原付二種の電動バイクTROMOX 「UKKO S」 気を張らずに感じる、純粋にバイクで走る喜び
ちょうどよいサイズ感を持ち、さらに走っていて高揚感を感じる電動バイクに出会いました。TROMOX UKKO Sは「また乗りたい、次はどう走らせよう」そんな風に思えるバイクでした。
安定感のある走りを実現
走り始めてすぐ、口角が上がるのがわかりました。そうして「こういう走りをしたらどうだろう」と、様々なトライをしたくなります。TROMOX「UKKO S」はそのくらい、面白いバイクだったからです。
UKKO Sは中国に拠点を置く電動ブランドであるTROMOXの原付二種の電動バイク。昨年のEICMA2021(イタリア・ミラノで開催されたバイク見本市)で公開され、日本へは2022年に電動バイクを輸入、販売するMSソリューションズの電動バイクブランド「XEAM」のラインアップに加わりました。
特筆すべきはその安定性と、走りの一体感です。TROMOXの電動バイクはセンターモーターであり、電動バイクにおいて重さのあるバッテリーだけではなく、モーターが中央に配置されていることになります。重心がほぼ中央に集まっていることで、特に車体を傾けたときの車体との一体感がとても感じられるのです。
電動バイクはコンポーネント(車体構成)が内燃機関とは異なります。今回の試乗ではインホイールモーター(リアホイールにもーたーを内蔵)の電動バイクにも乗りましたが、重量のあるものをどこに持ってくるのかが変わるだけで、走りの感覚にこれほど影響するのか、と感じられました。
電動バイクは発展中のカテゴリーですから、断ずるべきではないと思っています。しかし、これまでにスクータータイプを含め、何種類かの電動バイクに乗ってきた経験を踏まえてあえて私見を述べるなら、現時点で、趣味として走る楽しみを感じる電動バイクとしてはこうしたセンターモータータイプがベターなのかもしれないと、このバイクに乗って考えさせられました。
また、UKKO Sが持つトルク感とその重量とのバランスもいい印象を受けます。今回、ワインディングでスポーツライディングに近い走りを試してみたところ、カーブに入っていくときの車体との一体感が心地よく、出口では電動バイクらしいトルク感で高揚感のある加速を味わえました。
原付二種というサイズ感はほどよく扱いやすく、大きすぎないパワーも、小柄な筆者としてはポイントが高いところです。3つの走行モードのうち、「スポーツ」はアクセルを開けた瞬間のリニアすぎるトルクに戸惑いますが、それは立ち上がりでの抜群の加速となります。街中で考えれば、「ドライブ」がベターかもしれません。こちらはそこまでアクセル操作に神経を尖らせることなく、かつ交通の流れに乗る加速があります。一方、「エコ」では少々物足りないため、使用するシーンは限られるでしょう。
確かに電動バイクのパワーの出方は内燃機関のそれとは異なり、走り方にも適応が求められます。しかし、そうした電動バイクらしい走り方を模索するのもまた、面白いと思えるバイクなのです。純粋に、走る楽しみを追求できるバイクだと感じました。
もちろん、「こうだったらなあ」とついつい改善点を挙げたくなる部分はあります。例えば、ブレーキをかけると出力がカットされる点。これはTROMOXの全モデルに共通する特徴です。というわけで、ブレーキを引きずる走り方はできません。
低速走行でも同様で、これには少々不便を感じました。アクセルだけでスピードをコントロールできればいいのですが、少なくとも筆者の場合は低速をコントロールするために出力がマイルドな「エコ」モードを選ぶ必要がありました。また、走行中、路面の凹凸によってガタガタという振動があり、それがライダーにまで伝わってきて、少なからずバイクの挙動にも影響しました。これは110kgという軽量な車体やサスペンションの硬さ、ライダーの体重(42kg)も影響していたように思いますが、少々気になったところです。
とはいえ、それらを差し引いても、これほど走る喜びを感じられる電動バイクが原付二種というカテゴリーで登場したことに、にやにやしてしまうのを止められないのです。
街乗り用やエントリーバイクとしても期待が持てますし、セカンドバイクとしても十分に活躍してくれるでしょう。それでいて、同じ原付二種の内燃機関のバイクよりも、気負いなく乗れる感覚。バイクに乗る楽しみ、そこに一歩を踏み出すハードルを、ひょいと超えていく気にさせてくれるバイクではないでしょうか。
TROMOX UKKO Sのメーカー希望小売価格は、64万9800円(消費税10%込)です。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。