46ワークスのBMWレーサーに見る 機能を追求したマシンに宿る美しさ

サーキットを走行するため機能を追求したレーシングマシンとストリートを走るカスタムバイク。そこにはどのような関連性があるのでしょうか。BMW MotorradのR75でレースに参戦する46ワークスの中嶋志朗氏に伺ってみました。

レーサーとカスタムバイク、その関係性に迫る

 パワーやトルク、コーナリング性能などを追求した「レーシングマシン」に自然な形で宿るクールさ……それを端的な一言で表現すると『機能美』といえるのですが、ストリートを走るべくして生み出された「カスタムマシン」にも同じような法則は該当します。

2005年からスタートしたレース活動でも2007年のMCFAJ主催の『MAX10』を皮切りに数々の勝利を重ねる46ワークスの中嶋志朗氏。このマシンとほぼ同仕様のエンジンを搭載した『R80』では筑波サーキット1分7秒台のラップタイムを記録することからもお分かりのとおり、ライダーとしてのスキルもかなりのもの。現在はR75/5レーサーでクラシックレースの「L.O.C.(レジェンド・オブ・クラシック)」に参戦中です

 たとえば装飾性が強いと思われがちな、アメリカを代表するカスタムスタイルである『チョッパー』にしても、元を辿ればレーシングマシンである『ボバー』がその源流。このように『機能』が追求され、生み出されたマシンは時代を超えても廃れない魅力を持つことも『バイクを改造する』行為において共通する法則でしょう。

 2001年に東京の西東京市で複数人の共同出資という形で『リトモセレーノ』を設立し、2014年からは山梨県、八ヶ岳南麓に移住し、自らの工房である『46(ヨンロク)ワークス』を設立した中嶋志朗氏。ここに紹介する1台は、その彼がMCFAJで開催されるクラシックレースであるL.O.C.(レジェンド・オブ・クラシック)の『ヘビーウェイト・オープンクラス』にエントリーするレーサーなのですが、中嶋氏曰く「そもそもはカスタム・バイク造りの答え合わせとして」レース活動を始めたとのことです。

2001年、26歳の時に共同出資という形で西東京市で『リトモセレーノ』を設立し、数々のカスタムを製作。2014年からは自らの創作活動を行う工房的なショップ、『46(ヨンロク)ワークス』を八ヶ岳南麓に設立し、カスタムバイクやクラッシックカーのパーツ製作など「自分の好きなこと」を中心に活動する中嶋志朗氏。現在、同店のYouTubeチャンネルは登録者14万7000人を数え、このレーサーの走行動画やカスタムの製作動画などを配信中。2014年にメーカーのBMWが主催する『RnineTカスタムプロジェクト』にも選出されたことからもお分かりのとおり、国内外から高い評価を受けるビルダーです

「最初はカスタムバイクを造る答え合わせ的な意味を求めて、サーキットを走り始めたんです。公道だとカスタムしたところのイイも悪いも分からないんですが、サーキットだとちゃんとテストが出来るので。もともとカフェレーサーというか機能を追求したカスタムが好きだったんです。

 でも最初にリトモ・セレーノを始めた頃はBMWのカフェレーサーは売れないと思っていたんですね。なので最初は中型免許の若い人たちでも乗れるお洒落なバイク、ということでアメリカからビンテージ・オフローダーを輸入したりしていたんですが、ああいう車両は車体もパーツもないんで(苦笑)。ましてや日本ではアメリカのように『現状』っていう感じでバイクを売ることも出来ない。再生するにはカネも時間もかかるんで、最初の3年間はかなり赤字も膨らんでしまったんです。
 
 正直、店を辞めようか、どうしようか迷っている時に“だったら最後に自分の好きなバイクをやるか”ってなって自分のレーサーと同じような仕様のBMWのR75のカスタムを造ったんです。それが雑誌などで取り上げられて話題になることで上手くいったんですよね。“あ、BMWでもイケるんだ”ってなって。
 
 若者の評判も良かったし、BMWだと旧いモデルでもパーツが手に入るし、キッチリと直せるんです。それでもう少し高年式の1本サスのモデルを仕入れて、コンプリートのカスタムを売り出したら思いのほかヒットして。好きなことを最初にやっておけば良かったんでしょうけど、色々と勉強になりましたよ」。

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 こうした言葉のとおり、中嶋志朗氏が手掛けたレーサーは現在の『46ワークス』の礎を築いたといっても過言ではない存在といえるものなのですが、機能を追求した車両ならではの美しさと、創り手の「好き」という気持ちがヒシヒシと伝わる佇まいとなっています。

心臓部に抱くボクサーツインが起因して、あたかもレシプロの戦闘機のようなムードをまとう46ワークスのBMW R75/5。レーサーとしての出来はもちろん、1台のカスタムとして見ても高いクオリティが与えられています。オリジナルのカウルとテールカウルのサイズ感、デザインも絶妙です。前後のRKエキセル製アルミリム・スポークホイールは18インチが選択されています

 1970年式BMW・R75/5をベースにしたボクサーツイン・エンジンはハイコンプピストンを組み込み、排気量を750ccから1000ccへスープアップしていますが、燃焼室加工やポートの拡大、ビッグバルブ化した上で純正スポーツカムやケーヒンCRキャブレターを装着することによって後軸で80馬力を発揮。

 これはエンジン出力に換算すると100馬力程度なのですが、今から半世紀前に生産されたモデルであることが信じがたいパフォーマンスを獲得するに至っています。ちなみにノーマルのR75/5のスペックがエンジン出力50馬力ということを考えるとかなりのパワーアップです。
 
 また足まわりにしても1972年まで生産されたモデルで競われるレースである「L.O.C.(レジェンド・オブ・クラシック)」のレギュレーションに沿った上で強化されたものとなっており、フロント周りは国産車から流用したトリプルツリーと35φフォークが装着されているのですが、フォークの内部は46ワークス・オリジナルのスプリングに変更した上でダンパーを加工。リアにはオーリンズ製サスを装着し、高いコーナリング性能を発揮するに至っているのですが無論、こうしたノウハウはストリートを走るカスタムバイクにも活かされているとのことです。
 
 実際、車両を見ても46ワークス製のフェアリングやテールカウルのバランスは秀逸なものとなっており、確かに中嶋志朗氏が生み出すストリート・カフェレーサーと共通するスタイル。純粋に走りを求めたレーサーでも、どこかカスタムバイクに通じる美しさを感じさせるフィニッシュとなっている点は見事です。

 ちなみにこのマシンは筑波サーキットや富士スピードウェイで開催されるレース「L.O.C.(レジェンド・オブ・クラシック)」はもとより、昨年に広島県広島市中区の『パセーラ広島』で開催された『CUSTOM WORLD JAPAN in HIROSHIMA』にも展示され、日本のトップビルダーたちが製作した極上の『カスタム』の中でも遜色ない完成度を示していたのですが、これは「機能を追求したマシンに宿る美しさ」を如実に証明していたといえるでしょう。

こうしたことを踏まえて考えても、中嶋志朗氏が語る「カスタムの答え合わせとしてのレース参戦」は正解のような気がします。

 46ワークスによるBMWレーサー、改めて写真で見ても1台の『カスタム』として極上です。

【了】

【画像】46ワークスによるR75/5レーサーの画像を見る(11枚)

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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