近では特待生的な例外もあるが、少なくとも僕らの時代は、18歳になって免許を取得してからノコノコと競技ライセンスを取得、まずは国内B級ライセンスを手にしてからレースの道に進むというひとつひとつ階段を登るようなプロセスを経なければならなかった。
運転免許がなければ、サーキットライセンスも取得できない。つまり、若さという武器に陰りが見えてきたあたりからレーサーへの扉を開くという、遅咲きを生み出すようなシステムなのである。
それを嫌って、子供でも走行可能なカートから育つドライバーも少なくない、というより18歳になって初めてハンドルを握るのでは手遅れ。小学生時代ですでにドリフトを華麗にこなせなければ、レーシングドライバーとしての将来は怪しいのである。
僕の全日本初優勝は29歳だった。翌日のスポーツ紙には“華やか”な見出しが踊った。
「遅咲き木下、全日本初優勝」
と言ったって、レースデビューしたのが23歳であり、個人的にはトントン拍子で全日本制覇までたどり着いたと自負しているのだが、それもこれも、18歳にならなければ運転免許が取得できず、つまり競技ライセンスを手にできないことの弊害である。

ちなみに、運転免許取り消しはもちろんのこと、停止処分中にはレースに出場できない。レース前に運転免許証ほか競技ライセンスの所持が確認されるのである。それがどれほどの意味があるのか? まったく想像ができないが、とりあえずそういうことになっている。だから日本のレースは遅れているのだ……という話はまた別の機会にでも、ということでジョナサン・レイに憧れてしまうのである。
しかしジョナサン・レイ選手は、これまで公道を走りたいと考えたことはないのだろうか? バイクでレースをしているから、忙しくてお遊びツーリングどころではないのかもしれないが、34歳まで公道を走ったことがなかったことにもまた、驚いてしまう。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。






